第3話 サバイバル 3日目

 次に気が付くと、また火はほぼ消えていて辺りは微かに明るくなってきている。


 喉が渇いているが、まだ薄暗く川に行くには足元が見えず少々危険だ。


 もう少し明るくなるまで待とう。

 今のうちに消えかけた火を起こし、矢の先を焼いて硬くし石で細く尖らせる。


 これなら当たればささるだろう。石器時代は石や骨で矢じりを作っていたと思うけど石を研ぐ時間はない。今は木の矢で頑張ろう。


 だいぶ明るくなってきたので水を飲みに行く、いつ獲物を見つけても良いように準備して行く事にした。


 川には何か居るかもしれないから慎重に進む――。


 居た――。


 黒いキジの様な鳥が水を飲んでいる。

 少し遠いような気もするが気が付かれたら終わりだ。


 ここから狙ってみる。


 弓に矢をつがえ音を立てないようにゆっくりと引く、なんだか当たりそうな気がした時にそっと手を離す。


 吸い込まれるように矢がキジに向かい突き刺さる。


 キジは飛び立とうと羽をバタつかせるが、飛ぶ力は無く川へと落ちた。

 慌てて駆け寄ると幸いなことに浅瀬に落ちたので流されることもなく流木に引っかかっている。


 川に降りてキジを拾う事ができた。


 さて、鳥を捌いた経験はない訳だが……やってみるしかないか。


 まず頭を石斧でおとして首を川につけ血抜きする。

 その間に羽を全て毟る。矢を作る時の為にキレイな羽は取って置く。

 丁寧に一本も残すことなく羽を抜いていく。


 羽を全て毟ると少し丸鶏と言う感じになってきた。

 次に肛門から石のナイフで腹を裂いていく、内臓は食べる勇気が今回はないので、そのまま川に流す。


 石のナイフは切れ味が最悪で全然切れないが、力を込めて無理やり裂いていく。

 腹に手を突っ込み中身をかき出し川の水で中を洗う。


 だいぶお店で売っている鶏肉に近いものになってきた。

 手を洗い水を飲む。


 早く焼いて食べたいので焚火のそばに急いで戻ろう。


 このまま焼くと時間がかかりそうなので、もう少し細かく分解する事にした。

 手羽を外してモモを切り取り、木の枝にさして遠火で炙る。


 胸肉もとれそうだが、面倒なので二つに縦に切りこちらも枝を多めに刺して焼いていく。手羽は小さいので直ぐに焼けてきた。


 早く食べたい……。


 しかし火に近づけすぎると丸焦げになってしまう。


 じっくり遠火で焼くのだ。皮が焼けてたまらない香りが漂う。火に脂がしたたりジュッと良い音がする、美味そうだ。


 まともな食事は二日間食べていない。

 少し早い気もするが新鮮な肉だし、もういいだろう?


 かぶりつくと口いっぱいに脂が広がり空腹には堪らないが、味がしない……。


 塩欲しいな……。


 現代の濃い味付けに慣れ過ぎているのだろうか?

 良く噛みしめて素材本来の味を楽しむのだ!


 空腹は最高の調味料だったが、味が薄いのには変わらない。塩大事。

 しかし半羽食べてお腹は膨れた。残りは木の皮の紐で結んで持っていく。


 だんだん荷物が増えてきたのでリュックが欲しい、塩が欲しい、良く切れるナイフが欲しい、テントが欲しい、鍋が欲しい、物欲が止まらない。

 もう一度川に戻って水を飲む。あ、水筒も欲しいな。


 さて昨夜は少し眠り、今飯も食べて、水も飲んだ。


 今日は川沿いに一気に歩き人里までたどり着こうと思う。この石器時代の生活とはそろそろおさらばしたいものだ。

 少し川から離れ歩きやすそうな平地を探して歩いて行く。


 相変わらず見た事がない虫が目につく、時間があればもっとゆっくり観察してみたい。しかし今は生きていくと言う事だけで精いっぱいだ。


 食料はなんとかなりそうになってきたが、他にどんな危険があるか解らない。

 未だ遭遇していないが、モンスター的な脅威に出くわす可能性もあるだろう。


 もし何かあっても現状では何も出来ない。自然と歩く速度があがる――。

 太陽の位置が真上に近づいてきた。


 足が痛んできた。喉も乾いて来たところなので休憩する事にする。川に降りて、大きな石に座り足を川につける。


 冷たい川の水が歩き続けた足を冷やし、少し癒やされた。水を飲み、朝に焼いて持ってきた鳥を半分食べる。


 これで残りは4分の1だ。


 少し前に川の近くを歩いている同じ鳥を見かけたが荷物になるので狩らなかった。次見かけたら狩るべきだろうか?

 しかし移動のペースを落としたくないので、今はひたすら進むべきだろう。


 川下の方角は太陽が登ってきた方から考えて、ここが日本であったなら南だ。

 疲れた体を強引に立たせひたすら南に向かう。しばらく進むと空気が変わってきた様に感じた。


 懐かしい匂いがする。


 楽しかった夏休みを思い出す香り。 森が途切れ視界いっぱいに青空が広がる。


『海だーー! 』


 エメラルドグリーンの海、青い空に真っ白い砂浜が右を見ても左を見ても、どこまでも続いている。


 完璧なリゾートだ! 


 絶望しかない………………。


 焼けた砂浜に膝をつく。

 人は必ず川沿いに住むはずで、そこには町や村があり、この原始生活から抜け出せるはずだった。


 しかしそれらが無く海に着いたということはここが行き止まりで、しかも近くに漁港らしき人工物はいっさい見当たらない。


 考えたくないがここが無人島という事もありうる。


「最悪だ……」


 砂浜に大の字になり自然とおおきなため息が出る。


 また大きな決断の時が来たようだ。


 選択肢としては来た道を戻り、そのまま川上に登っていく。現実的な案だが、ただ戻るのはモチベーションを保つのがキツイ。


 もう一つは海沿いに移動する。運が良ければ漁をしている漁港や集落にぶつかるかもしれない。


 ただ問題は川を離れると飲み水に困るという事。


 残りはここに住む。水や食料は手に入り、家を建てられればロビンソンクルーソーにはなれるかもしれない。


 全然なりたくないが……。


 熱い風呂に入って、さっぱりして、美味しいご飯をお腹いっぱい食べて、暖かかくて柔らかい布団に包まれて眠りにつきたい。


 人間はこれだけで幸せなのだと心から思う。


 早く帰りたいが、ここが日本なのか、外国なのか、過去なのか、未来なのか、現代なのか、異世界なのか、違う惑星なのか、ゲームの中なのか、解らないと帰りようもない。


 素朴なステータス画面が出て来る時点で現実の地球上ではないとは思うが……。


 解らない事は考えるだけ無駄だ。今出来る事をしようと思う。

 まずは来た道を整理しておこう。


 この海が南の外れだとするなら、出発地点から少し西に進み川にぶつかってから、南にまっすぐ来た訳だ。


 選択肢は戻るしかなさそうだが、来たのは川の東側を歩いてきたので、今度は川を渡って西側を北に戻っていこう。


 だが、せっかく海に来たので塩を手に入れておきたい。


 とりあえず残っていた鶏肉に海水を振っておく。

 さっき食事のときに塩がほしいなどと我儘を言わなければ良かった。


 もしかしたら、この世界の神様がたったひとつの願い事を叶えてしまったのかもしれない……。


 まあ下らない事を考えてもしょうがない。


 ここに仮拠点を作り必要なものを揃えよう。欲しいのはリュック、塩、良く切れるナイフ、テント、鍋だった。


 まずは今夜ここに寝るのは決定なのでテントっぽい家を作ろう。


 森に戻って平地選び。平らじゃないと寝にくいので慎重に場所を選ぶ。

 そして草刈り、地面にごろ寝するしかないのでキレイする。


 昔キャンプで建てた事のあるドーム型テントは二本のポールをクロスさせて真ん中を弓なりに持ち上げ支柱にして、それにテントを固定していた。ポールの様な長さのよくしなる木を探すのは大変なので、代わりに4本の木を正方形に立てて中央でそれぞれの先端をツタで結ぶ。


 これで四角錐ができた。


 これだと木と木の間が空きすぎていて屋根を作るのが大変そうなので、もう4本を間に追加して同じように中央で結ぶ。


 これで八角錐の完成。


 これに大きい葉っぱを結んでいけば屋根が出来るので、川沿いにたくさん生えている大きなシダの葉を取りに行く。


 それと木の骨組みと葉っぱを結びつけるためのツタを拾う。


 シダの葉はテントすべてを埋めるために大量に集める必要がありそうだ。


 川と仮拠点を何度も往復し途中で焚き木やシュロの皮も集めておく。

 シダは真ん中で割いて重ねると屋根として使いやすいと思った。


 どんどん結んでいく――。


 結構な時間がかかったが隙間なく葉で埋めていく事ができた。


 完成だ。


 中から石斧を持った原始人が出てきそうな家が出来上がった。


 俺の事だな……。


 石斧を持った原始人って俺だろ……。


 早く進化したい……。


 少々落ち込んだが、家の出来は気に入った。家の中央で火おこしも出来そうだ。


 さっそく中央に石を組み火をおこす。わざと生木を燃やして煙を出し、家の内側から燻しておく。

 効果があるか解らないが、虫除けのつもりだ。


 バ〇サンしている間は家の中に居る事ができないので、ツタやらツルを集めに外をうろつく。


 戻ってきたが、まだ家の中が煙いので、外でツタやらに付いている葉などを落として、紐として使いやすいように丸く纏めておく。


 日がだんだん落ちてきた。


 家の中はまだ煙臭いがだいぶ落ち着いたので、中に入りシュロを地面に引いて、座り心地を整える。


 火に焚き木をくべて残っていた鶏肉を温めて食べる。

 固くなってしまったが、海水の塩味がついたので朝よりも美味しくなっている。


「やっぱり塩は必要だな」ひとり頷きながら鶏肉を味わう。


 火をつけたらまた煙くなってきた。

 天井を少し開けて煙の出る穴を作らないとダメみたいだ。


 とりあえず隙間を開けておくが、本当は雨が降っても良いように別に屋根が必要だと思う。


 今はもう暗いからそれは明日にしよう。


 夜は長いので内職だ。まずリュックを作ろうと思う。

 カゴはなんとなく作れそうな気がするので、担げるカゴを目指す。


 ツルを傘の骨組みのように置いて、他のツルで骨組みの間を交互に通しながらグルグル巻いていけば良い。


 理想は公園の掃除をしている人が背負っているカゴだ。思い出しながら近いものに仕上げていく――。


 急に眠くなってきた。


 今日は葉っぱの壁にだが囲まれているので、昨日より安心感があるのかもしれない。


 こんな頼りない薄い壁でもあるのと無いのでは違うようだ――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る