第37話 奴隷2人目 4
食堂に行くとロレッタが夕飯の準備をしている。子供達とユウはすでに食卓に座っていた。相変わらず虚空を見つめている。
「今日もマコトさんに教わったクリームシチューにしてみました。味見してみてください」
一口いただく 「俺が作ったのと同じ味だね。美味しいよ」
ユウにも食べさせて反応みてみようと思い、スプーンをユウの口に運ぶ。
パクリと食べたが、特に反応はない。
それを見ていた子供達がユウに食べ方を教えたり、食べさせてあげたりとしだした。ユウは人気者だ。大人の世話をするというのが子供たちの楽しみのツボにはまるのだろうか?
「ユウは大人気みたいだな」 ケインに聞いてみる。
「ユウは大人しいからな。お人形扱いされてるぜ。おままごと感覚で遊ばれてるんだろう」
確かに放っておけば動かないから人形の様なものか……。
しかし子供たちに未だに怖がられているブタちゃんとの違いはなんだろう? 大きさだろうか?
ブタちゃんは縦にも横にも大きくて、顔は可愛らしいが体は威圧感があるのかもしれない。
その点ユウの背は俺より小さく、体も華奢でキレイな顔立ちをしている。まさにお人形と言うのはピッタリとユウを現わしているのかもしれない。
「それと子供達が今日はユウと一緒に寝たいって言ってるぜ」
「それは構わないが、おねしょするかも知れないぞ」
「子供達もするからな。おねしょ位しても大丈夫だぜ」
ユウの分のベッドも注文しなくては思っていたが、ベッドでおねしょされると厄介だから辞めておこう。ユウは子供達と一緒に寝て貰った方が良さそうだ。
「じゃあしばらくユウはそっちで子供達と一緒に寝て貰おう」
一緒に食事をしていたロレッタもうなずく
「はい、その方が子供達の寂しさも紛らわせて良いと思います。未だに寂しさで夜泣きしてしまう子もいるので……。ユウさんのおねしょやトイレは私が連れて行きますよ」
ロレッタが世話してくれるというのは一番助かるかもしれないな。
ケインも設定では男の子なのだから、トイレとかオムツとかダメだと思うのだが、誰も突っ込まない。子供だからいいのか?
「ロレッタがお世話してくれるなら安心だ。ユウをよろしくね」
「はい、お任せください」
心配していた生活面のお世話は意外とどうにかなりそうだ。逆に戦闘面の方が言う事を聞いてくれないと連携がとれない。
これは明日の課題だな――――。
朝起きて食堂に座っていると大勢の子供達に連れられてユウが食堂に現れた。
「ユウはおねしょしなかったか?」
「はい、寝る前と起きてからトイレに連れて行ったら大丈夫でしたよ」
ロレッタが約束通り連れて行ってくれたようだ。
「それなら良かった。聞いていた話だとオムツ必須みたいな事を言ってからな」
あの奴隷商も大げさに言っていたのかもしれないし、もっと雑にお世話されていたのかもしれない。
朝食をすまして今日のダンジョン探索の準備をする。
装備はユウの全身を革装備にしてマジックアイテムも全てユウに装備させてしまう。
あの暴走具合だとユウが一番ダメージを受ける可能性が高そうなのと、ブタちゃんはダメージを受けても回復するのでマジックアイテムは必要がないのではと考えた。
俺とケインはダメージを受けないように動くので、そもそも防具があまり必要ない。そのうち揃えたいとは思うが後回しだ。
今日は最近良く行っていて慣れている10階のキラービーでユウを試してみようと思う――――。
10階に着くとユウが落ち着かない。また走り出しては困るので後ろから首輪を掴んでおく。
「ケイン。ユウが暴走しない様に抑えておくから、先に行って魔物が居ないか、見ながら進んでくれ」
「おう! 任せろ」
ケインが先に進み、少し離れてブタちゃんとその後ろに俺と首輪を掴まれたユウが進む。
ユウはいつもの放心状態と違い、キョロキョロと辺りを見回して警戒しているようだ。
先に進んでいるケインが手を挙げた。
魔物を見つけたのだろう。ブタちゃんに目配せをして先に進んでもらう。
ユウもブタちゃんに付いて行こうとしたが、首輪を後ろに引いて行かせない。
ケインが戻ってきてブタちゃんとすれ違い、ブタちゃんが先頭で進む。ブタちゃんの向こうにキラービーが見えた。
ユウにも見えたのか前に行こうとするがまだ行かせない。
「ユウ、待て。まだ行くな。ブタちゃんが先に魔物と戦いだすまで待つんだ」
ユウの目は魔物にくぎ付けで、俺の話が理解出来ているのか解らない。
ケインがこちらまで戻ってきた。キラービーもブタちゃんに気が付き、戦いが始まりそうになった時――。
急にユウが前方に走り出した。しっかり首輪を掴んでいたはずなのに、ユウの一瞬の加速で俺は抑えきれずに手を放してしまった。
ユウはあっという間にブタちゃんに追いつき、キラービーを剣で切り払いながらさらに奥へと走り抜ける。
ブタちゃんはまだ生き残っているキラービー2匹を相手にしているが、戻ってきたユウがあっさりと後ろからキラービーを切り伏せた。
「ユウはめちゃくちゃ強いじゃないか、なに今の凄い!」
ケインが興奮した口調で騒いでいる。
確かに今のスピードはやばかった。剣術スキルをあげたせいか剣をしっかりと使いこなして、キラービーを一撃必殺で仕留めてみせた。
しかし出来れば俺の合図まで待ってから行動してほしかった。結果的には良いタイミングで動き出した様なので文句は言えないが、せめてブタちゃんがキラービーに一撃加えてから動き出した方がもっと良かったと思う。
「確かに凄かったな。でも次は俺が攻撃の合図をするから、それまで待てよ」
ユウは辺りを見回して俺の話を聞いてないように見える。これは言う事聞きそうにないな……。
どうやらこのままだと俺の命令は聞きそうにない。
首輪を放さなければ良いのかもしれないが、さっきの勢いだと俺の力では掴んでいられないと思う。そもそもユウが俺の命令を聞くようにしたいので、力で抑えられてもしょうがない。
「ユウ、ご褒美にこれをやろう」
俺はポケットから干し肉を取り出した。ユウがこちらを向いて俺の差し出した干し肉を見ている。興味は引けたようなので、ユウの口元に干し肉を押し込む。
ユウは『クチャクチャ』と干し肉を噛みだした。
「今のは良かった事にするけど、次はちゃんと待てよ」
さっきよりも話を聞いてくれた気がする。これを何回も繰り返して覚えてもらうしかないようだ。
「ご主人様、私もご褒美欲しいです」
ブタちゃんが何か言っているので、無言でブタちゃんの口の中に干し肉をねじ込む。
何か余計な仕事が増えてしまったようだ…………。
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