第6話 出会い 2

 オーク! 顔が豚で体がマッチョな人間みたいな亜人だ。


 急にファンタジーになってきた。


 これは異世界決定か? でもオークってこんなに友好的ではなかったと思ったが……。


「オークにしてはずいぶん人間に友好的じゃないか、何が狙いなんだ?」


「違うのです。オークと言ってもハーフオークなので、村では人間に似ているとバカにされていて、それに私は食欲が強すぎて他のオークの倍は食べるので、村を追い出されてしまったのです」


「さっきタリケホ村から来たって言っていたけど、そこがそのオークの村? 行こうとしていた、レペ村も別のオークの村ってこと?」


「タリケホ村はオークの村ですが、レペ村は人間の村です」

「オークの中では生きて行けなかったので、人間のフリをして人間の村で生きていこうと思ったのですが、こんなにすぐにバレてしまう様では無理ですね…………」


「オークと人間が共存する何てことはあり得るの?」


「対等に暮らしているというのは聞いた事ないです。出逢えば殺すか、捕まえて捕虜にするか、人間がオークを捕まえれば奴隷にして労働力にしますし、オークが人間を捕まえればペットの様に扱われることが多いです。一番多いのはその場で殺される事ですけどね」


「君の母親の場合は……。」


「私の母は完全にペットですね。私の父親は村の誰か解りませんし、母は私が生まれるまで良く生かされていたものだと思います。私を生んだ後はすぐに殺されてしまったと聞きました。私の事もペットにするつもりで育てた様ですが、私の力が強くて諦めたみたいです」


「…………」


 言葉にならない。現代日本では絶対ありえない環境で育ったようだ。


「人間に近い顔なのでだいぶ虐められましたけど、子供のころは他のオークの子と同じ様に育てられました。大きくなってからは私の方が力が強かったので虐められませんし、何度かオスに襲われましたけど、返り討ちにしてやりました。ただ村長は比較的公平でしたが、他のオークからはだいぶ嫌われていました。先日16歳の誕生日を迎えたのですが、その時に村を出ていくように村長に言われまして、私もこのまま村に住み続けることには限界を感じていたので、村長の言葉に素直に従って村を出る事にしたのです」


「私は腕っぷしには自信があったので、森でも生きていけると思っていたのですが、動物を捕まえようとしても逃げられてしまうので、全然狩る事ができません。それなら人間社会になんとか潜り込んで暮らそうと思って人間の村を目指していたのですが、食料が尽きて餓死しそうになっている所をあなたに助けて頂いたのです」


「そうだったのか……」


 さてどうしたものか、ずいぶん正直に身の上話をしてくれたが、本当の話だろうか?


 話の筋は通っている気がする。嘘をついているようにも見えない。


 そもそもオークなんて力任せのイメージが強いし、嘘をついて騙す知恵なんてないのではないか?


 今の話が本当の話だとすると、この子はオークの社会でも生きていけないし、人間の社会でも生きていけない、誰からも必要とされず、だからと言って一人で生きて行くことも難しい。


 これは完全に詰んでいるのでは? 日本だったら家出少女はとりあえず親元に帰りなさいって言うが、この場合どうなのだろう? 一応提案してみる事にする。


「冷たい事を言うようだが話を聞いた限りでは、君の居場所は人間社会には無いと思う。村の皆に頭を下げて村長の家にでも置いてもらうしか無いのでは?」


「村を出ていく時に村のオス達から次に見かけたら殺すと言われました。1対1では誰にも負けませんが、村人大勢で狩られてしまっては、私もすぐに殺されてしまいます。村長も私の命の危険を感じて追放と言う形で逃してくれたのだと思っています」


 ここまで絶望的な状況だと、あとは自分と一緒に行動する事位しかこの子は生きていく方法は無さそうだが、しかし俺は早く村に行って文明を少しでも感じたい。


 こんな原始人生活からは抜け出したいのだ。オークなんて連れて村に行ってもこの子は殺されちゃうだろうし、最悪俺まで怪しまれる。


 どうしたものか……。


「私はもう生きていく術がありません。あなたと一緒に行動させて貰えませんか?」


 やっぱり、そうなったか――。


「そうしてあげたいけど、俺はこの後人間の村に行く予定だ。俺に付いてきたら人間に捕まって殺されてしまうと思うよ」


「確かにこのまま行っても私は人間の村には入れません。でもあなたの奴隷に私がなれば問題ないはずです。私にはもうほとんど選択肢はないのです。奴隷になるか死ぬかの2択です。どうせ奴隷になるなら、あなたを主人に選びたい」


 奴隷か……現代日本からきた自分には想像つかない。


「奴隷になるというのは具体的にどういう状況になる事なんだろう?」


「オークは魔法などは一切使えませんが、人間には奴隷の首輪という魔法具があります。主人側と奴隷側のお互いが了承の上で奴隷側がその首輪を付けると奴隷は主人に対して逆らうことが出来ません。奴隷となると主人の持ち物となるのでオークや魔物であっても他人に害されたりすることはないのです」


「ずいぶん詳しいですね」


「拐ってきた人間から聞き出すのです。オークとしても何故強い自分たちの仲間が弱小な人間に逆らえずに奴隷になっているのか不思議だった様です」


 なるほど、そういう仕組みか。そしてやっぱり魔法とかあるのね……。


「でも俺はその魔法の首輪持っていませんよ」


「何でも良いので私が首輪をして言うことを聞いていれば、周りの人はあのオークは奴隷なんだなと考えると思います」


 それはどうなんだろう? そんなのでバレないのかな。


 本物の奴隷をまだ見たこと無いから、それで問題ないのか判断できない。


 でも彼女だって村の中でバレたら、タダじゃ済まないのは解っているだろう。そう考えると奴隷の話も素直に信じて良いのかな。


 そもそも嘘をついている様には最初から見えない。


 人間ではなかろうと人の良さそうな性格のこの子と一緒に行動するのは悪くない。


 と言うか、もう一人で行動するのは嫌だ。


 夜も心細いが昼間でもいつ茂みから何が飛び出してくるか解らない。美女では無くなってしまったが、一人ぼっちよりも全然良い。


「ではとりあえず、その作戦でレペ村に行ってみましょう。途中でもっと良い考えが浮かべば、そっちの作戦に乗り換えれば良いですしね。ということで、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。ご主人様。あと言葉遣いには気をつけて下さい。奴隷に命令するには丁寧な言葉すぎると思います」


「そ、そうか。気をつけるよ。でも、ご主人さまって言うのは辞めないか? 僕はタイラ マコトって言う名前なのだけど」


「ダメです。他の人から見て私が奴隷だということが、解らなければいけないのです。私の事は『豚』と呼んで下さい。人間はオークの奴隷をそう呼ぶと昔聞きました」


「ぶ、ぶたは無理でしょ。女性にそんな呼び方は出来ない。名前は何ていうの?」


「それでも呼んで貰わないと困ります。私が奴隷ではないと人間にバレればどんな目に合うか解りません。私を女性として扱ってくれるのは嬉しいのですが、今はその優しさが私にとって命取りになるのです。豚と呼んで下さい。豚っと!!!」


 何か怖い…… しかし『おい、ブタ』とはさすがに呼べない。


「じゃあ、せめてブタちゃんで良いかな?」


「はぁ、まあ最初はしょうがないでしょう。奴隷の分際で偉そうな事を言って申し訳ないのですが、これからマコト様には私の理想のご主人様になって貰わないといけないのです。これからも言いたい事は言わせて貰います。豚と自然に呼んで頂くまでは名前もお教え致しません」


「なんか、すいません……」 話がおかしな方向に行っている気がするが、どういうことだろう?


 何か他に狙いがあるのだろうか?


 まだ奴隷にするって決定ではないと思うのだが……。


 まあ、もう少しくだけた口調で良いのかもしれない――――。

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