第39話 10階ボス 1

 今日は10階のボスと戦う予定だが特別な準備は必要ないだろう。手早く朝食をすませてダンジョンに向かう。


 10階の地図はできあがっているので、最短でボス部屋まで行く事はできるが、それでも距離は結構ある。2時間はかかるだろう。


 ユウの扱いも慣れてきたと言うか、ユウが戦闘に慣れてきた様に感じる。


 最初の頃よりも言うことを聞くようになってきているし、戦闘の流れも少しは理解しているようだ。


 キラービーを倒しながら、広い10階のダンジョンを進んでいる。ユウも大きな問題は起こしていない――――。


 大きな両開きのドアの前に着いた。ここがボス部屋のようだ。


「この先にボスがいるのか?」


「たぶんそうだぜ」


「中に入ったらボスのクイーンキラービーはブタちゃんにおさえて貰う。その間に他のキラービーを倒すから。ブタちゃんは無理せずボスを引き付けていて欲しい」


「はい!」


「行くぞ!」 気合を入れてドアを押し開ける。


 ドアを開けると今までの様な通路ではなく、広々とした部屋に出た。


 部屋の真ん中あたりに魔物の集団が見える。集団のさらに真ん中のひと際大きな蜂がボスのクイーンキラービーなのだろう。


 ブタちゃんが魔物に向かって走り出す。まだ距離はあるが魔物もすでに気が付いているようで、こちらに向かって飛んできている。


 ユウは先ほど伝えた作戦を解っているのか、ブタちゃんと距離を取ってまだ走り出しはしていない。ブタちゃん以外の3人はゆっくりと魔物に向かっていく。


 するとユウがまだ魔物とは距離があるのにもかかわらず急に剣を上段に振りかざし、真直ぐ縦に振り下ろした。


『シュバッ!』  何か出た!


 ユウが振った剣の先から衝撃波が生まれ前方に走っていく、それはブタちゃんを追い越してその先に居たクイーンキラービーを真っ二つに切り裂いた。


 ユウはクイーンキラービーを倒したのを確認する間もなく走り出し、ようやくキラービーと接触したブタちゃんに追いつき剣をふるう――――。


 俺が弓を射る間もなく戦闘は終了してしまった……。


 すでに全ての魔物は地面に落ちて動くものはない。


「もう終わったのか?」 ケインがポツリと呟いた。


「そうみたいだが、早すぎだろ……。 作戦などまったく必要なかったな。ユウがこんなに強いとは思わなかった」


 ボス戦だと思って身構えていたのがバカみたいだ。むしろ広い部屋で戦えたせいか、いつもより戦闘終了までが早かったと思う。


「ユウはめちゃくちゃ強いんだな。 お、奥に宝箱があるぜ」 ケインはそう言うと走り出した。


 ボスは宝箱を落とすのか? いや部屋の奥に宝箱が置いてあるな。ボス部屋には設置してあるのかもしれない。


「鍵も罠もないみたいだから、俺があけちゃうぜ!」 そうケインは言うと返事をする間もなく箱を開ける。


「うおおおお! マジックバッグ出たぞ!」


 ケインは何やら小ぶりのカバンを両手で持ち上げている。


「一人で何を騒いでるんだ?」 俺はケインに近づきながら話しかけた。


 ブタちゃんも不思議そうにケインを見ている。ユウは虚空を見つめている。


「マジックバッグを知らないのか? 全ての探索者のあこがれだぞ。これを持ってこそ一流の探索者だ。売れば大金貨ものだぜ」


「大金貨ってたしか金貨100枚だろ? そんなに価値があるものなのか?」


「どんなアイテムもしまえる魔法のカバンだぞ。長くダンジョンに潜るには必要だし、大きくて重い素材もこれなら持ち帰れる。誰もが欲しがるが、滅多に出ない超レアアイテムだぜ」


 ボス部屋の宝箱はガチャ要素があったのか、これはケインとのシナジー効果が美味しいかもしれない。


「ボス部屋には必ず宝箱があるのか? それなら毎日周回した方が良いか?」


「宝箱はあると思うけど、これは超ラッキーなだけなんだぞ。10階の宝箱からマジックバックがでたなんて聞いた事ないぜ」


 ケインが宝箱を開ければ超ラッキーはまた起きると思うけど、今の話だと下の階からの方がもっと良いアイテムが出るという事なのだろうか? 結局先に進むことが大事そうだな。


「20階までいけば、またボス部屋があってもっといい宝箱があるという事か?」


「まあそうだぜ」


「そうか、まあ20階を目指しつつたまには10階のボスを倒すというのも良いかもしれないな。とりあえず、そのマジックバックはケインが持っててくれ。素材採集に使うだろ」


「いや、確かに便利だけど子供に持たせておくものじゃないぞ。俺が持っている所を見られたら狙われちゃうぜ」


「確かにそうかもな。じゃあ俺が持つけど用心しないといけないか……。ちなみにこれは売らないでパーティーで使うって事でいいか?」


「売らないで使った方が良いぞ。ダンジョン探索には必須アイテムだぜ」


「そんなにいいものを手に入れてしまうなんて、さすがご主人様ですね」 


 ブタちゃんは褒めてくれたがこれはケインの手柄なんだ。と言っても証明のしようがないが……。


「ホントそうだな。マコト兄ちゃんはラッキーマンだぜ」


 本人に言われるとさすがに否定したくなってくる。


「いやあ、ケインがラッキーマンなんじゃないか? ケインが宝箱を開けたろ?」


「俺は今までダンジョンに潜っていて、こんなラッキーは起きた事ないぜ。だからマコト兄ちゃんがラッキーマンなんだ。今日だけじゃなくてもマコト兄ちゃんとダンジョン来るようになってから、ラッキーな事が多いからな。アイテムも良く拾うし、前はあんなにアイテム落ちてなかったぞ」


「そうなのか? 普通が解らないからな。これ位アイテムは落ちてるのかと思ってたよ」


「いやいや、こんな上の方でアイテムなんて普通落ちてないぜ。もっと下に潜ったら今度は何が落ちてるか恐ろしいよ」


 やっぱり否定しても証明のしようがない。このまま受け止めるしかなさそうだ――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る