第66話 ダンジョン ??階
これは困った事になった。
さっきまではピンチと言っても、まだ助けが来るという希望があった訳だが、今はどうだろうか?
この転移が同じ階への転移なら特に問題ない。助けが来るまでここで待っていればいい。むしろ状況は好転したと言っていいだろう。
しかしこの転移が違う階への転移だった場合、助けが来る事はないだろう。自力で帰らなければならない。
せめて上の階への転移なら弓で魔物を倒しながらゲートを探して、帰れるかもしれない。下の階に転移していたら、もうダメかもしれない…………。
それにしても1人になるのは久しぶりだ。常にブタちゃんが近くに居たのでそれが当たり前になっていたが、急に1人になると心細い。余計に悪い方に考えがいってしまう。
気持ちを切り替えて周りを見渡してみる――。
壁の色を見ると先ほどと変わらないようだ。おそらく20階台のどこかではあると思う。それだとまたスケルトンを相手にしないといけないので、自力で帰るのは難しい訳だが…………。
この転移先は落とし穴に落ちた時と違い安全なようだ。小部屋に出口が2つあるが、それ以外は何もない。
ずっと走り回っていたので疲れてしまった…………。ここで少し休憩しよう。
水を飲み、マジックバッグから干し肉と、空のポーション瓶に詰めたマヨネーズを取り出して干し肉にかける――。
ウマー。
あのパサついた干し肉がマヨネーズをつけるだけで、こんなにもジューシになってコクがでるなんて素晴らしい。
鮮度を保つためにマジックバッグに入れておいて良かった。マジックバッグの中の時間が止まっているなら、調理済みの物を入れても良い気がするけど、食べ物をそのまま入れるのには抵抗がある。
タッパーなどの密閉容器があれば良いのだが見た事はない。おそらくないだろう。弁当箱くらいは作れそうだが、米がないと俺の食べたい弁当にはならない。
「はぁ、お米食べたいな…………」 思わず口からため息が漏れてしまった。
「おい、誰かそこにおるのか?」
!?
急に声が聞こえてきて心臓が止まるかと思ったが、誰か居るのかはこっちのセリフだ。今のはおそらく左の通路の奥から聞こえてきたと思う。しばらくじっと待っていたが、誰も通路から現れることはない。
今のが幻聴でなければ人が近くに居るようだ。向こうも姿を現さないのは警戒しているのかもしれない。こちらも警戒はしているが、人が居るのなら協力してダンジョンからの脱出を目指す事ができると思う。きっと向こうも似たようなことを考えて声を掛けてきたような気がする。
「はい、私は探索者のマコトと言います。そちらはどなたですか?」
「余はモナネ王国、国王ヴィルヘルム5世だ」
!?
国王? いやそんなのがこんな所に居るはずがない。嘘をついているか、狂っているのだろうか。
「国王様ですか? お一人なのでしょうか? なぜこのような場所に?」
「そうだな、ここで変にごまかしても意味がない。正直に話そうと思う。余は息子に暗殺されてしまったのだ。息子と言っても第3王子になのだが…… 果たして何故暗殺など企んだのか…………。まあそれは今考えても意味のないことだ。暗殺される前に余は転生の指輪を幸運にも手に入れて身に着けていたおかげで、今ここに転生して存在しておる。問題は転生先だ。ここはモナネ王国なのか? 同じ時代に転生できたのか? 確かめたいと思うのだが、どうだ?」
「私はモナネ王国という名前に心当たりはありませんが、田舎者なので地理に詳しいわけでもありません。ここはカルタヤという町のダンジョンの中です」
「そうかダンジョンの中だったのか、どうりで魔物にばかり出会う訳だ。そして余の領土にカルタヤという町は存在しない。ここはモナネ王国ではないようだ」
「ここは確かコルドバ王国だったと思います」
「何? コルドバ王国…… そんな小国があったような気がするが、解らん。相当離れた土地に転生してしまったか、もしくは…………」
何やら考え込んでいる様だ。まあ転生したのなら色々な可能性があるよね。異世界転生とか流行っているし――。
しかし、会話はしているのに姿を現さないのはどういう事だろう? やはり高貴なるものは下賤なものの目に触れてはならないのだろうか?
「ふむ、何にしてもこのダンジョンから出なくては解らんな。案内を頼めるか?」
「ご案内したいのですが、私も仲間とはぐれ、道にも迷っていて正直ここが何処なのかも解らない状態です」
「さようか、お主も大変だな。まあそれでも1人よりも2人の方が良いだろう。余の供を許すぞ」
「ありがとうございます」
さて向こうからパーティーメンバーに誘われた時はどうなのだろう?
『ヴィルヘルムをパーティーに加入しますか?』
ああ、問題なくパーティーメンバーになったようだ。
ステータスを見る事ができる――。
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