第213話 真夏の大冒険03
翌朝。
いつものように夜明け前に目を覚まし、朝食の支度にとりかかる。
うちこの子達を見ると、みんな気持ちよさそうにスヤスヤと眠っていた。
やがて、スープが良い匂いを立て始めると、リーファ先生が起きてくる。
「やぁ、おはよう。バン君」
「ああ。おはよう」
そんないつもの会話を交わしていると、次はサファイアが起きて、
「きゃん!」(バン、おはよう!)
と元気に挨拶をしてくれた。
「ああ、おはよう」
と笑顔で返す。
ふと見ると、ルビーはまだ夢の中のようだ。
私はとっくに起きているコハクに苦笑いを送ると、コハクもちょっと困ったような顔を私に見せてくる。
すると、サファイアがルビーのもとへトテトテと歩いていって、
「…きゃふぅ。きゃん!」(…もう、ルビーったら。ほら、ご飯だよ!)
と、言ってルビーを鼻で軽くつついて起こし始めた。
「んにぃ…」(わかったぁ…)
ルビーはなんとかそう言うが、まだちょっとうとうとしている。
「…きゃふぅ」(…しょうがないなぁ)
また、サファイアがため息を交じりにそう言って、ルビーをゆすり、
「きゃん!」(お肉なくなっちゃうよ!)
と、ルビーにとって一番のキラーフレーズを口にした。
「ふみぃ!」(やだ!)
と言って、ルビーが飛び起きる。
「ぴぴぃ!」(あはは。おっかしー!)
と言って横でユカリが笑うと、ルビーが、
「…にぃ」(…お姉ちゃんのいじわる)
と言って、サファイアを軽くにらんだ。
「きゃふぅ。きゃん?」(もう。ルビーが早く起きないからでしょ?)
とサファイアが困ったような顔で笑い、ルビーも、
「ふみぃ…」(だってぇ…)
と、恥ずかしそうにうつむく。
そんな会話に、私はおかしくなってしまって、2人をそれぞれ抱き上げると、
「はっはっは。ちゃんと起きられて偉いぞ、ルビー。サファイアもちゃんとお姉ちゃんしてて偉いな」
と言って、2人を撫でる。
そして、
(なんだか、2人の会話がやたらはっきりと聞こえたが…)
と思って、ふとリーファ先生の方に視線を向けると、軽く「うん」とうなづかれた。
「たぶん、昨日のあれのおかげだね」
と苦笑いするリーファ先生に、
「…ははは。まぁ、そうだろうな」
と、私も苦笑いで答える。
うちの子達は私たちのそんな会話を不思議そうな顔で見ていたが、
「とりあえず、飯にするか」
という私の一言に、
「きゃん!」
「にぃ!」
「ぴぃ!」
「「「ひひん!」」」
と元気よく返事をして、今日も楽しい一日が幕を開けた。
その日は、みんなで楽しくおしゃべりをしながら進む。
どうやら、ユカリは一番おしゃべりのようで、「あの実は美味しいよ」とか「あの木の葉っぱは柔らかいから敷物にするの」というようなことを教えてくれた。
みんなもそれを楽しそうに聞き、「わたしも食べてみたい!」とか「ユカリちゃん物知りだね」と言って、微笑ましい会話をしている。
まるで、一番下の妹が一生懸命お話しているのを姉たちが優しく聞いてあげているような雰囲気だ。
そんな微笑ましい光景に、私もリーファ先生もついつい楽しくなって、「あそこのあれが美味かった」というようなグルメ遍歴の話に花を咲かせる。
すると、そんな会話を聞いていた、サファイアが、
「…きゃふぅ。きゃん」(バンもリーファも相変わらずだね)
と言ったのをきっかけにみんなが笑った。
冒険は楽しく進む。
その日も楽しく飯を食い、みんなで固まってゆっくりと眠った。
翌日の午前中、だんだんと濃くなる森の空気に何かを感じ取ったコハクが、
「ぶるる!」(そろそろ!)
と言うと、みんなが一気に気を引き締める。
そこからはコハクが先導して、時々方向を変えて進んでいった。
いち早く気配を感じて、避けてくれているのだろう。
そんなコハクを頼もしく思いながらも、気を抜くことなく慎重に歩を進める。
そうして進むこと数時間やや小高い尾根筋に出た。
一旦、周りの景色を観察する。
とはいえ、一部は山の陰に隠れて見えない。
もう少し移動してみるか、と思った時、ユカリが、
「ぴぃ!」
と鳴いてサッと飛び立った。
その行動に私は一瞬あっけに取られてしまう。
そんな私に、リーファ先生が、
「見に行ってくれたみたいだよ」
と、ユカリの行動の意味を教えてくれた。
そんなユカリに感心しつつ、ついでに小休止をいれる。
干し果物をかじっていると、ユカリはすぐに戻ってきた。
「ぴぃ」(あっち)
と言うユカリが顔を向けている方向を見ると、確かに山があってそこから先は全く見えない。
「ありがとう」
私はまずユカリに礼を言って、こちょこちょと撫でてやる。
「よし、進める所まで進もう。おそらく目的地の手前で野営になる。少しきついかもしれんが、頑張ってくれ」
私がそう言って、コハクとエリスを撫でると、2人は、
「「ぶるる!」」
とやる気を見せてくれた。
フィリエは少し緊張しているだろうか。
しかし、リーファ先生が、
「大丈夫だ。みんながついてる」
と、優しく言い聞かせると、
「ぶるる」
と鳴いて、一応、落ち着きを取り戻してくれた。
慎重、かつ大胆に進む。
数時間進むとユカリが言うように遠くにそれらしき林が垣間見えるようになってきた。
リーファ先生に目を向けると、
「ああ」
と言ってうなずく。
やがて、日が暮れてきたところで、適当な場所を探し今日はそこで野営することにした。
森馬の3人は下草を食み、ルビーとサファイアは干し肉、ユカリはドライトマトをそれぞれ食べる。
私とリーファ先生は簡単なスープとパンで食事を済ませた。
「熊くらいだったらいいが…」
食後のお茶を飲みながら私がそう言うと、リーファ先生は、
「ああ。しかし…」
と言って私に視線を向ける。
私はそんなリーファ先生の視線にうなずくと、
「そうだな。ああいう所は狼が出やすい。あと、林の手前は開けていたから、ヒーヨ辺りも気を付けた方がいいだろう」
と、落ち着いた声でそう答えた。
「そうだね。両方はさすがに無いと思うけれど、どっちが出てきても対処できるようにしておこう」
そんなリーファ先生の言葉をきっかけにいつもの役割分担の話し合いが始まる。
その結果、
ヒーヨだった場合はリーファ先生の弓と魔法が主で私が援護。
狼だった場合は私が前衛に出て、リーファ先生が後衛でみんなを守る。
ということになった。
そんな話を聞いていたうちの子達から緊張感が伝わって来る。
そんなみんなに、私もリーファ先生も優しく微笑みかけながら、
「安心しろ。絶対に守る」
「ああ。かすり傷どころか近寄らせさえしないから安心してていいよ」
と言って、みんなを順番に撫でてやった。
その日もみんなで固まって眠る。
私とリーファ先生の笑顔に少しは緊張がほぐれたのだろうか。
ルビーを筆頭にみんな安心して眠りに落ちていった。
夜中、私とコハクはわずかな気配に気が付いたが、一応、何事もなく朝を迎える。
さすがに、その日はルビーもすんなりと起きてきた。
簡単な朝食の途中。
「たぶん狼だ」
と言うと、リーファ先生の顔が曇る。
昨晩の気配はおそらく偵察だろう。
縄張りの巡回の途中にでも出くわしてしまったという感じだった。
狼なら、リーファ先生にとってはヒーヨよりもやりにくくなる。
「頼んだよ」
そう言って、真剣な目を向けてくるリーファ先生に、
「ああ。もちろんだ」
とひとこと言うと、簡単な朝食を済ませて、さっそく目的地を目指して出発した。
しばらく行くと、目的地の林の入り口が見えてくる。
リーファ先生に目を向けると、どうやら目的の木で間違いないようだ。
「さて、勝負だな」
私はそう言うと、静かに丹田に気を溜め始める。
リーファ先生も短弓と矢を手にして抜かりなく気合を入れていた。
抜かりなく歩を進めていく。
そして、短い下草が生える林の中を1時間ほど進んだ所でコハクが、
「ぶるる」
と鳴いて、戦闘開始の合図を出した。
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