第3話 不良品

「ねえ、透の幼馴染み、あれ不良品なんじゃない?」


 公園で遊ぶメンバーで下校しているとき、ふと一人がそう漏らした。アイが不良品?どういうことだろう。


 だって僕はアイのことが大好きだし、アイも僕を大切にしてくれている。そんなアイを不良品扱いするなんて、許せなかった。


「アイは僕の大切な幼馴染みだ。アイのことを悪く言うな」


 そういうと、彼らは揃って顔を見合わせた。幼馴染み型AIの一人が口を開く。


「人類の発展に貢献する誇り高き人工知能である僕らは、常に人間の役に立つ存在でなきゃならない。あいつみたいに暗い雰囲気を撒き散らすAI、本来あってはならないんだ」


「でも・・・」


 AIである彼は、僕よりも確実に頭がいい。僕は何も言い返せなかった。


 ふと、肩に手が置かれる。


「ごめんね、暗い気分にさせちゃって。大丈夫。君の幼馴染みは立派に役目を果たしているよ。だって、君にとって大切な存在なんだろ?」


「うん・・・」 


 アイは僕にとって大切で、いなくなったりしたらとても寂しいと思う。だけど、アイはどうなんだろう。


 AIだから自分で考える力も持ってるけど、でも機械だから、プログラムされことを基に動いているだけなのかもしれない。


 アイにとって、僕はただの幼馴染みとして振る舞う対象でしかないのかもしれない。アイが僕に抱く特別な感情はなくて、数多いる人間の中の一人に過ぎないのかもしれない。


 そんな不安が、僕の中に生まれていた。


△△△△△△△△△△△△


 中学生になっても、僕とアイの関係は変わらず続いた。ジリジリと焼けるように熱いコンクリートをアイと二人で歩く。


「暑いね・・・」


「そうですね。溶けちゃいそうです」


「・・・そういえばさ、アイは暑さとか寒さとかを感じるの?」


 僕の記憶では、アイは熱中症警戒アラートが出るような暑い日も、氷点下の寒い日も平然としていた気がする。


 彼女にとっては半袖のTシャツもマフラーも手袋もただのファッションであるのかもしれない。


「内蔵されている温度計が上昇していれば暑いと感じます」


「そっか。じゃあ、アイは今暑いって感じてるんだね」


 アイと同じ世界を共有できていて良かったと、無性に嬉しくなる。


「アイの手、熱いね」


「透くんの手も熱いです」


 僕たちは、手を握り合いながら笑いあった。アイと過ごす時間が一番楽しいから、ずっと続いてほしいと思った。


「透ー、おはよっ」

 

 ふいに、後ろから肩に手が置かれた。同じクラスの反田はんだだ。


「おー、おはよ」


「お二人とも、今日もラブラブだね〜」


 反田が僕たちの繋いでいる手を見て、ニヤニヤしながらからかってくる。


「だからそんなんじゃないって。いつも言ってるだろ」


「えー、でもなぁ学年の半分くらいの奴はお前らが付き合ってるって思ってるぜ」


「マジか・・・。まあ確かにアイのことは大切だけど。幼馴染みとして、だから。恋愛感情とかそういうんじゃないから」


「へぇー、・・・あっそ」


 反田は、少しつまらなそうに頷く。


「じゃ、俺先行ってるわ。後はお二人でどうぞごゆっくり〜」


「あっ、おい!」


 まったく騒がしいやつだ。嵐のように去っていく背中を見つめながらつくづく思う。ひとつため息をついてアイに視線を向けると、心なしか顔が青ざめているように見えた。


「アイ、大丈夫?」


「はい・・・。大丈夫・・・、です」


 アイの顔には、無理をしているのが見え見えな強ばった笑顔が浮かんでいた。


「全然大丈夫そうじゃないよ。どうしたの?」


「・・・実は私、反田くんが苦手です。透くんと仲がいいので、言わないつもりだったんですが・・・」


「そうなの?」


 僕を気遣っていてくれていたのは嬉しいが、少し不可解な気分になる。反田は明るくて賑やかなので、基本的に誰にでも好かれる。


「反田のどういうところが苦手なの?」


「・・・嫌味を言ってくるところですね。さっきのも、実は私に対する嫌味だったんです」


「え・・・?」


 そうだったのか。全く気が付かなかった。


「透くんも薄々気づいているとは思うんですけど、私は他のAIとは違います。不良品の、欠陥だらけのAIです。暗くて、元気いっぱいでもなくて、一般的に好かれる女性的な要素を持っていません」


「僕はアイが好きだけど?」


 コホンと咳払いをされる。


「・・・さっきのは、私が透くんの幼馴染みとして相応しくないという遠回しな嫌味だったんです。恋人同士のようだと。最近の小説や漫画では、あまり幼馴染み同士では結ばれることがありません。だから、恋仲のように見えるのはあまり幼馴染みとして良いとはいえないんです」


「そうなんだ・・・」


 一瞬気分が沈むけど、すぐに頭を横に振る。


「そんなの関係ないよ。僕にとってアイが大切な存在であることに変わりはない」


「ありがとうございます」


 少し寂しげに笑うアイを見ていると、無性に何かしてあげたくなる。うーん、と頭を悩ませていると、ふとあるアイディアが浮かんできた。


「ねえ、今から学校サボって裏山に行かない?」



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