第2話 AIのアイ

 2○△△年。科学技術が発展し、AIが人間のやっていた仕事を任されるようになったり、一般の家庭にお手伝いロボットが普及したりと、人間とAIが密接に関わり合い、上手い具合に共存している時代である。


 街中がAIと人間とAIで溢れ返る中、また新たなAIが開発された。


『幼馴染み型AI』


 共働きの家庭が多くなる中、子供の孤独を解消するために開発されたAIである。幼馴染み型AIが瞬く間に普及していた頃、僕たちは出会った。


△△△△△△△△△△△


「初めまして。わたしは幼馴染み型AIです」


 彼女は、お金持ちの家で雇われているメイドみたいに格式ばってお辞儀をする。肩にかかっていた髪がパサリと落ちた。


「ねぇママ、えーあいってなに?」


「うーん。そうね、ロボットの仲間みたいなものかな?」


「ふぅーん。ロボくんとは全然違うね」


 僕は、お気に入りのおもちゃのロボくんの腕を動かしながら言った。


とおる、この子に名前を付けてあげて。実は、この子が自動販売機の側に捨てられているのを見つけて、まだ使えそうだから持って帰ってきたの。AIちゃんは記憶が消去されてて、自分の名前が分からないみたいだから」


 ウチは貧乏でAIを買えなかったため、道端で拾ったのを連れて帰って来たらしい。


「じゃあ、えーあいのアイにする」


 いくらなんでも一生使うことになる名前を決めるにしてはテキトーなテンションだったと思うんだけど、アイはとても嬉しそうに笑ってくれた。


「素敵です。透くんからから名前をもらって、私はとても嬉しいです」



 僕はアイと、色々なことをして過ごした。一緒に鬼ごっこをしたり、並んでお絵描きをしたり、つみきで遊んだりした。


「私、透くんと一緒に遊ぶの楽しいです」


 ときどき、アイはそう言って笑う。さざ波のような、静かだけど、静かに心を洗うような笑い声。アイは、誰に対しても丁寧な言葉しか使わない。


 大人びてもいて、幼馴染みらしくないと言えばらしくないが、僕はアイの、ミステリアスな魅力というか、そういうところも好きだった。


「僕もだよ。アイと遊ぶの楽しい」




 小学校に上がると、僕とアイは毎日一緒に登校した。AIなのにアイが学校に行っていたことを考えると、クラスの半分くらいの子がAIだったということになる。


 誰が人間で誰がAIなのか、僕には見分けなんて全然つかなかったんだけど。


 クラスのみんなは人間もAIも関係なく仲が良く、僕にも何人か新しい友達ができた。


 でも、その中でアイが一人でいることは多かった。女の子と仲良くすることもなく、僕たち男子の輪の中にも入ってこないアイは、たいてい自分の席で俯いていて、どこか話しかけづらい雰囲気をまとっていた。



「ねえ、今日みんなで公園に遊びに行くんだけど、アイも来ない?」


 一度、アイを皆との遊びに誘ってみたことがある。でも、アイは一瞬顔を強ばらせて、強く首をブンブンと振った。


「ごめんなさい。行けません」


 まるで何かを怖がっているような声音に僕はその理由を尋ねようとする。


「別に、行きたくないやつは来なけりゃいいだろ」


 開きかけた口は、誰かのそんな声によって封じられてしまった。


 帰りの会が終わった後だったので、みんなは続々と帰り支度を始める。僕もランドセルに教科書を詰め込んで背負った。


「透ー、早く来いよー」


「今いくー」


 教室を出る前、もう一度アイを振り返ってみたけど、彼女は俯いたままで目も合わせてくれなかった。


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