第15話 村 4
雑貨屋でヤジリを買って表にでると何やら村の中が騒がしい。
「何かあったかな? 広場に行ってみようか」 ブタちゃんと広場に移動してみると村人たちが騒いでいる。
『魔物だ!魔物がでたぞ』『もうすでに村の畑に入り込んでいるらしい』『人里まで現れるとは……』
魔物が出たのか……。
一度見ておきたかったから急に出くわすよりは良い機会かもしれない。
「畑に魔物を見に行くよ」「はい、ご主人様」
畑に向かって走り出すが、しばらく走るとブタちゃんが鼻をフゴフゴさせている。
「シルバーウルフの匂いがします。魔物はシルバーウルフの様ですね」
「こちらから匂います。シルバーウルフは素早いので、あまり近づかないようにしてください。私が囮になりますので、私からも少し離れていてください」
「解った」
もちろん魔物が居ると聞いたのに前にでるつもりなどない。潜伏スキルが効いていることを願いつつブタちゃんの後から少し離れて付いていく。
スキルポイントが余っているので潜伏に振るか迷う。まだどういう状況になるか解らないのでポイントのままにしておくか――――。
だいぶ畑に近づいた所でブタちゃんが急に方向を変えたが、どうやら納屋に向かっているようだ。
『うわー、こっち来るなー!』
納屋から子供の声が聞こえる。
近づくと納屋の裏手で子供が大きめの狼に囲まれている。
あれがシルバーウルフか……。
ここからだと5匹いるように見えるが、ブタちゃんは躊躇せずにその囲みに入り、こん棒を振り回す。
「ウラァー! 掛かってこい!」
こん棒は当たらないがシルバーウルフはブタちゃんを警戒してブタちゃんを取り囲む。
その隙に子供が逃げだしたが、1匹のシルバーウルフが獲物を逃さないと言うように子供を追いかける。
子供をこちらに呼び込むか……。
いや、こちらに子供が走ってくるとそれを追いかける狼と正面から向き合うことになるので、それは避けたい。
横からの方が心臓を狙いやすいだろう。問題は木の矢が魔物に刺さるのか?
とりあえず弓スキルにポイント全振り。 弓1→弓4
子供に目を向けるとシルバーウルフが追いつきそうだが、弓の射程にも入っている。
弓を引き絞り心臓目掛けて矢を放つ。矢は弧を描きシルバーウルフへと突き刺さる。
『ドッ!』
一発でシルバーウルフは倒れる。しっかり心臓まで届いたようだ。
「そのまま村まで走れ!」
子供に声を掛けると子供はこちらに気が付き、走りながら何度もうなずいている。
ブタちゃんの方はどうだ――。
左腕を噛みつかれながら、こん棒を振り回している。足元には倒れたシルバーウルフが1匹、ブタちゃんの腕に1匹、残った2匹のうち1匹がブタちゃんに飛び掛かる。しかしブタちゃんは腕を噛みつかれたまま、こん棒のフルスイングで飛び掛かってきた1匹を吹っ飛ばす。
俺は残った1匹に矢を放つ――――。
矢は刺さったがさっきよりも距離があったせいか、まだシルバーウルフは倒れていない。
それと同時にブタちゃんが腕に噛みついたシルバーウルフを地面に叩きつけ、こん棒で頭を潰す。
矢の刺さったシルバーウルフは後ろを向いてモタモタと逃げだそうとするが、そちらもブタちゃんがこん棒を後ろから叩きつけた。
5匹とも動く様子はないが、俺は身を沈め他にもシルバーウルフがいないか様子を伺う。
「ご主人様、全て倒したようです」
しばらく身を潜めていたが、ブタちゃんがもう大丈夫だというので立ち上がる。
「その左腕大丈夫なの?」
ブタちゃんの腕からは血がだらだらと垂れている。おもいっきり噛みつかれていたから大丈夫なわけないとは思うのだが、おもわず聞いてしまった。
「筋まで届いてないので大丈夫です。最近は狩りでお肉たくさん食べていたので私はしっかり脂肪で守られています。このぐらいはかすり傷ですから、すぐ治りますよ」
大丈夫らしい……。
俺がシルバーウルフに噛みつかれたら腕なんて喰いちぎられるだろうな――。
「そう? 大丈夫なら良かった。他に居ないようなら村に戻ろうか」
「はい、死体も持っていきましょう」
そういうとブタちゃんはシルバーウルフの尻尾を5匹まとめて掴みそれを肩にかつぐと歩き出す。
「少し持とうか?」
「ご主人様に血だらけの魔物なんて持たせられません――。あ、申し訳ないですけど、こん棒を持って貰えますか? 手が空いていないので、すいません」
「はいよ、それぐらい気にしないで」 と軽い気持ちで引き受けたが、こん棒めちゃ重いな……。
村までいけるかな――――。
ヨタヨタと村の広場まで戻ると村人が大勢集まって、こちらを心配そうに見ている。その中から一人の年寄りがこちらに声を掛けてきた。
「魔物が出たと聞いたのですが、本当ですかな? ここ数年この辺りでは見かける事もなかったのじゃが」
「我々は畑に魔物が出たと聞いたので畑に見に行ってみると、この5匹のシルバーウルフが居たので倒しましたよ」
ブタちゃんがシルバーウルフの死体を降ろしたので、重くて邪魔なこん棒をすぐさまブタちゃんに返す。
もう二度と持ちたくない。
「おお、それはありがたい。あなたのおかげで村人に被害がでないですみました。ありがとうございます」 俺に頭を下げるがブタちゃんの事は無視っぽい。
「私とハーフオークの彼女が戦いました。彼女は奴隷ですが、自分から戦ってくれたのです」
「なるほど、それでは我々はあなた方二人に感謝しなくてはいけませんね。村長の私からお二人にお礼を言わせてください。ありがとうございました」
そう言うと村長はブタちゃんにも頭を下げた。これで少しはこの村におけるブタちゃんの地位が向上すると良いのだけど……。
そしてやっぱりこの人は村長だったのか、そんな気はしたけどね。
「ところでこのシルバーウルフの死体はどうされますかね?」 村長に聞かれたがどういう意味だろうか?
「こちらで解体して毛皮に処理するつもりですが?」
「それならよいのですが、こちらで引き取っても良かったので――シルバーウルフなら1匹につき銀貨5枚出せますがね」 そういうことか……。
手間を考えると引き取って貰っても良いが、これから俺たちはもう少し大きな町に向かうつもりだから毛皮にして町で売ればきっともっと高値で売れることだろう――。
悩むところだが、ここは村で引き取って貰うことにする。
今の優先事項はブタちゃんを正式な奴隷にする事、これはかなり優先度の高い目的だ。一番の優先事項は日本の実家に帰ることだが、今の所まったく目途がたっていない。
次の優先事項は身の安全だが、これはブタちゃんにだいぶ依存している。
ブタちゃん抜きではこの世界で生き抜いていく事は出来ないだろう。という事は早く町に移動して奴隷商的な店に行かなくてはいけない。
「それでは5匹ともお願いします」村長にお願いする。
「5匹で金貨2枚銀貨5枚となりますな」 村長はニコニコ顔だ。
あれ? もしかして銀貨5枚じゃ安いのか? まあ相場が解らないからしょうがない。金を受け取って旅支度をすすめよう。
「それではお支払いしますので、こちらにどうぞ」村長が歩き出すので着いていく。
「そろそろ町に移動しようかと思うのですが、この辺で大きな町というと何処ですかね?」
「カルタヤが近場では一番大きい町じゃな。歩いて3日はかかるが」
「乗り合い馬車とかは出てませんか?」
「ここは小さな村だから定期的には出ておらんな。行商できた馬車と一緒に行く事はあるが」
「その行商はいつ頃来ますか?」
「そろそろ来ると思うが正確には解らんな」
「この家がワシの家じゃ。少しお待ちください」 村長の家に着いたようだ。
「ブタちゃんはカルタヤって知ってる?」
「すいません。聞いたことはあるのですが、良くは知りません」
「3日ぐらいなら歩いて行っても大丈夫かな?」
「私は大丈夫です。道なりに行けば野営できる所もあると思います。宿屋はないと思いますけど」
「じゃあテントでも買おうかね」
話していると村長が戻ってきたので金をもらって別れを告げる。
「今回の魔物退治、ありがとうございました。また近くに来られるようでしたら、また是非この村にもお立ち寄りください」
「ええ、また寄らせて頂きます」
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