36章 結婚式、再び
第227話 結婚式再び01
結婚式の翌日。
伯爵家のみなさんと1日を過ごす。
始め、私は遠慮しようかとも思ったが、むしろそちらの方が無粋だろうと思ってお付き合いすることにした。
メイドが演奏するピアノに合わせて順番にマリーと踊り、庭に出て例の花畑を見ながらみんなでお茶を飲む。
庭師の爺さんがどこからか横乗り用の鞍を見つけてくると、マリーは馬に乗り、マーカス殿一緒にと庭を一周してみせた。
家族の笑顔は晩餐まで続く。
夜は少しの間、男同士、女同士で話す時間が持たれた。
男性陣の話題は思い出話。
小さい頃のマリーの話をとても楽しく聞かせてもらった。
そして翌朝。
いよいよ出立の時を迎える。
別れを惜しむ家族の涙と再会を誓う笑顔に見送られ、私たちはトーミ村への帰路についた。
行きと違うのは、荷物に何着かの服が増えていることと、ジュリアンが同僚の騎士に時々からかわれていることくらい。
馬車の中から時々、きゃっきゃという声が聞こえてくることは行きと変わらないが、その内容はきっと少し違っているのだろうな、と思いながらも旅は順調に進む。
途中に寄る宿場町は行きと同じ。
やはり行きと同じく6日をかけてアレスの町に到着した。
いつものようにケニーに実家への連絡を一応頼むが、
「ご実家からは、すぐにお連れするように仰せつかっております」
とのことだったので、そのまま実家へ顔を出す。
「いい式だったな」
応接間に入るなりそう声を掛けてくる兄上に、
「はい。ただ、突然でなければもっと良かったのですが」
と冗談交じりにちょっとだけ抗議した。
「ふっ。まぁ、あの馬をやるからそれで許せ」
「おお。それは願っても無い。ありがたく頂戴して、それで手を打ちましょう」
また、そんな冗談交じりの会話をすると、そこからは事務的な話になる。
「まぁいい。で、ジュリアン殿はどうするつもりだ?」
「とりあえず希望を聞いてみるつもりです」
「そうか。なかなか優秀な男らしいな。余るならうちで引き取りたいくらいだ」
「はははっ。それはメル…妻のメリーベルが嫌がるでしょう」
「ああ、そうだったな。で、給金はお前が出すのか?」
「ええ。この際なので、アレックスの給金も私が出すことにしようかと思っておりますが、辺境伯様は反対しませんか?」
「ん?それは今更だろう。後で手紙でも出しておくから心配するな。それよりも財政は大丈夫なのか?」
「ええ。今のところは、なんとか」
「そうか。困ったら言え」
「ありがとうございます」
伯爵は最初、ジュリアンの給金を持つと言ったがそれは断った。
役場の事務をしてもらうのに村が給金を出さないわけにはいかない。
それに、この際なのでローズの賃金とマリーの生活費も断ろうと思ったが、それは上位貴族的に少しまずいらしい。
村への援助額もそうなのだとか。
貴族の仕組みはよくわからないがそういうものらしいので、そこはお言葉に甘えさせてもらった。
「今日はゆっくりしていけ。飯は不味いがな」
という、兄上の冗談に、
「実家の飯は美味いものです」
と応じる。
そんな私の言葉に兄上は、
「ふっ」
と笑った後、
「ハンバーグと言ったか?あれはいいな」
とひと言そう言った。
どうやら実家の飯もやや美味しくなっているらしい。
そんなやり取りを経て夕食となる。
それなりに気を遣ってくれた料理を食べながら、また少し仕事の話をした。
そろそろ他の領で働いている長男を呼び戻す予定だとか、街道が通れば、エルフィエルが少しだけ近くなるが、距離は適切に保てと言う忠告を聞きながら、
(これからは、政治向きのことも多少は考えねばならんな…)
と考える。
(守る者が増えるというのは難しいな…)
と、思いつつも、私たちの横でさっそく義姉上と打ち解けた様子のマリーを見て、
(この人と一緒ならなんとでもなるな)
と楽観的かもしれないが、妙に確信めいた思いを抱きながら、ちょっとだけ頑張ってくれた実家の飯を堪能した。
翌朝。
一行に少し待ってもらってコッツのところに顔を出す。
簡単な注文をし、結婚のことを告げると、
「やっとか」
と言われ、祝いだと言って鯛に似たウルの干物を1箱もらった。
(コッツにまで心配されていたのか)
と思うと、苦笑いしか出てこない。
とりあえず、
「余計なお世話だ。ありがとう」
と言って、ありがたく祝いの品を受け取ると、実家へ引き返し、我が家へ向かって出発した。
(実家はいいものだが、やはり我が家が一番だ)
そう思いながら、慣れた道、見慣れた景色の中を進んで行く。
そして、やっとトーミ村が見えてきた。
(たった1か月程度離れただけで、こんなにも懐かしく感じるとは…)
なんとも言えない郷愁が湧いてくる。
それは、マリーも同じだったのか、馬車の窓から顔を出し、
「やっと帰って来られましたね、バン様」
と懐かしい物を見るような表情でそう声を掛けてきた。
マリーが、もう我が家のことを「帰って来るべき場所」だと思っていてくれることに感動する。
そんな感動と郷愁を胸に私たちはトーミ村へと入っていった。
道すがらすれ違う人や、遠くで農作業をする人たちから「おめでとう」の声が掛けられる。
その声に、手を振り、少し照れながら屋敷に戻ると、いつものようにルビーとサファイアが一番に飛びついてきた。
「きゃん!」(おかえり、バン!)
「にぃ!」(お肉、早く食べよう!)
ルビーの言葉は少し謎だったが、とにかく甘えてくる2人をこれでもかと撫でまわす。
そして、
「おめでとう。バン君、マリー」
「ぴぃ!」(おめでとう)
「おめでとうございます、村長、マリー様」
「お2人ともおめでとうございます!」
「おめでとうございやす」
「ひひん!」(マリーもバンもおめでとう!)
「ぶるる!」
「…ぶるる」
というみんなの言葉に、嬉しさが込み上げてきた。
「ありがとう。ただいま」
「ありがとうございます。ただいま帰りましたわ」
「ただいまかえりました」
「ただいまです!」
と私たちも笑顔でその声に答える。
「さぁ、お疲れでしょうからまずは中に」
というドーラさんの声に、
「ああ。そうだな。色々報告もあるし中でゆっくり話そう」
そう応じて、ここまで送ってくれた騎士たちに、
「今日は泊まって行くといい」
と声を掛け、私たちは懐かしの我が家の玄関をくぐった。
旅装を解き、ジュリアンを除く護衛の騎士たちには客室でくつろいでもらう。
そして、全員が集まった食堂でお茶を飲みながら、
「あー。まずは報告させてくれ」
と言って、さて何から報告したものかと思いつつも、
「あー。とりあえず一つ目は、たいしたことじゃないと言えばたいしたことじゃないんだが…」
と前置きしたうえで、マリーに目をやり、軽くうなずき合うと、
「あちらで結婚式が準備されていてな」
と、照れながら自分たちのことを報告した。
すると、みんなが驚いたような感じで目を見開き、顔を見合わせる。
私はそんな様子に、ほんの少し疑問を持ったが、
「ああ、いや。そのうち、我が家でもちゃんと式を挙げようと思っているから心配しないでくれ…。というか、その準備なんかを手伝ってもらいたい。すまんがよろしく頼む」
と言って軽く頭を下げた。
「あと、もう一つあってな。ここにいるメルとジュリアンが結婚して、村で暮らすことになった」
と、2人の方に視線を向けながら伯爵領で起こったことの要点をかいつまんで報告する。
当然ながら驚いているみんなに、メルは照れながら、
「そういうことになりまして…」
と嬉しそうにはにかみながらそう言い、ジュリアンは、
「これからお世話になります。よろしくお願いします!」
と言って深々と頭を下げた。
そんな2人を、みんなはまだ驚きから覚めない様子ながらも、
「こちらこそよろしくお願いします」
とか、
「おめでとう」
と言って、笑顔と拍手で歓迎する。
何の心配もしていなかったが、やはりみんなが快く受け入れてくれたことにはほっとした。
そんな驚きからいち早く覚めたズン爺さんが、
「しかし、そいつぁ…。ちょいと忙しくなりますなぁ」
と苦笑いで言って、その言葉に他のみんなもうなずき合う。
「とりあえず、あっしはみんなに伝えてきやさぁ」
と言ってズン爺さんが席を立ち、
「あ、じゃぁ私はご婦人方の所を回ってきます!」
と言ってシェリーも慌てて席を立っていく。
そんな様子を私がぽかんと見ていると、ドーラさんが、
「みなさん考えてることは一緒だったんですねぇ」
と少し困ったような感じの笑顔をリーファ先生に向けた。
「ああ。そうだね。まったく…」
と言ってリーファ先生も肩をすくめて苦笑いする。
そして、私たちの方へ視線を戻すと、
「あー。と、いうわけだからバン君。明後日は村中総出で君たちの結婚式を挙げるよ。メルとジュリアンのことは知らなかったから、間に合うかどうかわからないけど、どうにかするから楽しみにしておいてくれ」
と言った。
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