第325話 冒険者バン 19歳 初めての冒険01
学院には基礎科というのがある。
本来ならここで2、3年かかってもおかしくないらしい。
しかし、私は早く冒険者活動に身を入れたい、なるべく早く卒業したいと思って、1年間でその課程を修了させた。
今思えば無茶なことをしたものだと思っている。
しかし、そのおかげでずいぶんとずいぶんと精神的には鍛えられた。
朝から晩まで学問漬けの日々。
ずいぶんといろんな学問に触れることが出来たのは私の人生にとっていいことだったのだろう。
貴族の歴史とかいう訳のわからん授業を除いては実に有意義な時間だった。
そんなある意味怒涛の日々を送り、やっと自由を手に入れた私だが、なぜか今、教授の部屋に呼ばれて説教を受けている。
「あー。バン君と言ったか?君ねぇ。私は仮にも薬学の教授だよ?そりゃまぁ長生きしてるから魔獣なんかにも詳しいけどね?だからと言って、魔獣の質問ばかりというのはちょっといただけない。あと、課題だけど、もっと真剣にやりたまえ。君くらい優秀ならもっと深く突っ込んだ学習だってできるだろうに。なんで、こういつもいつも当たり障りのない及第点ギリギリの所を狙ってくるかな?」
と、先ほどから言っているのは指導教授のリー…なんとか、という長い名前の通称リーファ先生だ。
そんなリーファ先生のお説教を聞きながらも、
(さて、今日の晩飯は何にするか…。酒も飲める歳になったし、簡単な荷物運びの依頼で小銭も入ったことだ。たまには焼肉にでも行ってエールの一杯も飲んでやろうか)
と考えていると、リーファ先生から、
「…聞いてるのかい?」
と、いわゆるジト目を向けられた。
「こほん」とひとつ咳払いをして、いかにも聞いていましたという顔をする。
そして、私は無駄だとわかりつつも、
「リーファ先生。前にも申し上げた通り、私は冒険者志望です。…いろんな事情があってこの学院に通わされていますが…。なので、この学院の中でもっとも魔獣について見識の深い先生の元で学ぶことを選びました。…薬学については、確かに申し訳ないと思う所もありますが、どうかその辺りは勘弁してください」
と一応盾付いてみた。
「あのねぇ…」
とリーファ先生が呆れた顔になる。
そして、リーファ先生は深いため息を吐くと、
「じゃぁ、こうしようじゃないか」
と言って、私に薬草採取の課題を与えると言ってきた。
「なに。簡単に手に入る薬草ばかりだ。ただ、量が必要だったりするからね。たまに在庫がなくなることがあるんだよ。…まぁ、だからと言って困りはしないが…。まぁ、それはいい。そこで、君に課題を与えるというわけだよ。課題だから薬草の代金は支払わんよ?ただ、冒険者志望だと言うんだから、そのついでに魔獣の1匹でも狩って小遣い稼ぎをするといい。どうだい?お互いの困りごとが解決できて、君の単位も自由も保証されるんだ。悪い話じゃなかろう」
といってニヤリと笑うリーファ先生の提案に私は一も二も無く乗る。
むしろ天恵だとさえ思った。
そんな私を見て、リーファ先生は、
「はっはっは。嬉しそうな顔をするじゃないか。まぁ、自分でもぱっと思いついたにしてはいい案だと思っているがね」
と言って豪快に笑う。
私も私で、
(思いつきだったのか…)
と少し呆れつつも、私はこれから本格的な冒険者人生が始まると思うと嬉しい気持ちが勝って、
「はっはっは。なんとも良い思いつきですね」
と言って、こちらも負けじと豪快に笑ってやった。
翌日。
喜びのあまりか、若気の至りか、少し飲み過ぎてしまったことを反省しつつ、痛む頭を抱えて王都を出る。
行先は北の辺境伯領の南側。
船で行けば3日ほどの距離だ。
そこから2日ほどかけて歩いたところに目的の薬草はあるらしい。
私は初めての遠出にワクワクしつつも、
(はたして大丈夫だろうか)
という不安も抱えて、とりあえず船に乗り込んだ。
狭い三等船室に押し込められつつもこの世界で初めての船旅を楽しみ、街道をのんびりと歩く。
そして、地図にあったやや開けた森に到着するとさっそくその中へ入っていった。
西の辺境伯領にいた頃、ハイキングついでに何度か森に入ったことはあるが、この森は初めてだ。
苦労しながら地形を読み、なんとか進む。
そして、何度か同じ場所を巡りつつも、2日間かけてようやく目的の薬草が生えていそうな場所へとたどり着いた。
(たしか、割と開けていて陽当たりのいい斜面に生えてるんだったな…。えっと、見本とではヨモギみたいな感じに見えたが…)
と思いながら、それらしい場所を探す。
すると、しばらくして、なんとかそれらしい薬草の群生地を見つけた。
持ってきた見本と見比べる。
(お。これか…。見た目はそのまんまヨモギだな。…食えるんだろうか?)
と思いつつも、
(冒険中に腹を壊したらシャレにならんからな…)
と思いとどまり、さっさとその薬草を採取した。
リーファ先生曰く、摘み方は適当でいいらしい。
それでも一応丁寧に扱った方が良かろうと思ってナイフを使い根元の方から丁寧に摘み取っていく。
どのくらい作業しただろうか。
やがて日が暮れかかってきた。
(おっと。いかん。つい夢中になってしまった。さっさと野営場所を見つけないと)
と思いつつさっさとその斜面を後にする。
やがて、少し開けた場所を見つけると、私はそこで野営をすることにした。
コンロを出して適当に料理を作る。
先程摘んできた薬草の味が気になったが、一応我慢して持ってきた食材でリゾットを作って食べた。
(…帰ったら肉が食いたい)
と思いつつ、少ししょっぱくなってしまったチーズリゾットを腹に入れていく。
(やはり安いチーズはしょっぱいばかりで味が薄いな…)
などといっちょ前な感想を持ちつつ、食事を済ませると、私はさっさと眠りに就いた。
翌朝。
時折獣の気配に睡眠を邪魔されつつも無事だったことを喜び適当なパンとスープで朝食を済ませ、
(さて…。薬草の量は十分だろうが、念のため、もう少し採っていくか。時間的には半日くらいなら何とかなるだろう)
と、なんとなく計算しながら、さっそく昨日見つけた群生地に向かう。
そして、昨日同様、丁寧に採取を行っていると、遠くに妙な気配があるのを感じた。
(魔獣か!?)
と、一瞬で身構える。
獣とは違う気配。
独特の殺気。
おそらく魔獣だろうと咄嗟に判断した。
(なるほど。これが魔獣の気配か…)
と感心しつつ気配を探る。
(落ち着け、いつもの稽古を思い出せ…)
と心の中で唱え、私はその気配を追って行動を開始した。
斜面を降り、しばらく行くと水場のような所に出る。
周りは木の間隔がやや広い林。
その水場で牛が水を飲んでいた。
一見、普通の水牛のように見えるが、その体は普通の水牛よりもやや大きい。
(もしかして、ボーフか?)
と思いながら、私は慎重にそちらへ足を進める。
途中、まだ大丈夫だろうと思っていた所で先に気付かれてしまった。
その水牛がこちらに鋭い視線を向けてくる。
その目は普通の獣とはまるで違い好戦的で、殺気だっているように見えた。
(…ちっ)
とこちらが有利な態勢に持ち込めなかったことを軽く悔やみつつ刀を抜く。
そして、
(落ち着け。大丈夫だ)
と自分に言い聞かせながら、刀を正眼に構えた。
静かに気を練る。
ボーフはこちらを威嚇するようにその大きな角をこちらに向けてきた。
(突進してくるらしいな…)
と思いつつ、こちらもいつでも迎え撃てるように心を決める。
そして、じりじりとした時間が流れることしばし。
「ブモォッ!」
と野太い声を出して、ボーフがこちらに突っ込んできた。
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