第300話 エデルシュタット家の大冒険13

私の目の前には、切断されたヤツの尾がある。

そして、振り返ると、私の背後にはヤツの首筋に剣を突き刺すジークさんがいた。

(終わったか…)

そう思って、再び斬り落とされたヤツの尾を見る。

前回とは違い、ヤツの尾は根本からバッサリと斬り落とされていた。

そこでふと違和感を持つ。

(私の刀で斬ったとすれば、よほど深く斬り込まなければこうも深くは斬れない…)

そう思って、今度は脚を見た。

これも綺麗に切断されている。

(これだけの太い物を斬ったというのに、まるで抵抗を感じなかった…)

ただ、私は「いける」と感じた。

冷静に考えれば変な話だ。

恐竜の脚を骨ごと断ち斬っておきながら、何の抵抗も感じなかった。

それに、自分の刀の長さよりも太い物を綺麗に切断している。

(これはいったい…)

私が、そんな疑問に捕らわれていると、

「きゃん!」(やったね!)

「にぃ!」(上手に出来た!)

と言いながらルビーとサファイアが私のもとへ駆け寄ってきた。

「きゃん!きゃん!」(わーい!わーい!)

「にぃ!」(やった、やったー!)

と言いながら私の周りをくるくると楽しそうに回る2人をきょとんとした目で見つめる。

ただ、次の瞬間わかった。

(ああ、お手伝いっていうのはこのことか…)

そう気が付いて、しゃがみ込むと私の胸に飛び込んできた2人を抱き上げる。

「よくわからんが、手伝ってくれたんだな?」

そう聞く私に、

「きゃん!」(うん。いっぱい応援したんだよ!)

「にぃ!」(ちゃんとお手伝いした!)

と言って、やや誇らしげな顔をする2人を撫でてやる。

「そうか。ありがとう」

私は、いろいろと思うことはあったが、とりあえず2人に礼を言った。


「くぅん…」(うふふ…)

「ふみぃ…」(えへへ…)

と2人が照れたような声を上げて、いつものように私に頭を擦り付けて甘えてくる。

すると、コハクとエリス、フィリエに乗ったリーファ先生が近づいてきて、

「やぁ、相変わらず…と言いたいところだが、バン君もかい?」

と聞いてきた。

私は一瞬意味が分からず、きょとんとする。

そんな私に向かって、リーファ先生が頭の上のユカリを指した。

リーファ先生の頭の上でユカリは、

「ぴぃ!ぴぴぴっ!」(えっへん!私もすっごく頑張ってお手伝いしたんだよ!)

と言って胸を張っている。

それを見て私は、

(ああ、なるほど。そっちもか…)

と納得した。


「ああ。そうらしいな」

と苦笑いで答える。

リーファ先生も苦笑いで、

「…ははは。なんとなく予想はしていたけど、予想よりもちょっとすごかったね。その剣のおかげかな?きちんと魔力が乗っていてびっくりしたよ」

と言うが、魔力云々はよくわからない。

ただ、とにかく、2人の不思議な力と私の刀が上手く同調したとリーファ先生は言いたいらしい。

そう解釈した私は、

「まぁ、それが家族の力ってやつなんじゃないか?」

と肩をすくめてまた苦笑いでやや冗談っぽく答えた。

「はっはっは。なんともバン君らしい答えだね」

と言ってリーファ先生が笑う。

そこへジークさんとアインさんがやって来て、

「さすがだな」

「ええ。すごい物を見せていただきました」

と口々に言うので、私は、人生最大のドヤ顔になると、

「これがエデルシュタット家全員の力ってやつだ」

と、高らかに宣言した。


「はっはっは。なんとも立派な家族だな」

とジークさんが笑い、

「ええ。伝説に残る一家ですよ」

とアインさんも笑う。

そこへリリーさんとエリカさんもやって来て、苦笑いで、

「教会の人達が見たら感涙しそうな光景でしたね」

とリリーさんが言った。

その言葉を受けて、エリカさんが、

「いやいや。あれは見せられないでしょう。もし見られたらそれこそ聖人に認定されて祀り上げられてしまいますよ?」

とやや困ったような苦笑いでツッコむ。

「ああ。そうだな。この戦力を飾りにするのは避けたい」

今度はジークさんがまじめな顔でそう言うと、

「ははは。姉上はともかく、バンドール殿が聖人に認定されたら国際問題ですからね」

とアインさんはやや悩ましげな苦笑いでそう言った。


私にはその辺りの政治の機微というやつはよくわからないが、

「あー。村長の仕事が出来なくなるのもまずいし、トーミ村が政治のごたごたに巻き込まれるのもいやだな。それに家族そろって美味い飯が食えなくなったら、私はその教会?とやらに歯向かうかもしれん。…すまんが、ジードさんになんとかしてくれと頼んでくれ」

と、素直に自分の気持ちを伝える。

すると、私の言葉に、ジードさんたちは全員苦笑いで、

「はっはっは。いかにもバンドール殿らしいな」

「ええ。まったくです。安心してください。父上もそのつもりですよ」

「…騎士団としても、きちんと対応いたします」

「うふふ。ルビーちゃんやサファイアちゃんが教会の中で大人しくしている姿は想像できませんね」

と口々にそんな事にはさせないと言ってくれた。


よくわからないが、私は少し安心して、

「刀を振り回す田舎者の冒険者を聖人?なんかにしたら、エルフィエルは周りの国から笑い者にされてしまうぞ?」

と冗談めかしてそう言う。

その言葉に今度はリーファ先生が、

「ぷっ!…あはは!おいおい。バン君が聖人って。それこそ世も末ってものさ」

と言って、腹を抱えて笑い出した。

私も、

「はっはっは。よくわからんが、確かに世も末な感じがするな」

と言うと一緒になって笑う。

うちの子達も、

「きゃん!」(サファイアはわんちゃん!)

「にぃ!」(ルビーは猫!)

「ぴぴぃ?」(私ただの鳥だよ?)

「ひひん!」(そうだよね。私もただの森馬だもん!)

と言って笑い出した。

ゴロンと仰向けに転がる亜竜の横でみんなの笑顔が広がる。

そんなみんなの笑顔を見ていたら、無性に腹が減って来た。


「はっはっは。そうと決まればさっそく飯だな。腹が減ってかなわん」

という私の言葉に、

「きゃん!」(心臓食べる!)

「にぃ!」(生っ!)

とうちの子達は、激しく同意してくれる。

そして、

「はははっ。バン君は相変わらずだね」

とリーファ先生がいつものセリフを言うと、他のみんなも笑顔を浮かべた。


「よし、じゃぁ、ちょっと…どころじゃないくらい早いが、朝飯も少なかったことだし、さっそく肉を剥ぎ取ろう」

と言って、私は再び気を練ると、ヤツの上に飛び乗って胸の辺りに刀を突き刺す。

そのまま一気に刀を振るい、まずは胸を開いて例のごとくブラックオパールのように虹色の輝きをもつ魔石を取り出した。

解体は後でじっくりすればいいだろう。

そう思ってまずはルビーとサファイアのために心臓を取り出す。

当然だがデカいのでそこは剣鉈を使って慎重に切り分けた。

次に、アバラの部分から適度に脂の乗った部分を剥ぎ取る。

(相変わらず美味そうだ)

と思いながら取り分け、さっそく麻袋にたっぷり詰め込むと、まずは昨日の野営地まで戻っていった。


献立は当然ジンギスカン。

今すぐ焼いて食いたい衝動を抑えながら、米を炊く。

そして、あの味噌玉を使ってタレを作ると、次に肉を切りにかかった。

やがて米が炊ける匂いが辺りに漂い、食欲を刺激しだす。

(…夜はカレーか、はたまたピラフか…)

ともう、晩飯のことを考えていたからだろうか?

それとも、私の空腹が予想以上だったからだろうか?

気が付けば皿にてんこ盛りになるほどの量の肉を切っていた。


(いくらなんでも多過ぎたか?)

とも思ったが、

(余った分は晩飯に使えばいい。いや、この人数だ。余らんだろう)

と思い直して、さっそくスキレットを温め油を引く。

そして、炊きあがった米をそれぞれに皿に盛ると、さっそくそれぞれに肉を焼き始めた。


(むっ!相変わらず美味い)

とろけるような甘い脂と癖の無い肉。

適度な弾力もいい。

「きゃん!」

「にぃ!」

と私の横でルビーとサファイアが歓声を上げ、ハツにかぶりついている。

「むっふー!これだよこれ!」

と相変わらずのリーファ先生の声が響き、みんながそれぞれにとにかく美味いという感想を述べながら、夢中で肉と米を口に運んだ。


怒涛の勢いで肉が無くなっていく。

そして、気が付けば、みんなが腹を抱え、米も肉もきれいさっぱり無くなっていた。

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