第56話 教会 2

「院長の件は解りました。今日我々が来たのは鑑定して貰いたいアイテムがあるのです」


「マジックアイテムの鑑定ですね。ではこちらにどうぞ奥の部屋で鑑定させて頂きます」


 シスターの後に着いて礼拝堂から奥の部屋に移動する。その部屋は10畳ほどの部屋で真ん中に丸い水晶が置かれた大きめのテーブルがある。


「それではマジックアイテムを水晶と同じテーブルに置いてください」


 俺はマジックバッグから、今日宝箱からでたマントを取り出してテーブルに置く。


「それでは水晶を覗いてください――。これは身隠しのマントですね。効果はパーティーメンバー以外から身を隠すです。おめでとうございます。素晴らしいマジックアイテムですね。教会でもお引き取りできますよ。過去の引き取り額は金貨120枚だったと思います」


 マジックバッグよりも値段が高い! そんなに貴重なアイテムなのだろうか? いまいちピンとこないが…………。


「身を隠すというのはどういう事なのでしょうか?」


「そうですね。見た方が早いと思います。皆様とパーティーメンバーではない私が装備すれば効果が解ると思います」


 シスターはそういうとテーブルの上にあったマントで自分の身を包んだ――。


「あ! 消えたぜ!」 「ご主人様、シスターが居なくなってしまいました…………」


 マントを装備した瞬間にシスターの姿は見えなくなってしまった。身隠しって透明になるって事か?


「解りましたか?」 シスターが我々の横から声を掛けてきた。移動もできるらしい。


「身隠しのマントとはこういうマジックアイテムです」 シスターはマントを脱いで姿を現した。


「次はマコトさんがこのマントを着てみてください」 渡されたマントを俺が装備してみる。


「どうだ?」 


「何も変わらないぜ?」 「ご主人様は消えないですね」


「私からはマコトさんの姿は見えないですよ」 シスターが俺の方を見ながら話してきた。


 こっちを向いているが本当に見えてないのだろうか? 俺からは判断つかない。こっそりシスターの後ろに回ってみる。シスターはどうも気が付いてない様子だ――。


 シスターの脇腹でもくすぐってみるか? 何やら楽しくなってきたぞ。


「兄ちゃんダメだぜ!」 ケインに怒られた! 


 そうかパーティーメンバーからは丸見えだと言うのを一瞬で忘れていた。これは恥ずかしい…………。


「なるほど、パーティーメンバー以外から身を隠す。とても良く解りました」


 俺は何事もなかったかの様に身隠しのマントを脱いで姿を現した。


「ああ、後ろにいたのですね。当たり前の話ですが、悪用厳禁です。この教会にもありますが重要な施設や部屋などには結界が張ってあって、身隠しのマントなどのアイテムは効果が発動しなかったり、警報が鳴る場所もあります。トラブルの元なので町中などでは使わない事をおすすめしますよ。ちなみにこの部屋の警報は今切ってあります」


 これがあれば泥棒も暗殺もし放題だと思うけど、対抗策もちゃんとあるのだな。でもダンジョンでは使えると思う。特に最近はケインが魔物に襲われてケガしないか、心配だったからこのマントは丁度良い。


「そうなんですね。それではダンジョン限定で使わせて貰おうと思います」


「え? よろしいのですか? 金貨120枚ですよ? 他のギルドなどに持って行っても同じですよ? 教会で引き取らせて貰えませんか?」


 おお? なんか急にシスターがグイグイ来たぞ? 俺が他に売ろうとしてると思っているのかな?


「いえ、このマントは売らずにダンジョン内でのケインの安全のために使ってみようかと考えています」


「そうですか…………でも、それは良い考えかもしれません。魔物は身隠しのマントに気が付かないと思いますよ。結界もダンジョン内にあるとは聞いた事がないです。でも深く潜ればそういう結界もあるかもしれませんから、過信はしすぎない様にしてくださいね」


「マジか、俺がそのマント付けていいのか? やったぜ!」 ケインが浮かれているのでクギを刺しておかなくては――


「ケイン、過信しすぎるなって言ってるぞ」


「解ってるよ!」 まあケインは用心深いから大丈夫だろう。


「それでは、そちらのマジックバッグを引き取らせて頂きますね。マジックバッグは金貨100枚で引き取る事ができます」


 ? どういう事だ?


「マジックバッグも自分たちで使うので売る気はないのですが?」


「そうなのですか? 手放す予定だから使用者の固定をされてないのでは?」


「使用者の固定? とは何ですか?」


「マジックバッグは使う人を限定する事ができます。そうしないと狙われやすくなりますよ。奪えばその人の財産すべてとマジックバッグが手に入る訳ですから。使用者が固定されていれば奪っても中身は取り出せませんし、他の人がマジックバッグを使うことができないので、売る事もできません」


 そ、そうなのか? なんで誰も教えてくれないのだろうか…………という事は今までかなり危なかったのではないか?


「ケイン、知ってた?」 「いや、知らなかったぜ。 知ってたら借りたりできないぜ…………」 そりゃそうだな…………。


「どうやってその固定って出来るのですか? あと何で固定されてないって解るのですか?」


「固定されると色が変わるので解りますよ。もっと濃い茶色になります。それと固定は教会で出来ますよ。料金は金貨1枚になります」


 確かに俺の持っているマジックバッグは薄い茶色の革のバッグだ。今まで普通に腰につけていた訳だから狙ってくださいと誘っているようなものか…………。


「固定をお願いします。使用者は俺でいいか?」 一応ケインに許可を得ておかないとな。


「もちろん、いいぜ」 ケインは快く認めてくれた。


「それではこちらのテーブルにマジックバッグを置いてください。中身はそのままで大丈夫です」


 俺がマジックバッグをテーブルに置くとシスターは何やら小声でつぶやきだした。呪文かな? 何やら神様にお願いしているようだ。少しの間見ているとマジックバッグが光だす。


「それではマジックバッグに使用者が触れてください」


 俺がマジックバッグに触れると光は収まり、マジックバッグの色は黒っぽい茶色に変化する。


「これでマコトさん以外はマジックバッグを使用できません。当たり前ですが使用者の変更はできませんよ」


 確かにそんな事ができたら固定した意味がない。


「ケイン、試しに使ってみてよ」 マジックバッグを持ってケインの方に向ける。ケインはマジックバッグに手を入れるが――


「空だぜ」 ケインは中身に触れないようだ。


 俺も手を入れてみるが俺は目当ての物をしっかりと掴むことが出来る。回復ポーション思い浮かべて手を引くと手にはしっかりと回復ポーションが握られていた。


「大丈夫そうだな」 シスターに鑑定代と固定費の金貨2枚を渡す。


「ありがとうございます。確かに金貨2枚受け取りました。ところでマコトさんは教会への献金に興味はありませんか? 聞いた話ではダンジョンで大変な活躍をされているそうですね。その一部でも献金して徳を積まれてみてはいかがでしょうか?」


 献金って寄付とかお布施とかって事だよな。魔法のある異世界の教会だから献金して徳を積むと何か特別な効果があるのか? 神聖魔法が使える様になります! とかだったら喜んで寄付するのだが…………。


「シスター、マコト兄ちゃんは院長になったんだから献金する金があったら孤児院の為に使ってもらうぜ。今までだって結構な金額を孤児院の子供たちの為に使ってるんだからな」


「そうでしたね。それでも献金はいつでも受け付けておりますので、気が向いたらお立ち寄りください」


「ええ、また鑑定などお願いしに来ると思いますので、よろしくお願いします」


 別れの挨拶を交わすと俺たちは教会をあとにする。シスターは俺たちを出口まで送ってくれて教会を離れてもまだ手を振ってくれている――。


「院長、献金はしなくていいからな。シスターは良い人だけど会う人全員に献金を求めるから、そこは評判が悪いんだぜ」


 ケインは俺の事を院長と呼ぶようにしたようだ。何か院長らしい事ができるといいのだが…………。


「献金すると何かいいことがあったりしないのか?」


「さあ? 別にないと思うぜ。シスターも王都の教会本部からノルマを言われて集めてるらしいからな。月末はいつも献金だ寄付だって町の金持ちの周りを走り回ってるぜ」


「そ、それは大変だな…………」 正直ショックだ。ファンタジーな異世界の教会なのに金集めに必死だなんて…………。


 でも確かに想像していたより教会の建物が立派だった。孤児院に施しも出来ないような教会には見えなかったが、教会の収入は建物などの教会の威光を高める物には使われて、もっと献金が集まるようにしているのだろう。当然それ以外は本部に集金されて、教会上層部のポケットに入るのかもしれない。


 シスターには悪いがこの世界の教会はあまり信用できそうもないようだ。しかし、その教会の下部組織のトップに俺は就任してしまったみたいだが、大丈夫なのだろうか?


 まあ教会にはあまり関わらないようにした方がいいだろう――――。

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