第266話 伯母来たる02
しばらく、甥姪と遊ぶ伯母2人を微笑ましく見つめて時を過ごすが、日が傾きかけてきたのを見て、
「そろそろ晩餐の時間が近いようですね。時間になったら呼びに来させます」
と言って私たちは席を立つ。
当然、ルシエール殿もユーリエス殿も寂しそうな顔をしたが、
「おばさま、またね」
というユークの世界一可愛い挨拶に結局はデレデレとした表情で快く送り出してくれた。
屋敷に戻って、リビングに入ると、もう一度子供たちを褒めてあげる。
きゃっきゃと喜んで、うちの子達と戯れ始めた2人を微笑ましく眺めながらみんなでゆっくりとお茶を飲んだ。
今日の夕食は残念ながら私とマリー、ユークとリアの4人と伯母2人の計6人で取ることになっている。
(しばらくの間、いつもの晩飯はお預けだな…)
と少し残念に思いながらも、明日は子供達と一日遊べると喜んでいた伯母2人の期待に満ちた顔を思い出し、
(なら、ついでにうちの子達も全員紹介して、一緒に離れの庭で遊んでもらおうか?確かルシエール殿はうち子達を紹介しろと言っていたし、さらに喜んでもらえるだろう)
と、そんなことを考えながら夕食時が来るのを待った。
やがて、ドーラさんがやって来て、
「今、あちらにはシェリーちゃんが伝えに言ってくれました」
と言ったので、私は玄関まで出迎えに行く。
「なんだか以前伺った時と建物の形が違うように思いましたが、食堂を増築されたんですってね」
と聞いてくるルシエール殿に、私は、
「ええ。なにしろ大家族になってしまいましたので」
と苦笑いで答えた。
「うふふ。素敵なことですわ」
と笑うユーリエス殿にも、
「はい。これ以上ないくらい素晴らしい家族に恵まれたと思っています」
と正直な気持ちを遠慮せずに言う。
私のそんな言葉にユーリエス殿は、
「あらまぁ」
と驚いたような表情を見せたあと、
「うふふ。そんなこれ以上ないくらい素晴らしい家族に囲まれてマリーも生活しているんですね」
と嬉しそうに笑いながらそう言ってくれた。
そんな言葉に私も嬉しさを感じながら食堂の扉をくぐる。
すると、ほどなくしてドーラさんがカートを押して入ってきた。
どうやら今日はちょっとしたコース仕立てらしい。
まずはコンソメスープとシーザーサラダが出される。
ユークはこのシーザーサラダなら野菜をパクパク食べてくれるので最近我が家ではよく出されるようになっていた。
そして、私は客人がコンソメスープを飲むのをやや緊張した面持ちで見守る。
今日のスープは、あの冒険者向けに出している安い方のスープの素を漉したものだ。
そんな私の密かな緊張をよそに2人は何気なくスープに手を付けると、普通に美味しそうにひと口飲んだ。
「ルシエール殿。スープはいかがですか?」
と聞いてみる。
「…ええ、美味しかったですが…まさか?」
私のそんな質問でルシエール殿気が付いたようだ。
「ええ。今出しているものは一手間加えたものですが、なにも手を加えていないものは後日試食していただきましょう」
私のそんな言葉にルシエール殿はうなずき、
「それを楽しみにしてきましたのよ」
と商魂たくましい感じで微笑んだ。
「あら。なんのことです?」
とそんな会話の意味が分からないユーリエス殿が何事かと聞いてくる。
そんな可愛らしい妹の質問に姉であるルシエール殿は、
「うふふ。試食会まで内緒よ」
とわざとらしく不敵な表情を作って笑い、ユーリエス殿は、
「まぁ。私だけ仲間外れですの?」
と可愛らしく拗ねたような表情を作ってむくれたふりをした。
そんな一幕を挟み、食事は進む。
メインは鹿肉のコートレット。
鹿肉の野性味がかすかに残っているが、その分うま味が強い。
おそらくドーラさんの技によるところが大きいのだと思うが、野性味と鹿の肉が本来持っているたんぱくな美味さが両立している。
素晴らしい一品だ。
そして、次にベーコンと野菜のキッシュを挟むと、カルボナーラが出された。
おそらく、義父上経由でルクロイ伯爵領にもレシピは届いていたのだろう。
ユーリエス殿が、
「私、これ好きなんですよ」
と嬉しそうに食べている。
私が、
「お口に合ったようで良かった」
と言うと、
「主人も好きですの。本当にいいものを教えてもらったと喜んでおりましたわ」
とにこやかに夫婦そろって気に入ったと教えてくれた。
(よかった。これで確実にこの世界に美味い物が広まっていく)
そんな嬉しさを感じつつ私もなるべく上品に食べ進める。
ちなみに、ユークはケチャップたっぷりのミニハンバーグと子供用のお皿に入ったカルボナーラにご満悦のようだ。
「これ、すき!」
と満面の笑顔で口の周りにクリームソースをたっぷりとつけながらモリモリと食べている。
そんな楽しい食事は和やかに終わり、デザートのアップルパイが出されると、そこからしばし歓談の時間となった。
「仕事の話は明後日にいたしましょう。明日は皆で遊ぶんでしたわね」
と、明日の予定を聞いてくるルシエール殿に、私は、
「ええ。うちのペットたちもきちんと紹介したいと思っておりましたから、明日は一日、みんな揃って離れで過ごしていただけます」
と一応の予定を伝える。
「そうですわね。うふふ。とっても楽しみです。ただ、明後日は私だけ村を案内してもらいたいと思っておりますが、いかがです?」
そう言うルシエール殿の目はやはり商人のそれだ。
私は、心の中で苦笑いしつつも、
「田舎のことで退屈かもしれませんが、のんびりした風景でもご案内差し上げましょう」
と、少しだけとぼけた回答をしてみた。
「あら、それは素敵ですわね。西の公爵領みたいな都会では見られないものも見られるでしょうから、楽しみにしておりますわ」
と言って「うふふ」と笑うルシエール殿に合わせて私も「ははは」と笑う。
私は、
(こういう腹芸みたいなことは得意じゃないんだが…)
と心の中で苦笑いしつつも、やはりこれも村の利益に関わることだと思うと、
(さて、しっかりやらねばな)
と、気を引き締めなおした。
翌日。
いつものように家族で朝食を済ませると、さっそく離れへと向かう。
私とマリー、ユークとリア、メルとリズとシアに加えてうちの子達も全員集合するから、けっこうな大所帯になった。
離れに着くと、さっそくうちの子達は庭に回り、私たちもリビングに入る。
ルシエール殿とユーリエス殿にうちの子達を紹介し、しばし戯れると、その後は庭できゃっきゃとはしゃぐ子供たちを見ながらのお茶会となった。
「みんなとってもかわいくて賢い子みたいですわね。まるで私たちの言っていることがわかってるみたい」
ユーリエス殿のそんな言葉に私は少しドキリとする。
しかし、そこは事実なので、私は、
「ええ。ちゃんと伝わっていますよ」
とあっさり答えた。
すると、ユーリエス殿はさもおかしそうに、
「あら。バンドール様は意外と親ばかさんなんですのね」
と言って笑うので、おそらく「親の贔屓目」だとでも思ってくれたのだろう。
私は心の中で、
(まぁ、意思疎通が出来ても出来なくてもうちの子達の可愛さに変わりはないが…)
と思いながら、
「ええ。とんだ親ばかなのかもしれませんね」
と、笑顔で答えておいた。
昼は庭に敷物を敷いてサンドイッチを食べ、ちょっとしたピクニック気分を味わう。
その後、ルシエール殿もユーリエス殿もうちの子達とたっぷり戯れ、どうやらその可愛らしさの虜になってしまったらしい。
「できることなら、連れて帰りたいわ」
「ええ。本当に」
とつぶやくルシエール殿とユーリエス殿の目はやや本気だ。
私は親としてこの子達の可愛らしさを誇りに思いつつも、
「ははは。それはご勘弁いただきたいですね」
とあくまでも冗談っぽくだが、こちらも本気でそう言った。
その後、遊び疲れて昼寝をしてしまった子供達を優しく見守りながら、思い出話に花を咲かせる。
私の小さい時の話など面白くないだろうと思ったが、ざっくりとした概要を話すと、
「…まぁ」
と驚かれた。
どうやら、食いしん坊と剣術バカは筋金入りだと思われてしまったらしい。
そんな楽しい時間はあっと言う間に過ぎる。
いつの間にか日が西に傾き始めていた。
「さて。晩餐まではもう少し時間がありますが、我々は先に戻ります。ゆっくりいらっしゃってください」
という私の一言で、今日の楽しいピクニックはお開きとなった。
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