第10話 移動 1

 朝が来たようだが、離れがたい弾力が俺を離さない。


 いつまでもこの暖かな肉布団に包まれていたい。


 外は過酷な異世界だ。このままここに引きこもるのも良いなあ。


 ウトウトとしているとブタちゃんは俺を起こさないようにそっと俺の頭をずらして起き上がると外に行ってしまった。


 肉布団がないのにいつまでも寝ていてもしょうがない。


 起き上がり焚き火に火をくべる。ブタちゃんが居ない小屋はやけに寒々しい。せめて焚き火で温まろう。しばらくすると水を汲んでブタちゃんが戻ってきた。


「おはよう。おかげでよく眠れたよ」


 水の入ったツボを受け取り、水を飲んで顔を洗う。


「おはようございます。今日は朝から顔色が良いですよ」


 自分では気づいてなかったが、そんなにヒドイ顔色だったのだろうか?


 言われてみればこっちに来てから、あまり寝ることが出来ていなかったので、きっとひどい顔だったのだろう。


 いつもの朝食をすませる――。


 さて今日も塩作りとカゴ作り、カゴはもうすぐ出来そうだ。干し肉や皮は今のままもう少し干しておく事にする。


 ブタちゃんには海水を運んで貰って、それを煮立たせる。俺はカゴを編む。昨日に続いて平和な日常だが、そろそろ移動を考えねばならない。


 ただ、その前に今のうちにブタちゃん用の武器を作りたいと思う。棍のスキルが高かったので棍棒が良いのかな?


「ブタちゃんの武器は何が良いかな?」


「私は何でも大丈夫です。丈夫で握りやすいのが良いですね」


 そうすると丸太を切って持つところだけ少し細く削れば良いか、ブタちゃんに石斧を渡して好きな木を切らせる。


 まあ自分で使いやすいのを作って貰おう特に難しい加工とか無いし。


 俺は背負えるカゴを作る。


 これと水筒が出来てしまえば移動が出来るはずだが、水筒の水だけでは何日も持たないと思う。切り出した丸太の持つ所を削っているブタちゃんに聞いてみる。


「川から離れて村まで行くまでの水が足りるか心配なんだけど、今作っている水筒で足りるかな?」


「川から村まで行くのには足りないですけど、途中で湧き水を汲めば良いと思いますよ。私は匂いで湧き水の場所解りますし」


 ブタちゃんの鼻は思ったより高性能らしい、そんなスキルはなかった筈なのだが……。


 まあ、これならあと何日かすれば出発できそうだ。皮や肉が乾くまで採取や狩りをしたり、装備を整えて過ごした――――。


 出発の日、朝起きると前日に纏めておいた荷物を担ぐ。


 ツボなどの土器もあるので全体の重量はあるが、重いものはブタちゃんのカゴに入れておいたので俺の荷物はそんなに重くない。


 ブタちゃんがお手製の棍棒を振り回し、枝を払いながら前を進む。


 まずは川沿いに北上していくが、すぐに見慣れぬ場所まで歩いてしまった。知らない場所に来るとシャモやイノシシに襲われたことを思い出す。


 ブタちゃんがいるから大丈夫だとは思うが、急に襲われたらと思うと気が抜けない。


「また何かに襲われたら嫌なんだけど、この辺に危険な動物とか居るの?」


「危険って程ではないですけど、襲ってきそうなのはヘビとイノシシとクマですね」


「ク、クマでるの?」 クマはやばいでしょ。


 出会ったらどうしたら良いんだ? この世界のクマは凶暴そうだ。


「クマは匂いで解るから避ければ大丈夫ですよ。イノシシは向こうが先に気づくと突撃してくるので間に合わない事がありますね。この間はそれで危なかったです。ヘビは匂いでは解らないのと毒もあるので茂みは気をつけて下さい」


 平和に過ごしているつもりだったけど、意外とこの森も危険だったのだな。


「そんなに危険なら、もっと早く教えてよ」


「すいません。ご主人様は狩りが上手なのでよくご存じなのかと……でもこの辺はかなり安全な森です。村は近いですし、魔物は出ません。」


「やっぱり魔物が出る所もあるんだ」


「森の奥の方にゴブリンの村がありますが、そのさらに奥には色々出ます。他にもダンジョンや人里離れた亜人などの村がない所は魔物が生息しています」


「まあ、とりあえず村に着くまでの間に魔物に遭遇しないなら良いや」


 安心してどんどん行こう。


 黙々と歩いているとだんだん気温が上がり汗ばんできた。気が付くと日が真上に来ている。


「そろそろ昼だね。昼食と少し休憩にしよう」


 木陰に腰を降ろし干し肉と木の実を噛じる。


「ご主人様、ただ一つ問題がありまして…………。この川から西に向かわないとレペ村には着かないのですが、どこを西に行けばよいのか解らなくて私はこの辺りで迷ってしまいました」


 そういえば二人共迷子だったの忘れていたな。日が沈むほうが西というのは合っているみたいだから、とりあえず村に少しでも近づくために夕焼け方面に進んでみるか。川から離れるのは不安だけど、そのために水筒作った訳だしね。


「解らないならしょうがないよ。そろそろ西に向かおう。日が沈みだしたら、そちらの方向に進めば迷わないし」


「解りました。そろそろ行きましょうか?」


「よし行こう」


 荷物を背負い直しブタちゃん先頭でまた歩き出す。川沿いに北上を続け日が落ちだしてからは夕日に向かって進む。


 川を離れてからは特に代わり映えのしない景色の中を地道に先へと進む。

 徐々に暗くなってきた。完全に日が沈む前に野営の準備をしなくてはならない。


「この辺で今日は野営しよう。」少し森が開けた場所で立ち止まる。


「では、私が火を炊きますので、ご主人様は休んでいて下さい。」


「うん」 荷物を降ろし毛皮を取り出すと地面に敷いてその上に座る。


 確かに疲れた……。


 一日歩き続けて足が棒のように硬くジンジンと痛む。石を並べて、焚き木を集めて火を付けているブタちゃんをぼんやり眺める。


 ブタちゃんは元気だな…………。


 俺もこっちに来る前よりは体力ついたと思うけど、まだまだ足りないな。レベルがあがれば体力も増えるのだろうか? タフになりたい。


 一人痛む足を揉んでいると、


「お疲れですね。マッサージしますよ」


 ブタちゃんが足を揉んでくれた。おお、これは気持ちが良い――。


 自分でやるのと人に揉んでもらうのでは何でこんなに違うのか。横になってリラックスしていると突然足に激痛が!


『イタタタ!』 足つぼ痛すぎ。


「ちょ、力強いよ」悶絶しながら訴える。


「我慢して下さい。ここを押すと血の巡りが良くなってスッキリします」


 必死に足を抜こうとするがブタちゃんに掴まれている足はピクリとも動かない。


 あまりの痛さに思わず空いている足でブタちゃんを蹴ってしまうが、俺の蹴りなどブタちゃんにはまったく効いていないようだ――。


 諦めてこのまま気絶した方が楽に慣れるかと思った頃やっと開放された。


「さあ、逆の足もマッサージしておきましょう。明日の疲れが違いますよ」


「ぎゃあああああああ!」


 叫んで痛みを誤魔化すことしか出来なかった……。


 しかしマッサージが終わるとあれほど辛かった痛みは消えスッキリした気がする。

 オーク式マッサージは効果があるのかも知れない。


 痛みに耐えられればだが…………。

 最後でわずかに残っていた体力も一気に奪われてしまった。


 もう飯食って寝よう。干し肉を炙って食べる。やはり新鮮な肉のほうが美味しいな。


 明日は鳥でも見つけたら狩ることにしよう。

 ブタちゃんは美味そうに干し肉をかじっている。肉なら何でも良さそうだな……。


 それを見ながら毛皮の上に横になりながらウトウトする――――。


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