第28話 孤児院 1

 ダンジョンを出るとだいぶ日が落ちて来ていたが、まだ明るい。


 昨日よりは早めに切り上げられたようだが、それでも1日中ダンジョンで戦っていたので疲労感が凄い。


 そして体が臭い…………。


「ケイン、この辺で水浴びできる川とかないか? しばらく体を洗ってないんだ」


「城壁沿いに西に回れば川もあるけど、水浴びするなら孤児院に井戸があるぜ」


「孤児院ってケインが住んでるところか? 俺たちがそこ使っても大丈夫なのか?」


「俺と一緒なら問題ないぜ。俺が居ないと子供たちが怯えるかもしれないけどな」


「それならこれから良いか? 暗くなる前に済ませたい」


「よしきた。こっちだぜ!」


 ケインが足取り軽く先に歩き出す。何やら機嫌が良さそうだが、俺たちを孤児院に連れていきたかったのか? まあどんな所か一度見てみたかったから、ちょうど良いか。


「探索者ギルドが通り道にあるから換金だけしていくか?」 

 ケインがこちらに振り向く


「ああ、換金はしていこう」 門に入ってすぐだからな。換金しておいた方が効率良い。


 今日の稼ぎはアナコンダ18匹×4銀貨+革の帽子=72銀貨+金貨1枚=金貨8枚と銀貨2枚だ。さっそく換金してもらう。今日は3で割り切れないからケインに多めに上げてしまおう。


「ほら、今日の取り分だ」ケインに金貨3枚渡す。


「多くないか? 今日の稼ぎは金貨9枚にはなってないだろう」


「割り切れなかったからな。孤児院で水浴びさせて貰うし、ケインが多めに受け取っておいてくれ」


「そうか、悪いな。俺もはやく戦闘で貢献出来るようになりたいぜ」


「ケインは今でも十分貢献してくれてるさ」


 一番貢献してないのは俺だな。俺が居なくてもブタちゃんとケインでも今日くらいの狩りならこなせる気がする。


「そう言われると悪い気はしないぜ」 ケインは嬉しそうだ。ほめて伸ばす方式でこれからも貢献して貰おう。


 あ、ブタちゃんが寂しそうな顔をしている。


「今日もブタちゃん大活躍だったね。戦闘はブタちゃんを頼りにしてるよ」


 こちらも嬉しそうだ。ブタちゃんも単純で大変よろしい――――。


 ケインに付いて裏道を行くとだんだん人通りが少なくなり、メインの大通りに比べると道や壁が薄汚れた感じがする。


「もう少しだぜ」


「こんな所に孤児院があるのか? あんまり治安が良くなさそうだが……」


「治安はあんまり良くないぜ。子供たちには孤児院から出るなって言ってある」


「孤児院から出なければ安全なのか?」


「一応孤児院は壁に囲まれているからな。壁の中も結構広いから外に出なくても子供たちは安全に遊べるぜ。それに孤児院が貧乏なのはみんな知ってるから、泥棒に入ろうって奴はあんまり居ないぜ。泥棒や強盗もシスターに見つかるとやばいしな」


「なんだやばいって? シスターだろ」


「教会の連中を敵に回したいなんて奴はこの町に少ないぜ。シスターだって神聖魔法が使えるから、泥棒が見つかったら吹っ飛ばされるぜ。兄ちゃんも気を付けな」


「え、孤児院に居る時にシスターに見つかったら魔法で吹っ飛ばされるのか? 水浴びやめとくか……」


「だから俺と一緒なら大丈夫だって、だいたいシスターは滅多に孤児院には来ないよ。教会の仕事で忙しいからな」


「それなら良いか」なにやら、いやな予感がするが違うよね。フラグじゃないよね。


「ここだぜ」


 孤児院に着いたようだ。確かに立派な壁と門があるが、どちらもボロボロで入ろうと思えば簡単に乗り越えられそうだ。


 でも、確かにわざわざこんな廃墟に泥棒が入ろうとは思わないかもしれない。


「先にみんなに紹介するぜ。そうすれば見つかっても騒ぎにならないからな」


「それが良いな」


 門の扉は半分は閉まっているが、もう半分の扉は傾いて完全に閉まってはいない。その隙間から中に入る。正面に教会の様な建物が見えた。


「あれは教会なのか?」


「いや、あれが孤児院なんだぜ。外見は教会みたいだけど、礼拝堂もないしな」


 建物に近づくと子供の声が聞こえる。正面の大きなドア、もしこれが教会なら礼拝堂につながっていそうな両開きのドアをケインが開ける。


 さすがにこのドアはちゃんと閉まるようだ。中は広々とした空間で子供が10人ほど遊んでいる。


「ケイン!」


 子供たちがワラワラと寄ってきたが、俺とブタちゃんを見て固まっている。


「ほら、お前ら。この2人は最近一緒に探索してる俺のパーティーメンバーだぜ。ちゃんと挨拶しろよ」


「こんにちは」 子供たちが一応あいさつをしてくれたが、明らかに警戒している。


「こんにちは!」 ブタちゃんが元気よく挨拶したが反応は薄い。


「いつもケインにお世話になっているマコトです。よろしくね」


 子供たちは口々に挨拶をすると少し離れてこちらを見ている。


「人見知りしてるんだぜ。じゃあ井戸はこっちだ」


 ケインに着いていくと一度庭にでてグルっと建物を周り、裏手に出ると確かに井戸があった。


「俺は買い物に行ってくるから井戸は自由に使ってくれ、そこの石鹸も使って良いぞ。あと夕飯も御馳走するから食っていってくれよな」


「おお、いいのか。では遠慮なく頂いていこう」


「やりましたね。ご主人様」


「夕飯楽しみだね。じゃあ交代で水浴びしようか」


「お背中ながしますよ」 「いやいいよ……ほらあっちで子供たちと遊んできなよ」


 遠くからこちらを見ている子供たちが居る。子供たちはブタちゃんが珍しいのかもしれない。


「そうですか? 必要なら呼んでくださいね」


 ブタちゃんは残念そうに子供たちの方に歩いて行った。ブタちゃんには悪いが久しぶりの水浴びだから自分ですみずみまで丁寧に洗いたい。


 しかも今回は石鹸を使って良いと言われた。こっちの石鹸は初めてだ。そんなに高いものではなかったが、まだ買ってなかった。


 使ってみるとさすがに日本の物と比べると泡立ちはあまり良くないが汚れは落ちていると思う。


 全身洗ってサッパリとした。これは俺の買い物リストに石鹸を書き加えなければならない。


 ブタちゃんと交代するために探しに行くと、向こうからトボトボとブタちゃんが歩いてきた。


「どうしたの?」


「子供たちに逃げられました。私が近づくと逃げてしまうんです……」


 悲しそうなブタちゃん……。


 ブタちゃんは子供が好きな様だから、なんとか交流を持たせてあげたいが、今はまだ早いのかもしれない。


「追いかけると怖がられちゃうからね。向こうから寄ってくるのを待とう。さあブタちゃんも水浴びしてきなよ。石鹸でしっかり洗ってね」


「はい」


 ブタちゃんが井戸に行くのを見送る。


 しかしここの庭は結構広いな。正面の庭も手入れはされていないが、子供が遊べるくらいには広かったし、井戸がある裏庭もそこそこ広い。


 この裏庭にテントを張らせて貰えないだろうか? 井戸も近くて好都合なのであとでケインに聞いてみよう。


「俺も子供とコミュニケーションとってみるかな」


 子供たちを探しながら正面玄関へ移動する――――。

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