第32話 ダンジョン10階 3

 武器屋に弓を見に来たがマジックアイテムはないようだ。


 どれも奇麗で新品の様に見えるので職人の手作り品かもしれない。マジックアイテムはダンジョン産からしか発見されないという事もあると思う。


 とりあえず一番安い金貨5枚の弓を購入する。矢も10本付けてくれた。


 さすがに今まで使っていた自分の手作りの弓よりも出来が良い。買うときに聞いたら、やはり職人の手作り品であった。


 値段の違いは素材の違いらしいが詳しくは聞かなかった。きっと値段の高い弓の方が威力は上がるのだろう。


 次はお世話になっている孤児院で手料理を振舞ってみようと思う。


 就職に失敗してからのニート時代、母親から無理やり手伝わされていた料理が、この様な時に役に立つとは思いもしなかった。こちらの世界に来てから両親の有難さが身に染みる。きっと離れてみないと解らない事があるのだろう。


 広場をグルリと見回してみると肉屋の近くに食料品が並んでいる場所があった。野菜や卵が並んでいる。


「今日は俺も料理をしてみようかな」


「それは素晴らしい考えです。ご主人様の料理は最高ですからね」


「じゃあ、ちょっと食料品店をみてみよう」


 日本でもみかけた野菜はだいたい揃っているようだ。調味料は塩、コショウ、ニンニク、唐辛子、見た事のないハーブ類が並んでいる。ハーブは匂いを嗅いでも良く解らなかった。それと麦や小麦粉が並ぶ。乳製品は見当たらない。


「すいません、牛乳はありませんか?」


「牛乳やチーズは店の中だよ」露店のおばちゃんが教えてくれた。


 食料品店に入ると露店のおばちゃんよりも、もう少し年配の女性が出迎えてくれた。


「いらっしゃい、何がいるかね?」


「牛乳とチーズと、あとは何がありますか?」


「店内では他にバターと卵とビネガーとワインだね」


「牛乳が欲しいんですけど、入れ物が必要ですかね?」


「なんでも良いから入れ物を持ってこないと持って帰れないよ」


「そうですよね。また来ます」


 しょうがないから一度孤児院に戻る事にする。本当はベッドも見たかったけどお金が足りないだろうから、ベッドはまた稼いでからにしよう。


「ブタちゃん、一度戻るよ」 「はい!」


 孤児院に着くとケインはもうすでに戻っていた。食料品店で会わなかったので当然な気もするが買い物も手際が良いな。


「ケイン、今日の夕飯は俺も作ろうと思うんだけど良いかな?」


「おお、兄ちゃんが作った料理が食べれるなら楽しみだな。妹の料理もうまいけど同じ味だと飽きてきちゃうんだぜ」


「牛乳を使いたいんだけど買ってないよな? あと料理していいかロレッタにも聞いてみる」


「牛乳は容器が必要だから買ってないんだよな。人数分買うと重いし」


「荷物運びなら私がしますよ。重くても大丈夫です」


「じゃあ俺と姉ちゃんで買って来ても良いぜ? 他に必要なものあるか?」


「小麦粉はあるからバターを頼むよ」 ケインに銀貨5枚を渡す。


「こんなに掛からないと思うけど預かっておくぜ」


「それではケインいきましょう」ブタちゃんが台所のツボを担いで歩き出す。


 俺は台所に向かうとすでにロレッタが料理の下ごしらえを始めていた。


「ロレッタ、今日は俺にも夕飯作らせてくれないか?」


「マコトさん、良いんですか? 私は料理のレパートリーが少なくて今日の夕飯が思いつかないから、また昨日と同じシチューを作ろうと思っていたんです」


「それなら丁度良い、今日はクリームシチューを作ろうと思ったんだ。料理のレパートリーが少ないなら、それを覚えれば良いよ。」


「私も手伝うので是非教えてください」


「昨日のシチューと途中までは作り方同じだと思うよ。だからそのまま野菜とかの下ごしらえは続けよう。ただ味付けはしないでおいてね」


 俺の料理道具も台所に置かせてもらい、2人並んで仲良く野菜やお肉を切っていく。子供たちとブタちゃんが食べる分を合わせると大量の食材が必要だ。


 ここには大きな鍋があるので野菜と肉を煮るだけのシチューは大量に作るには楽な料理なのだろう。今日はそのアレンジでクリームシチューにしてみた。


 カレーも良いけどスパイスもお米も売ってなかったから難しいな。


 鍋に具材を全ていれて煮ているとケインとブタちゃんが帰ってきた。


「おかえり、牛乳とバター買えたか?」


「両方買えたぞ。金も余ったから返すぜ」


「いやその金は今日の他の夕飯の食料代だ。ブタちゃんがいっぱい食べるからな」


「そうか? それなら貰っておくけど、食事代はそんなに気にしなくていいぜ」


 ブタちゃんが台所に牛乳の入ったツボを降ろして、ケインが抱えていたバターを台所に置いてくれた。


「ロレッタ、さっそくベシャメルソースを作ろう。まずはバターをフライパンで溶かして弱火で小麦粉を炒めるんだ」


 俺が前の村で買ったフライパンは小さいから孤児院の特大フライパンを借りる。


「こうやって木べらで小麦粉を焦がさない様によく混ぜて、固まってきたら少しづつ牛乳を混ぜてクリーム状にしていくんだ」


「あ、マコトさん。よい匂いがしてきましたね。思ったよりも簡単そうなので、私でも出来そうです」


「クリーム状になったら鍋に入れて溶かすんだ。鍋が多いから今のベシャメルソースじゃ足りないと思うから、もう1回作ろう。今度はロレッタがやってみて」


「はい!」


 焦がさなければ失敗はしないのでロレッタも問題なくベシャメルソースを作る事ができた。全てシチューに入れて混ぜながら、塩をいれて味を整える。


 よく煮ていくとシチュー全体にとろみが付き、クリームシチューが完成した。


「これで出来たと思うから味見してみよう」


 俺とロレッタでそれぞれ木のスプーンで味見する。バターたっぷりで作ったのでコクがあって美味しいと思う。


「マコトさん、クリームシチューとても美味しいです。まろやかでコクがあって凄いです。いつものシチューがこんなに美味しくなってしまうなんてビックリです」


「お口にあって良かったよ。本当は野菜も肉もフライパンで炒めてから鍋で煮た方が美味しくなると思うから、時間がある時はそれもやってみて」


「はい、お料理教えて頂いてありがとうございました。きっと子供たちみんなも喜んでくれると思います」


「そうだね、みんなを呼んできて夕飯にしようか」


 その日の夕飯は昨日よりも盛り上がった。子供たちもクリームシチューを気に入ってくれて何度もお代わりしてくれた。もちろん一番食べたのはブタちゃんだったが……。


「ご主人様、今まで食べた料理の中で一番美味しいです。最高です!」


 とても気に入ってくれたようだ。まあ今まではただ焼いただけみたいな料理ばかりで、日本のレシピを使った料理はこっちに来てから初めて作ったから当然かもしれない。


 自分でも久しぶりにクリームシチューを食べる事が出来て良かった。


 こっちに来てから外食をしてないので料理文化のレベルがまだ解らないが、日本よりレベル高いという事はないだろう。満足できる食事は自分で作る必要があるのかもしれない――――。

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