第55話 教会 1

「さて次はマントを鑑定しないとな。アイテムの鑑定は教会でお願いするんだっけ?」


「そうだぜ、教会はこっちだ。シスターいるかなあ」


「シスターか、そういえばまだ会った事ないな。名前は何ていうんだ?」


「シスターアナスタシアだぜ。長いから皆シスターって呼んでるけどな」


 ずいぶん立派な名前だ。きっと名前にふさわしい聖職者なのだろう。


ケインに案内されて町の南側に少し行くと大聖堂という言葉がピッタリな建物が見えてきた。荘厳な作りで思わず頭を下げたくなるような威光に満ちている。


「この建物に入るのか? こんな汚い格好で大丈夫か?」


「教会だぜ? 大丈夫に決まってるだろ? 神様の前では金持ちも貧乏人も平等だぜ」


 確かにその通りだが立派な教会過ぎて尻込みしてしまう。あ、ケインが正面から堂々と入ってしまった。これは俺たちも行くしかないか…………。


 中に入って辺りを見渡すとケインがさっそくシスターと話しているのを見つけた。あれがアナスタシアさんだろうか?


「マコト兄ちゃん、こっちだぜ。ちょうど良くシスターが居たぞ」 ケインがこちらに手招きしている。


「こんにちは、マコトさん。私はアナスタシアと申します。こちらの教会のシスターです。マコトさん達の事はロレッタから聞いていました。今日はお会いできて嬉しいです」


 アナスタシアさんは清楚な美人と言うよりも可愛らしいお嬢さん。それでもシスター服のせいなのか、ただ可愛いだけじゃない威光を感じる。


「初めましてマコトです。探索者をしています。ロレッタとケインにはいつもお世話になっています。ちなみに我々は孤児院に宿泊させて貰っているのですが、大丈夫でしょうか?」


「もちろんです。本当は私たち教会から誰か派遣できれば良いのですが、どうにも人手不足で孤児院の管理ができていません。今までは子供だけで心配だったので私も暇を見つけては様子を見に行っていたのですが、私だけではあまり役に立てていませんでした。マコトさん達のような信頼できる大人が住み込みで孤児院を管理してくれるのが一番です」


「信頼できる大人ですか? 探索者などはあまり信頼できる職業ではないと思いますが?」


「探索者は解りませんが、マコトさん達は子供たちの信頼をしっかりと掴んでいます。子供たちは私たちが思っているより賢いです。特に孤児院の子供たちは疑い深く、人の悪意に敏感です。その子たちが信頼できると言うのですから、それ以上の保証はありませんよ」


「そうだぜ、兄ちゃんたち以上の信頼できる大人なんていないぜ」


 そんなに子供たちに信頼されていたのか…………。


 心が痛い。宿屋代が浮いてラッキー位に考えていたのだが…………。


「それはこれからも孤児院に泊まって良いという事でしょうか?」


「泊まると言うよりも出来れば住んで頂きたい。もっと言えば孤児院の院長をお願いしたいのです」


「院長? そんな重要な役職は私みたいのには無理じゃないですか? 私は最近この町に来たばかりのよそ者ですよ? 他にもっといい人がいるんじゃないですか?」


「院長と言ってもボランティア活動です。誰もやりたがりません。もちろん教会から給金などは払えませんし援助も厳しいです。その代わりあの土地と建物を好きにして構いません。土地と建物の権利は教会の物なので権利を差し上げる訳にはいきませんが、使う分には自由にしてください。どうか子供達の為と思って引き受けて貰えないでしょうか?」


 これは予想外の展開だ。まさか孤児院の院長とは……。なっても何もメリットがないような気がするから断りたいけど、逆にデメリットもないのか? 院長は断るけど孤児院には住みますというのは気が引けるし、名前だけの院長ならいいのだが…………。


「孤児院の院長になったら私は何をすれば良いのですか? 探索者の仕事があるのですが…………」


「特別何かしていただく必要はありません。マコトさんが院長であの孤児院を管理していると周りに解ればいいのです。マコトさんはこの町の有名人で……まあ、あまり評判は良くないのですが……とにかくマコトさんに院長になって頂ければ孤児院は安心なのです!」


「ど、どう言う事ですか? 私の町の評判とはいったいどうなっているのですか?」


「マコトさんの町の評判ですか? マコトさんはとても強いオークを従えて、孤児院を乗っ取り、子供や女奴隷を囮にダンジョンで荒稼ぎしている恐ろしい男との評判です。そんな恐ろしいマコトさんが孤児院を正式に手に入れれば誰も孤児院に手を出そうとは思いませんよね。マコトさん以上の適任者はいないのです」


「あ、もちろん私たちはマコトさんがとても優しい人だという事は知っていますよ。これから正式に孤児院の院長になって善行を積めば悪い噂もなくなると思います」


 俺は何も悪いことはしてないはずだが、どこで間違えたのだろうか? 確かにユウの首輪を掴んで町の中を引っ張り回したり、勝手に孤児院に住み着いたりしているのは不味かったのかもしれないが…………。


 ダメだ…………。詰んでる気がする。


 孤児院の運営を立て直して、子供好きな立派なマコトさんにならなくてはいけない気がしてきた。そうしないともう町を歩けない。


「解りました…………引き受けます」


「そうですか! 孤児院の院長を引き受けてくださるなんて、慈愛に満ちたなんて素晴らしい人なのでしょう! マコトさん! 子供たちをよろしくお願いします」


 ああ、引き受けてしまった…………。


 でも院長になったからと言って何か変わる訳でもないか? むしろ堂々と孤児院に住めるから良いのかもしれない。


「マコト兄ちゃん、引き受けてくれてありがとうな。これからは院長って呼ぶぜ」


「さすがご主人様です。この町に来たばかりなのに院長なんていう偉い人になってしまうなんて凄いです!」


 絶対ブタちゃんは良く解ってないな。でもケインが喜んでくれてよかった――。

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