第7話 出会い 3

「じゃあブタちゃん、この後の事だけどレペ村までは歩いて、どれくらいで着く?」


「はい、ご主人様。迷わずに進んでも2、3日はかかると思います。川沿いに1日歩いて、川から離れてもう2日ほどです」


 そんなにかかるなら、しっかりと準備する必要がありそうだ。


 途中だった塩は完成させてしまおう。それと川から離れるなら水を運ぶ手段が必要だ。ペットボトルがあれば――――。


「ブタちゃんは何も持ってないように見えるけど荷物はどうしたの?」


「村を出る時に干し肉を貰ったのですが、すぐに食べきってしまったので、今は何も持っていません。村を出る前は食料も森で魔物や動物を捕まえて食べれば良いと思っていたのですが、私を見ると皆逃げてしまうので、全然捕まえられませんでした。よく考えたら村に居たときから狩りは苦手で、皆の狩って来た獲物を解体するのが私の主な仕事でした」


 なんかこの子はしっかりとした喋り方をする割には抜けているよな。


 それともオークってこんなもんなのかな。脳筋なイメージが強いし、むしろオークの中ではしっかりもので通ってそう。


「何も持ってないなら、ここである程度は装備を整えておかないと村までたどり着く事も出来ないね。食料と水を運ぶ容器と荷物を背負うカゴと靴も欲しい」


「水筒なら鹿の胃袋から私が作れますよ。靴も今ご主人様が履いている物よりはしっかりとした靴が作れると思います」


「それは助かるな。じゃあブタちゃんにそれらをお願いして俺は塩とカゴを作るよ」


 ツボを見に行くとだいぶ煮詰まって塩の結晶が出来ていたので大きい葉っぱの上に結晶を撒いておく、もう一回海に行って新しい海水を持ってきて煮詰めておく。


 その間にカゴ編みをする。ツルはいくらでもあるのでグルグルとカゴを編んでゆく。


 そういえば肉は全部ブタちゃんに食べられてしまった。まだ日があるうちに食料調達行かなくてはいけない。


「ブタちゃん、ちょっと狩りに行ってくるよ」


「ご主人様、私もお供します。」


「いや、一人で大丈夫だよ。そんなに遠くまで行くつもりもないし」


「いえ、ご主人様。この辺りはたまに森イノシシが現れます。他の生き物を見ると突撃して来る事があるので危険ですよ」


 以前に見かけた丸くて茶色いのが森イノシシだったのかも知れないな。


 俺が大して危険な目に合ってないのは運が良かったのか――。


「それなら一緒に来て貰おうかな。獲物に見つからない様にしてね。」


 こっちが先に見つければ問題ないだろう。


「はい、ご主人様の後ろを静かに着いていきます」


 護衛らしいから一応、武器の代わりに石斧を渡しておく、イノシシが出ないと良いな。


 今日は天気が良かったが、森の少し深いところに入っていくと辺りが暗くなる。


 空気もひんやりしてきたようだ。二人で森を静かに進んでいくと前に襲われたシャモがいる。


 ブタちゃんを見ると黙って頷いた。あれを狩るという事で問題なさそうだ。


 まあ油断しなければ一撃で倒せるだろう。狙いを定め矢を放つ、思ったとおりの所に矢は刺さったがまた倒れない。


 こちらを向いて前と同じ様に襲ってくる。


 今回は一撃で倒せない可能性も考えていたので、慌てずに二の矢を構える。


 シャモが近づいてくるのを待って矢を放とうとすると、ブタちゃんがスッと手を出して俺の前を塞ぐ、そのまま石斧を振りかぶりシャモに向けて横から石斧を叩きつける。


 空振りしたのかと思うほど、何の抵抗もなくシャモの頭が吹き飛んだ。


「必要ないとは思いましたが、ご主人様にかすり傷一つ負わせる訳にはいかないので念の為、私が前に出ました」


 後には見事に頭だけないシャモが横たわっている。


「そんな武器で見事なものだね」 切れ味なんてほぼ無いと思うのだけど、力があれば関係のないのだろうか。


「そうですね。もう一回り大きい武器のほうが好みですが、これで十分です」

 なんとも頼もしい事を言っているので、ブタちゃん用の武器を作ったほうが良さそうだな。


 彼女なら万能武器の丸太でも使いこなせそうだけど。


 とりあえず鶏肉は確保できたが、ブタちゃんの食べる量を考えると全然足りない。


 シャモはブタちゃんに持たせて更に進む。さらに森の奥深くへと獣道も途絶えて来たので、茂みを避けながら進んでいく。


「あ、森イノシシが近くにいるかもしれません」


ブタちゃんが話すと同時に少し地面が揺れた気がした。


*ドドドドッ!!*


 音が大きくなる。茂みが揺れて何かが近づいて来るのが解る。


「避けて!!」ブタちゃんの声を聴くのと同時に木の裏に飛び込む。


*ズン!*


 何か大きな物がぶつかった音がした。


 そちらを木の影から覗くとブタちゃんがイノシシを体で受け止めている。


 イノシシの牙がブタちゃんの肩にめり込み、血が流れている。だが、ブタちゃんは気にしていない様子だ。


 イノシシの動きが止まっている内に弓を構え矢を放つ――、矢は確かにイノシシに刺さったが、まったくひるむ気配が無い。

 イノシシはブタちゃんを跳ね飛ばそうと藻掻いている。


 俺は1本でダメならと矢を2本3本と打ち込んでゆく。


 少しは効いてきたらしく動きが鈍りだした。


「うおおおおおおお!!」


 ブタちゃんがチャンスと思ったのかイノシシをひっくり返し、そばに落ちていた石斧を天に振りかざす。


*ドムン!*


 鈍い音がしてイノシシの頭をかち割った。一撃でイノシシの頭が半分以上吹っ飛ぶ。当然イノシシはもうピクリとも動かない。


「ブタちゃん大丈夫?」 剥き出しの肩から流れる血が痛々しい。


 自分は生まれて来てから一度もあんなに血を流した事ないと思う。どれくらいの痛みなのか想像がつかない。


「これくらいは傷の内に入りませんよ。すぐ治ります。元々傷の治りは早いので大丈夫です。それより大物を仕留めました。さっそく川に運んで解体してしまいましょう」


 そう言うと自分と同じくらいの大きさのイノシシを怪我している肩に担ぎ歩きだした。


 慌てて追いかけると――


「今日もご馳走ですね」笑顔で振り向いてきた。


「そ、そうだね」 タフすぎるだろ……。


 本当に気にする程でもない怪我なのだろうか?


 確かにもう血は止まっているようだが、イノシシの牙はここから見てもナイフくらいの長さと鋭さがある。もし自分が刺されたら一発で死ねる。


 川に着くとブタちゃんはさっさと解体を始めてしまった。


 あっという間に皮を剥ぎ取る。


 自分も手伝おうと皮を受け取るが、他に手を出す隙はなさそうなので皮を家に運び、近くの木に掛けておく。


 後でブタちゃんがなめしてくれるだろう。


 あっちはブタちゃんに任せて、俺は海水を汲みに行く。


 今まで一人で歩いていても平気だったが、イノシシに襲われた今はブタちゃんが近くに居ないと不安でしょうがない。


 もっと潜伏のスキル上げておくべきか。


 またアイコンが点滅している。


 さっきのイノシシを倒したからレベル上がったのだろうか? さっそくステータス画面を開いてみるとレベル4になっている。が、しかし


 それよりも『モモカをパーティーに加入しますか?』というメッセージが……。


 他の知的生物にはまだ出会ってないから、モモカってきっとブタちゃんの事だよな。


 とりあえず加入させてみる。自分のステータスの下にモモカと言う欄が増えてモモカのステータスが見えるようになった――――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る