第29話 孤児院 2

 正面の入り口に着くとまた子供たちの話し声が聞こえてきた。子供はいつでも騒がしい。何をそんなに話す事があるのだろうか?


 正面のドアを開けてみると中には子供たちに囲まれた一人の少女がいる。


 よく見るとケインにそっくりだ!


 髪の長いスカートをはいたケイン? 本人が女装している訳ではなさそうだが、そもそもケインはああみえて女の子なので女装するって言うのはおかしいか? まあ問題はこの子が誰なのかという事だけど……。


「こんにちは、ケインのパーティーメンバーのマコトです」


「はじめまして、こんにちは。ケインの妹のロレッタです。いつもケインがお世話になってます」


 なるほど妹か、そういえば妹の調子が悪いとか言っていたね。


「いやあ、お世話になってるのはこっちなんだけどね。ケインにダンジョンを案内して貰ってるお陰で稼がせて貰ってます」


「いえいえ、こちらこそケインがたくさん報酬を頂いたお陰で、この子達みんなお腹いっぱいご飯が食べられました。ありがとうございます」


「普段はそんなにいっぱいは食べられないって事?」


「はい、今はお金を稼げるのがケインしかいないから、かなり節約しています。この子達にもひもじい思いをさせてしまっていますね」


「今後は俺たちが稼いでケインにもたっぷり報酬払うから大丈夫だと思うよ」


「それはありがたいのですが、ケインは危ないことしていませんか? ケインはすぐ無茶をするので心配です」


「今の所は危険な所には行っていないし、ケインも案内だけで戦っているわけじゃないから無茶はしてないよ」


「それだったら良いのですが……」


「まあ、心配するなって言うのは無理だよね。ダンジョンは何が起きるか解らないから絶対に安全なんてことはないし、でも無理はさせないからそこは安心してほしい」


「解りました。これからもケインをよろしくお願いします」


「うん、ケインなら大丈夫だと思うよ。それより二人はそっくりだね」


「はい、私たちは双子なんです」 やっぱりそうか。背の高さも同じくらいだからそうじゃないかと思った。


「ただいまー」 ケインが何やら袋を抱えて帰ってきた。


「おかえり、ケイン。買い物は全部終わった? 今日はシチューにするから火を起こしてね」


 今日はシチューか楽しみだな。ブタちゃんにも教えてあげなきゃ。


「了解。薪を持ってくるからマコト兄ちゃんは座って待っててくれよな」


 しばらく待っているとブタちゃんが薪を抱えてケインと2人で戻ってきた。


「戻りました。ご主人様」


「お手伝い偉いねえ」 ブタちゃんはいい子だ。


「手伝わなくていいって言ったんだけどな」


 ケインは不満そうだがブタちゃんがいい子なんだからしょうがない。


 台所に2人のあとを付いて行って見てみると、ちゃんとカマドがあって大きな鍋がある。あれでシチューを作るのだな。


「ブタちゃん、今日はシチューだってよ」


「はい、そうらしいですね。さっきケインに聞きました」


 さすがだブタちゃん。すでに夕飯のリサーチ済みとは恐れ入る――――。


 庭が暗くなって来た。あれからロレッタが頑張って作ったシチューも出来たようだ。


 大きなテーブルに子供たちと俺たちと全員が座る。シチューのいい匂いがする。子供たちも待ちきれない様だ。


「それでは今日はマコトさん達が稼いできてくれたお金でいっぱいシチューを作る事が出来ました。みんなお礼を言いましょう」


「ありがとー!」


 子供たちが元気にお礼を言ってくれた。少しは俺たちにも慣れて距離が縮まってきたのだろう。


「それでは皆さんご一緒に」


「いただきます!」


 久しぶりにまともな料理だ。大量に大きな鍋作ってあるからなのか俺が前に作ったシチューよりもうまい。


 ただ味付けはおそらく塩だけでポトフに近い料理なのだと思う。


 コショウくらいは欲しいが子供が食べるものだから香辛料はいれないのだろう。


 パンは俺たちが買っているパンと同じ奴なんだろうが、シチューが美味いとパンも美味く感じる。


 そもそも最近はダンジョンで疲れて料理する気にもならないし、だいぶ夕飯は手抜きだったと思う。今度クリームシチューくらいは作ってみようかな。


 今日は体も洗って暖かいシチューも食べる事が出来て良い日だ。


「あ、ブタちゃんはいっぱい食べるから、おかわりをよそって上げてほしい」


「いいんですよ、ご主人様。そんなにたくさん食べたら悪いですよ」


 しかしブタちゃんのシチューはもう空だ。


「いっぱい作りましたから、たくさん食べてくださいね」


 ロレッタがブタちゃんにシチューをよそってあげている。


「あ、ありがとうございます」


 恐縮しながらもブタちゃんは嬉しそうだ。明日も頑張って貰うためにたくさん食べてほしい。俺は具沢山だったから一杯で十分お腹いっぱいになった。


「そうだ、この後は庭にテントを張らせて貰えないか? ダンジョンまで戻るのも面倒だ」


「いいけど、空いてる部屋があるからそこ使っても良いぜ。ベットとかの家具は何もないし窓も割れてるけどな」


「いいのか、俺たちなんかが孤児院に泊まってしまって、教会の人に怒られないか?」


「別に大丈夫だと思うぜ。俺たちが良いって言ってるんだからな。むしろ大人が泊っててくれた方が助かるぜ」


「それは防犯的にか?」


「そうだぜ。最近、俺が市場で買い物をしてる所を見られてるから、俺たちの羽振りが良くなったと思われてるかもしれないぜ」


「孤児院の羽振りが良くなると狙われるのか?」


「今までは強盗に入っても金目の物がなければ無駄だと思われていただろうけど、金があって子供しかいないとなると狙われるかもしれないぜ。この辺は貧乏人ばっかりだからな」


「そうかもなあ。俺たちも金が溜まったら宿に泊まろうと思っていたから、ここに泊まった方が宿代が浮いて助かるな。宿代代わりに用心棒をしてやろう」


 ブタちゃんがね。俺は出来ないよ。


「じゃあ頼むぜ、部屋はこっちだ」


 ブタちゃんはまだ食べているので先にケインと2人で今日の寝床を見に行く。


 どうやら部屋は裏庭側の様だ。ドアを開けて部屋の中に入るが、確かに何もない殺風景な部屋だ。一応窓はあるがガラスが割れているのを板で塞いである。


 そのせいか少し埃っぽい。


「何もなくて悪いな」


「いや、外よりは全然いい。明日はベットでも買いに行くかな」


「ここは好きに使って良いぜ」


「ああ、じゃあまた明日な」


「おやすみ」


 ケインが戻ってしばらくすると荷物を持ってブタちゃんがやってきた。


「今日はここに泊まれるんですね」


「やっとテント暮らしから解放されるな。ここなら荷物も置いておけるから助かった。明日はベッドを買いに行きたいね。その辺の木を切って手作りのベッドって言う訳にはもういかないから」


「そうですか? ご主人様ならベッドくらい作れそうですけど?」


「町の中で勝手に木を切ったら怒られてしまうよ。それにまともなベッドを作る自信はないなあ。お金稼いで家具はプロに作って貰いたい」


「じゃあ、明日も頑張って稼ぎましょう」


「そうだね。今日はここに毛皮ひいて寝よう。静かで良く眠れそうだ。」――――。

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