第246話 変わり者のエルフさん02
今、離れはある程度整えているとはいえ、もぬけの殻だ。
必要な物はすぐに届けさせようと言うと、ルッツォさんは、
「簡単な寝具と枕、あとは手ぬぐいを何枚か貸してくれるかい?あとは何もいらないよ。なにせずっと野営をしながらここまで来たくらいだからね。君ほどじゃないかもしれないけど、慣れたものさ」
と、いかにも気軽にそう言う。
私は、そんなルッツォさんに苦笑いで、
「まぁ、他にも生活に必要そうなものを適当に見繕って後で届けさせよう」
と言って、とりあえずシェリーに頼んで離れに案内してもらった。
ルッツォさんの突然の訪問という驚きの出来事に苦笑いしながら、とりあえず役場に戻る。
アレックスに事態を説明すると、
「とりあえず、長屋に空きがあったはずです。小屋なら近くに取り壊し前の作業小屋がありますから、そこを仮押さえしておきましょう」
と言って、さっそく動き出してくれた。
やたらと呑み込みが早い部下に感心しつつもとりあえず、今日片付けておくべき書類に目を通し、また昼を食いに屋敷へと戻って行った。
今日の昼はベーコンとナスと茸のパスタ。
とりあえず昼は客室でルッツォさんと2人で食べる。
「晩御飯はケチャップを使ってお作りいたしますので」
と、少し申し訳なさそうに言うドーラさんに、ルッツォさんは、
「いやいや。これも美味しそうだ」
と言ってさっそくひと口食べると、
「むっ!?」
とひと言うなったあと、夢中でパスタをすすりだした。
「いやぁ…。聞きしに勝る美味しさだったよ。特にあのエベルダケが良かった。そう言えば、あれはこの時期だったね。やっぱり季節の物を季節に食べるっていうのは食事の醍醐味だよ」
と食後のお茶を飲みながら、ご機嫌にそう言うルッツォさんに、私は、
「で、これからどうするんだ?」
と大まかな予定を聞いてみる。
ルッツォさんは、そんな質問に、
「うーん…そうだねぇ…」
と、少し考えながら、
「とりあえず、開発は秋くらいまではかかるよ。…たぶんだけどね。そのあと帰ってもいいけど、この辺りの冬は雪だろ?だから春、雪が溶けるくらいまではお世話になりたいね」
と、にこやかにそう言った。
そんなルッツォさんの言葉に、
(やはり開発というのは時間がかかるものなんだな…)
と思いながらも、私は、
「なるほど。わかった。さっき聞いたら長屋に空きがあるらしい。作業場は古くなって取り壊す予定だった作業小屋がひとつあるそうだ。簡単に手を入れる程度だったらすぐできるだろう。これから一緒に見に行くか?」
とルッツォさんに提案してみる。
「おお。それはありがたい。ついでに村の見物もしてみたいから、軽く案内してくれるかい?」
と言うルッツォさんに、私は、
「ああ、了解だ。じゃぁさっそく行こう」
と快く応じて、さっそく部屋を出た。
部屋を出て、ルッツォさんに先に玄関で待っていてくれと伝えると、私はとりあえず食堂に向かう。
そこでのんびりとお茶を飲んでいたみんなに、
「ルッツォさんに村を案内してくる」
と話すと、
「ああ、バン君。その前にこの子達の紹介をしておかないかい?」
と言って、リーファ先生がルビーとサファイアとユカリに視線を向けた。
私は、
(ああ、そうか。エルフさんたちにはこの子達が普通のペットだということを事前に言っておかなければならなかったな…)
と思い出し、リーファ先生に向かって、
「そうだな」
と言ってうなずくと、
「よし、みんなでお客さんにご挨拶をしに行こうか」
とうちの子達に微笑みかける。
するとうちの子達は、
「きゃん!」
「にぃ!」
「ぴぃ!」
といつもの元気な返事をしてくれたので、みんなで一緒に玄関へと向かった。
「なっ!?」
と言って予想通り固まるルッツォさんに、リーファ先生は、
「いいかい、ルッツォ。この子達は普通の犬と猫と鳥だよ。ああ、あとこれから馬も紹介するけど、そちらも普通の森馬だからね。いいかい。よく覚えておいてくれ。この子達は普通のペットでこのトーミ村は辺境のどこにでもある普通の村だ」
と念を押すようにそう言う。
ルッツォさん真面目な顔でそう言うリーファ先生に対して、ひきつったような、困ったような表情を浮かべつつも、
「仰せのままに」
とややかしこまってそう答えた。
そんな一幕を挟んで、少し緊張気味のルッツォさんに、まずユカリが、
「ぴぃ!」(よろしくね!)
と元気に挨拶をする。
すると、ルビーとサファイアも、
「きゃん!」(よろしくね。犬のサファイアだよ!)
「にぃ!」(ルビーは猫!)
と元気に挨拶した。
そんな3人の元気で可愛い挨拶に、ルッツォさんも、
「ははは…。あー、私はルッツォと言います。こちらこそよろしくお願いしますね」
と何かを諦めたような苦笑いで、一応にこやかに応じてくれる。
私が、
(わかってもらえたようで良かった)
と思って安心していると、突然ユカリがリーファ先生の頭の上から、ルッツォさんの頭の上に乗り替え、
「ぴぃ!」(コハクちゃんの所にも行こう!)
と言った。
「えっと…。ああ、森馬さんのお名前がコハクさんと言うのですね。ええ、是非とも紹介してください」
とまた、苦笑いで言うルッツォさんに、私は、
「あー、ルッツォさん。うちには森馬が3頭いてな。それぞれ白い子がコハク、黒い子がエリス、茶色い子がフィリエという名前なんだ」
と先に3人いると事を教える。
するとルッツォさんはまた驚いたような顔をしたあと、
「…ははは。いやぁ、もうどうにでもなれだね」
とため息交じりの苦笑いでそう言ってくれた。
厩に着き、今度は割と落ち着いて挨拶を済ませると、さっそく私はエリス、ルッツォさんにはフィリエを貸してもらって村の案内に出発する。
「いやぁ…。なんというか。バンには驚かされることばかりだよ」
と苦笑いでそう言うルッツォさんに、私も、
「ははは。自分でも驚いているさ」
と苦笑いで答えた。
「しかし、このフィリエ号…いや、フィリエさんと言った方がいいのかな?この子もエリスさんもなかなかどうして。素晴らしい森馬だね」
と言うルッツォさんに、私は、
「ああ。そうらしいな。貰い物だからよくわからないが、とにかく2人ともいい子だよ」
と やや自慢げに答える。
自分のうちの子を褒められて喜ばない親はいない。
そんなやり取りをしていると、さっそく長屋に着いた。
「ここが長屋だ。全部で4棟ほどあるが、今空いているのは…、ああ、ここだ」
と言って、扉を開き簡単に中を見せる。
「おお!素晴らしい。ちゃんとした家だね」
と喜ぶルッツォさんに、
「まぁ、普通の家ではあるな…」
と少し呆れ気味に答える。
(まぁ、あのあばら家で生活していたんだから、普通の家にも感動する気持ちはわからなくもないが…)
と思いつつ、井戸や集会場なんかを案内し、とりあえず隣近所にルッツォさんを紹介して回った。
あの妙に人懐っこい笑顔でさっそく長屋のご婦人方と馴染んでいる様子に安堵感を覚えつつ、次に作業小屋の候補を見せに行く。
私にとっては予想以上にボロボロだったが、どうやらルッツォさんは気に入ったらしく、
「いいね!なかなかの趣だ。そうだね、雨漏りしない程度に屋根を直してもらえればそれで十分だ。いやぁ、こんなに素敵な物件を紹介してくれてありがとう」
と笑顔でそう言ってくれた。
(他人の感性というものはわからないものだな…)
と思いつつも、
「もし、手狭になったりしたらいってくれ、小屋で良ければいつでも建てられる」
と一応追加で言っておく。
その後、飯は宿屋でも食えることや、欲しい物の注文や手紙はギルドを通すと良いとか、おそらく何かとつながる事もあるだろう鍛冶屋や研ぎ屋、革屋なんかを紹介して屋敷に戻った。
時刻は夕方。
少し遅くなったが、リビングでお茶を飲む家族をゆっくりと紹介する。
リズとユークを紹介すると、ルッツォさんは、思い出したかのように、
「ああ、そうだ。祝いの品を持ってきていたんだった。ちょっと取って来るよ」
と言ってリビングを出て行くと、しばらくして何やら弁当箱くらいの大きさの木箱を持ってきてくれた。
見ればなかなか綺麗な寄木細工で出来ている。
何だろうかと思って見ていると、私の興味深そうな表情に気が付いたのだろうか、ルッツォさんは、少し得意げな顔で箱のふたを、宝石箱を開くような感じでカパッと開いた。
音楽が流れだす。
(オルゴールか!?)
私はこれまでこの世界でオルゴールを見たことが無かったから、おそらくルッツォさんの発明だろう。
なんの曲かはわからないが、優しく澄んだ音色が心地いい。
「どうだい?驚いただろう」
と得意げなルッツォさんに、
「ああ…。本当に驚いた…」
と感心したようにそうつぶやいて答えた。
リーファ先生を除く女性陣はその澄んだ音色をうっとりとしながら聞き、男性陣とリーファ先生は、その不思議な箱が一体どんな仕組みになっているかが気になっているように見える。
私は、短いフレーズがリピートしていることから、おそらく仕組みは私の記憶にあるオルゴールとそれほど変わらないだろうと思い、
(なるほど…。これほど細かい細工ができるのなら、魔道具の小型化もできるかもしれないな)
と思って私は一人違う方向に感心していた。
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