第2話 サバイバル 2日目

 ハッと気づくと火は消えかけ、うっすらと空が明るくなってきている。


 慌てて薪を焚べ、伸びをする。身体のアチラコチラが固まっていて痛む。


 結局夜の間に敵? に襲われることはなかった。


 喉がカラカラだ。体を伸ばしながら水を飲みに川に降りていく。


 何か居る!


 鹿だ。


 自分の知っている鹿とはどこか違う気がするが、あれは何かと聞かれれば鹿と答えるしかない。


 鹿であるなら食料の事を考えると狩りたい。


 最近読んだマンガでは弓で鹿を狩っていた。


 しかし今は石斧しか持ってないので無理だろうし、そもそも人里にたどり着ければ狩りなどする必要もない。


 今は諦めて水を飲むことにする。


 川に近づくと鹿はサッと山に逃げてしまった。構わず顔を洗い水を飲む。


 しかし腹が減った。焚火を始末したら移動しながら何か食べ物を探してみよう。


 何かと言ってもキノコは危険な気がする。


 まったく知識が無いうえに毒があった場合は病院に行く事も出来ない。キノコは辞めておこう。


 まずは焚火に土を被せて完全に消火する。


 昨日苦労してつけた火だが、もうここには戻らないのでしょうがない。


 川下に向けて歩き出す。何か木の実みたいな物はなってないだろうか、たまに赤い実を見かけるが硬くて食べられる感じではない。


 あれも何か加工すれば食べられるのだろうか?


 辺りを見回しながらひたすら歩くしばらく行くと木にベリー系の赤い実を見つける。


 毒と言う事はないと思うが少し口にいれて様子をみる。


 酸味がかなり強いがまずくはない。ポケットいっぱいになるまで摘んで置く。


 今すぐ全て食べたいところだが、様子を見ながら時間をおいて食べていかないと急に腹が痛くなったら困る。


 もう少しいくと今度はもう少し大きめのヤマモモっぽい木の実を見つけた。


 こっちの方が美味しい。


 これも摘めるだけ摘んで後で食べることにする。


 しかしこういう木の実だけじゃ腹が膨れない。今日も人と出会えなかった場合の食料確保の為に弓を作っておくべきか……。


 材料になりそうな板が落ちているわけではないので斧で木を切って削るしかないと思うが、どうするか?


 後でいいか――今は歩こう。


 代わり映えのしない森の中をひたすら歩く。


 とにかく腹が減っているので、まだ早いと思いつつ先ほどの木の実を食べる。


 特に腹の調子は変わらないので問題ないのだろう。


 歩き続けていると視界が開ける、浅い谷にぶつかったようだ。


 下に降りる気はないので川の方に方向を修正して歩く。


 その時何か視界の中で動いた気がする。


 とりあえずしゃがみ辺りを伺う、気のせいでは無さそうだ。


 茶色い丸い物体が谷の向こうでゆっくり移動している。


 熊だろうか?少し小さい気もするが距離があるので良くわからない。


 何にしても気づかれない方が良いだろう。視界から外れるまで動かないでおく――。


 どこかに行った様だ。


 あれは何だったのだろうか特に危険な生き物では無かったのかも知れないが、それなりの大きさで犬よりは大きい。


 イノシシよりも大きかった気がする。


 アレは危険な生物だったのか、考えながら歩いていた時、近くの茂みが突然揺れる。


『バサバサバサ!』


 慌てて地面に伏せた。するとニワトリぐらいの鳥が飛び立っていった。


 焦った……死ぬかと思った。


 羽が落ちているキジだろうか、危険はないと思うが心臓に悪い。羽は拾っておく。


 初日にはあまり気配を感じなかったが、生き物は普通にいるようだ。


 もう少し用心して進む事にする。


 太陽の位置からして昼は過ぎたと思う。


 今日も人里にたどり着くことは出来ない可能性が高くなってきた。


 歩き疲れたのと空腹で気力も落ちてきている。


 木の実は食べているが腹が膨れない。


 そう考えると先ほどの鳥は出来れば捕まえたかった。


 こっちが先に気付けば捕まえられたかも知れない。


 次見つけた時の為にやはり弓を作ろう。鹿は無理でも鳥なら獲れるかもしれない。


 まずは今日の寝床を作って焚き木を集める。


 喉も乾いているので川に水を飲みに行く。


 ついでに弓作り用の手頃な太さの木を探す。


 川では木を削る用の石も探さなければ、やることは多い。


 丁度良い太さの木は寝床に選んだ場所の近くで見つかった。


 石斧で切り倒す。


 それを弓用の長さにもう一度切って、今度は薪を割るように半分に縦に割く、木の皮の部分も割いて板に近づける。


 さらに拾ってきた石で削るように形を整えていく。


 ある程度出来てきた所で弦と矢の作成をする。


 弦はツルを三つ編みにするか、木の皮を編む方が良いか? ツルを1本だと弱そうだし、編むと太すぎる気がする。


 木の皮は今はいだ分があるので、これを細かく裂いて捩じって三つ編みにしていく。


 思ったより簡単に丈夫な縄が出来た。これは良い弦になるだろう。


 ワラジもこれで作った方が良い気がする。


 次は矢を作る為にまっすぐな細い木を探して切り倒す。


 長さを調整し、取り敢えず3本作る事にする。先を削ってとがらせて羽を逆側につける。


 羽の向きがあるような気がするが良くわからない……。


 似た向きになるように3枚の羽を割いた木の皮でグルグル巻いておく。


 弦と矢ができたので次は弓を仕上げる。


 両端の先は細く真ん中は太めに残すように削っていく。


 するとだんだん日が暮れてきた。火をおこしておかなければ。


 昨晩使った火おこしの道具でこすって、昨日よりは手際よく火を点ける。


 薪をくべながら弓をまた削り仕上げていく。


 日が落ちて真っ暗になる前に矢を撃ってみたいので弦をはってみる。


 思いっきり体重をかけて弓を曲げて弦を結びつける。


 まだ不格好だが弓らしきものは出来た。近くの木に向けて試射してみる。


 一応矢はまっすぐ飛ぶが木には当たらない。


 3メートルくらいの距離でも当たらないのか……。


 何本か撃ってみたが、かする程度だった。


 完全に日が沈み、的が見えなくなるまで撃ち続ける。


 たまに当たる程度にはなったが一発勝負の狩りは無理かもしれない。


 そもそも狩りをしようなど考えが甘かった。


 他の手段を検討する必要があると思うが、今の空腹具合を考えるとすでに詰んでいる気もする。


 焚火の近くに座り込み考える。


 当然練習すればいつかは上手くなるし、鹿も狩れるようになるだろう。


 しかしそんな時間はない、食べなければどんどん体力は落ちていくし気力も持たない。


 目をつぶり今後について考え絶望的に暗くなる。


 その時目の端のアイコンが点滅して居る事に気が付いた。


 すっかり存在を忘れていたが、そちらに意識を持っていきステータス画面を開いてみる。


 どうやらレベルあがったようだ。


 レベル1だったのが2になっている。


 そしてスキル欄に《採取、木工、斧術、トレッキング、潜伏、弓術》と6つのスキルが点滅していて、その下にスキルポイント1と表示されている。


 弓術!! 


 これで悩みが解消されそうだ。


 そう思い弓術に意識を合わせてみる「弓術のスキルを取得しますか?」と表示された。


 これはどうやらスキルが6つ増えたわけではなさそうだ。


 6つから選ぶのか、弓術はもちろん欲しいが他のも現状では魅力的なものばかりで悩ましい。


 しかし弓術は確定だ。


 取得しますと意識する。


 スキル欄に弓術LV1がしっかりと明記された。


 他のスキルはなんだろうか? まだ取得してはないようだが? ランダムでこれらのスキルが現れたわけではないと思うのだけど……。


 最近の行動がスキルになったのだろうか? どれも身に覚えがある。


 レベル上がったのもこれらの行動で経験値を得てレベルが上がったのかもしれない。


 モンスターを倒さないと経験値が貰えないとかではなくて良かった。


 それでは、さっそく弓を撃ってみよう。先ほどと同じように弓をギュッと引き静かに離す。


 あれ?さっきもこうやっていたか?


 矢は先ほどとは違う勢いで飛び、狙った木の真ん中に突き刺さった。


 何か全然違う……。


 握っていた弓を見ると急にアラが目立ち手を加えたくなる。


 これもスキルの効果なのか……。


 まだ眠くないので、弓に細かく手を加えておく事にする。


 少しでも使いやすくして、明日は獲物を取らなくてはならない。


 満足いくまで弓を調整する事ができた。試してみたいが今は真っ暗で的になる木さえ見えない。


 今日はポケットの木の実で飢えをしのぎ、さっさと寝てしまおう。


 昨日からまともに寝てなかったので眠いはずだが緊張して眠れない。


 暗闇が怖い。


 ずっと一人で行動するのが好きだと思っていたが、そんな事はなかったようだ。


 普段は感じていなかったが、一人で部屋に籠っていても家の中には誰かしら家族が居ると言う安心感があったのだろう。


 今は普通に人恋しい。


 それでも暗闇に引きずりこまれるように意識を失って――。

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