第68話 スケルトン 1
「これで陛下は私の奴隷となりました」
「さようか……何もしてなかったようだが? 何か変わったのか?」
「ええ、先ほどの口約束で大丈夫です。もう陛下は私に危害を加えたり、私のお願いを無下にはできないはずです」
「あまり実感はないが…………」
「それではこの銅の剣で私に切りかかってみてください」 マジックバッグから銅の剣を取り出してヴィルヘルムに渡す。
銅の剣を受け取ったヴィルヘルムは振りかぶって俺に向かって剣を振り下ろそうとするが、振り上げた剣はヴィルヘルムの頭上でピタリと止まり振り下ろすことができない。
「おお、お主の言う通り。体が言う事を聞かん! お主に危害を加える事は無理みたいだ」 俺に剣を振り下ろすことを諦めると、剣は普通に下ろすことができたようだ。
「ふうむ、不思議なものだな」
「私の奴隷になったという事です。ところで陛下は剣を扱えますか?」
「剣術は王家の嗜みだ。当然、習熟しておる」
「それでは、その銅の剣でスケルトンと戦って貰いますね」
「それは構わんが、前にスケルトンと戦った時は互角の戦いを繰り広げているうちに、スケルトンの増援が来てしまって勝てなかったのだ」
「今回は剣もありますし、私の奴隷になったので大丈夫ですよ。まず1匹倒してみましょう」 2人でゲートを探して歩き出した。
「ふむ、しかしこの剣……銅の剣? 何故、銅で剣など作るのだ? 柔らかくないか?」
「安物ですいません……。型で量産できるので庶民では一般的に使われている物みたいです」
「さようか……」
「あ、陛下。あそこに1匹スケルトンが居ますよ。よろしくお願いします」
「うむ、任せておけ」
ヴィルヘルムは頼もしい言葉を吐き、スケルトンにカタカタと近づいていく。向こうからもこちらに気が付いたスケルトンがカタカタ近づいてきた。
2体のスケルトンがお互いをぎこちなく殴り合っているが、さすがに銅の剣で殴っているヴィルヘルムの方が優勢だ。
しかしヴィルヘルムは剣術がどうのと言っていたが無茶苦茶殴っているだけのようだ。それでもスケルトンの頭を銅の剣でかち割り、ヴィルヘルムが勝利した。
「流石ですね。陛下」 俺はヴィルヘルムに声を掛けながらスケルトンの頭から魔石を拾う。ヴィルヘルムの頭の中にも魔石が入っているのだろうか?
「力は前にスケルトンと戦った時よりもあったようだが、どうもこの体は動かしにくい。せっかく剣を持っているのに王国流剣術が全然使えなかった…………。それはそうとお主は何故戦わないのだ?」
「私は弓で戦うのですが、弓だとスケルトンに効かないのでお役に立てないようなのです」
「お主は何を言っておるのだ。確かに弓矢だけではスケルトンは倒せないだろうが、奴らの関節に矢を打ち込めば動きを阻害する事ができるであろう」
「おお、さすが陛下。その様な事まで知っているのですか? ご指導ありがとうございます。次からやってみます」
「うむ、余も軍を率いて魔物討伐などをしていた身であるからな。それぐらいの知識はあるぞ」
なるほど……スケルトンに矢が効かないと言っても刺さらない訳ではなかったから、肘とか膝に矢が挟まれば動きが鈍るという事かな。
でも、まあそれよりもヴィルヘルムを強くしてしまった方が早いだろう。
名前:ヴィルヘルム
種族:アンデッド 性別:男
職業:スケルトン(奴隷)
レベル:4
スキル:
《習得してないスキル》剣術
スキルポイント 3
やはりレベル1からだと上りが早いな。スケルトン1体でレベルが3も上がった。さっそくヴィルヘルムの剣術を上げておこう。 剣術0→3
その後は俺も現れるスケルトンの膝蓋骨を撃ち抜いたりして援護していたおかげか、ヴィルヘルムはさほど苦労せずスケルトンを倒していった。
「うむうむ、やっと体がなじんできたようだ。我が剣のさえも戻ってきたな。これで愛剣のブリュンヒルドがあれば言う事ないのだが……」
何やら調子に乗ってきたようだが、俺から見ると骸骨2体がワチャワチャやっているので、どっちがヴィルヘルムの膝なのか紛らわしい。だんだんとヴィルヘルムの動きが良くなって素早く動くようになってきたので、なおさら弓の狙いが定めづらくなってきた。もうスケルトンが1体だけの時は手を出さなくて良いだろう。
「さすが陛下はお強いですね。スケルトンは以前にも討伐された経験があるのですか?」
「うむ、若いときは国内でアンデッド発生となれば、軍を率いて討伐に行っておったな。しかしスケルトンはもっと耐久力があって強かったような気がするのだが…………。ここのスケルトンは脆いのではないか?」
「そうなのですか? 私はスケルトンに詳しくないので解りません」
「ふうむ、こんな剣で切れるとは思わなかったが、余の力が生前より強くなっているのか?」
「そうかもしれません。人間よりもスケルトンの方が力は強いと思いますし、それに私の奴隷は強化されるのです」
実際はレベルがどんどん上がっているからと言うのもあると思うけど、スケルトンはレベル1でも元から強かったのかもしれない。どうもブタちゃんがスケルトンの頭をパカパカ割るから弱そうだと思っていたが、本当はそんな事ないのだろう――。
この転移先は何階か解らなかったが、スケルトンウォーリアも出てこないし、スケルトンの数が少ないので21階とか22階とかその辺りな気がする。ゲートを探して歩き回っているが、今はヴィルヘルムが居るのでスケルトンは怖くない。それよりも罠が怖い。気を付けているつもりだが、どこにあるのか全然解らない。運よくまだ罠を踏んでいないので助かっているが、もう転移やら落とし穴は勘弁だ。
しばらく慎重に歩き、次の曲がり角を覗いてみると――。
おお、ゲートが青く光り輝いている。何とか無事にピンチを切り抜けられたようだ。
「陛下、あの青いのがゲートです。あれをくぐればダンジョン1階に移動して、外に出る事ができます」
「さようか。意外と近かったな」
ヴィルヘルムの感覚では近かったのか……罠に怯えながらの移動は大変だった上に結構な数のスケルトンを倒したのに…………。
おかげでヴィルヘルムはレベルが9まで上がってしまった。剣術スキルも8だ。なかなか苦労したと思うのだが……しかし今はそれよりもヴィルヘルムをどうするかだ。
「1階に移動すると人も増えますので、このまま行くと陛下は他の探索者に攻撃されてしまいます」
「なんだ、お主の奴隷になれば解決するのではなかったのか?」
「それを他の人にも一目で解るように首にロープを巻かせて貰います。あと少しでも魔物に見えないようにマントも着ておきましょう」
マジックバッグからロープとマントを取り出してヴィルヘルムに装着する。フードを被せて、後はブーツでもあればだいぶ骨の部分を隠せるのだが今は持っていない。
「マントはいいが、首にロープを付けて引っ張られるのはカッコ悪くないか?」
「陛下、カッコイイ奴隷と言うのは居ませんよ。さあ行きましょう」
俺は少し強引にロープを引っ張りながらゲートをくぐった――。
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