エピローグ 君はアイ
家に向かってのろのろと歩いていると、ふいに「透くん」と名前を呼ばれた気がした。あーあ、幻聴まで聞こえるようになっちゃって、と自嘲気味に笑う。
「透くん!」
今度は、ハッキリと声が聞こえた。振り向くと、アイが息を弾ませて立っていた。新しい幼馴染み型AIじゃない。僕の知ってる、懐かしいアイだ。
「透くん、私、帰ってきましたよ」
晴れ晴れとした笑顔で、アイは笑う。
「な、なんで・・・?だってアイは・・・、アイは、人格を失って、それで、新しい幼馴染み型AIが届いて・・・」
驚きと喜びが混じり合って、声が震える。アイは首を横に振った。
「私、修理工にお願いしたんです。少しずつ体が直されていって、喋れるようになったときに、絶対に記憶と人格は残しておいてって。透くんが大事だって、好きだって言ってくれた部分だから・・・。修理工さん、私のあまりの必死さにドン引きしてました」
「じゃ、じゃあ、あの子は・・・?」
僕が指さした、アイとそっくりの幼馴染み型AIは、トラックの荷台に運び込まれようとしている。
「間違って透くんの家に送ってしまったみたいです。私の顔にそっくりなのは、私のモデルが珍しく、私を写した姿にそのまま部品を搭載したから、らしいです」
「そ、そうだったんだ。でも、あの子には申し訳ないな。冷たく当たっちゃったから」
「記憶は引き抜こうのと思えば簡単に引き抜けますよ。機械ですから。私だって、前の幼馴染みのことを覚えていません。でも、別に寂しくはないです。今が楽しいですから」
あっけらかんと言い退けるアイが眩しい。
同時に、少し寂しくもなる。それはつまり、アイはいずれ僕のことも忘れてしまうということではないか。生身の人間とAIを隔てる壁はあまりに高い。それでも、僕は言う。
「アイ。改めて・・・・・・帰ってきてくれて、ありがとう」
ホッとしたことによって、今更涙が溢れ出てきた。情動のままにアイを抱きしめる。
「私が私のままで戻ってこようと思ったのは、透くんが一緒にいたいって言ってくれたからですよ」
アイの体から、背中に回された手から、温もりが伝わる。そこに流れているのが血液じゃなくても、柔らかい皮膚がスポンジだったとしても、それでも、僕は命尽きるまでアイと共に生きたいと思った。
〜完〜
幼馴染み型AI 半チャーハン @hanchahan
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