第30話 ダンジョン10階 1

 建物の中で目が覚めるのは久しぶりだ。まだ外は薄暗いが物音がするので、孤児院の子供たちは起きているようだ。


 ブタちゃんを起こして顔を洗いに井戸に行くとしよう。


「おはようございます。ご主人様。今日も良い天気ですね。」


「おはよう。早めにダンジョンに行って、今日は買い物にも行こう」


 朝食も簡単に済ませてケインを誘ってダンジョンへと向かう、すでにケインはしっかり朝食も済ませていた。


「ケイン、今日は何を狩るんだ?」


「今日は10階でキラービーを狩ってみるか? 数が多いからリスクは高いが儲かるぜ」


 ビーって事は蜂かな? 蜂なら弓も利きそうだな。


「じゃあ今日はそれにしよう」


「おう、案内するぜ」――――。


 ダンジョン地下10階に着いたが、壁の色が違うようだ。上階よりも暗い色をしている。


「壁の色が暗くなったな」


「10階ごとに変わるらしいぜ。俺は10階までしか来た事ないから、次はどう変わるか解らないが……」


「ケインが10階までしか来た事ないってことは、11階にはどうやっていくんだ?」


「10階を探索して下に降りる階段を見つけるしかないな。誰かに連れて行って貰う事も出来るけど、10階以降に進んだことのある奴は少ないぜ」


「なんで10階以降は少ないんだ?」


「10階が他と比べて広くなってるのと、10階にはボスがいるんだぜ」


 ボスかあ……。 やっぱりそう言うのが居るのか……。


「前に聞いた話だとボスはクイーンキラービーらしいぜ。キラービーも取り巻きに居るらしいから3人だとキツイかもな」


「なるほどね。とりあえず探索しながらキラービーを何匹か倒してみよう」


「おう、地図は任せてくれよ。マッピングしておくぜ」


「はい、戦闘は私にお任せください」


「相手が蜂なら俺も戦えると思うよ。それじゃあ行こうか」


 しばらくケインを先頭に進んでいくと――。


「あ……」 ケインが何かを見つけたようだ。


「木の盾を見つけたぞ! 今日は朝からついてるぜ」 ケインが木の盾を拾ってこちらに持ってきてくれた。


 さっそく幸運スキルが爆発したようだな。


「盾か……。ブタちゃん。盾は使える?」


「使った事はありませんが、メイスが片手で丁度良いので、盾も持つことはできます」


「じゃあ試しに使ってみてよ」 ブタちゃんに盾を渡す。

 ブタちゃんは盾スキルを持ってなかったけど、盾を使えばスキルを覚えるのだろうか? これは良い実験になるだろう――。


「いたぞ」


 先頭のケインがこちらを振り向く。遠くに子犬くらいの蜂が宙に浮いている。ここからだと3匹いるようにみえた。


「ブタちゃん先頭でもっと近づいてみよう。急がなくて良いよ」


「はい」


 しばらく進むと向こうもこちらに気が付いたらしく、こっちに向かって飛んできた。ブタちゃんを先頭に少し離れて俺とケインが付いて行く。


 まだ弓の射程に蜂は入っていない――。


 先頭の1匹目の蜂にブタちゃんがメイスを振り下ろす。音もなく1匹目の蜂は地面に叩きつけられるが、すぐさま2匹目がブタちゃんに襲い掛かる。


 ブタちゃんも盾を振り回して追い払うが、蜂は次から次へと後ろから現れる。


 最初は3匹しか見えなかった蜂は今5匹居る様に見える。1匹は地面に叩きつけられて動かないが、残りの4匹がブタちゃんの周りを飛び回る。


 ブタちゃんも蜂を振り払うのに必死で2匹目以降は倒せていない。


 俺はこちらに背中を向けている蜂に弓を射る――。


 矢は蜂の胴体に深々と刺さり、地面へと落ちた。蜂は残り3匹となったが1匹の蜂がこちらに気が付き、向かって来る。


 慌てて次の矢を構えて狙いを定める――。


 真正面から飛んでくるので蜂の顔が良く見える。口の牙がギチギチと音を立てて気持ち悪い。


 しっかりと引き付けて矢を蜂の眉間に向かって放った。今回も深々と矢が刺さり我々の足元へと落ちる。集中していて気が付いていなかったが、だいぶ近くまで迫っていたようだ。


 今はもうピクリとも蜂は動かない。


 1対2となったブタちゃんと蜂は膠着状態のようだ。蜂はブタちゃんの周りをブンブンと飛び回り、ブタちゃんはメイスを振り回すが、なかなか蜂に当たらない。


 俺はまたこちらを気にしていない蜂に対して後ろから矢を射る――。


 1匹目と同じように矢1発で倒せた。


 最後の蜂も1対1となったブタちゃんのメイスを正面から受けて地面へと落ちる。全ての蜂を倒すことが出来たようだ。


 さっそくケインが蜂のお尻から針を抜いている。


「キラービーの毒針は銀貨3枚で売れるぜ」 10匹倒せば金貨3枚か、なかなか良い儲けになりそうだ。


 あ、ブタちゃんの背中から血が出ている。


「ブタちゃん、背中大丈夫?」


「1匹に齧られてしまいましたが、これ位はすぐに治ります。囲まれると無傷と言う訳にはいきませんね。でも盾は意外と役に立ちました」


 とうとう負傷するようになってきたか、さすがに5匹もいると俺たちの方にまで敵の攻撃が届きそうだった。これ以上に敵の数が増えると被害が増えそうだな。


「ケイン、敵の数は5匹以上に増える事もあるのかな?」


「いや、10階は5匹までのはずだぜ。でもボスはあの5匹+クイーンだ」


 そうなると今の3人ではボスは無理そうだなあ。ブタちゃんがボスと戦っている間に俺が他の蜂にやられてしまいそうだし、俺がボスと一人で戦っていても、ブタちゃん一人で蜂5匹は時間かかりそう…………。


「ご主人様! 私にやらせて貰えればボスなんて1発ですよ。任せてください!」


 ブタちゃんは威勢の良いことを言っているけど、ケガさせたくはないし、無理はしないでおきたい。


「まあとりあえずはキラービー5匹を狩り続けてお金を稼ごう。さっきはブタちゃんがすぐ前に出て1匹目を倒したけど、次は俺が1匹目を弓で撃ってからブタちゃんが前に出て2匹目をメイスで叩こう。それでうまくいけば、さっきよりも少し楽に戦えるはずだよ」


「はい! たくさん叩きましょう」


「じゃあ、先に進むぜ」――――。

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