第135話 狼退治はみんなのお仕事05
村の警備体制は問題ないだろう。
念には念を入れて配置をしておいた。
追い込み役は『黒猫』が指揮をしてくれるはずだ。
こちらも任せられる。
村に迷い込んでくるヤツがいたらアイザックの指揮で迎撃できる体制だ。
リーファ先生も遊撃で動いてくれる。
屋敷も大丈夫だ。
ローズとシェリーに加えて、ズン爺さんがいくつか罠を仕掛けてくれるらしい。
避難所になる世話役連中の家も大丈夫だろう。
炭焼きの連中が要所で弓を構えてくれるらしいし、おっちゃん連中までサスマタの稽古をしてくれている。
無理はするなと言ったが、
「おらが村を守るのに無理もへったくれもねぇでさぁ。村長は安心して森で暴れてきてくんなせぇ」
と言われてしまった。
要所の確認と行動計画をアイザックとザックに伝えると、どちらもすんなり理解してくれて、
「決行は明後日の夜明け前だ」
と告げると、さっそく準備に取り掛かってくれると言う。
問題は私と『青薔薇』だなと思っていると、アイザックが、
「『青薔薇』の残りの連中を呼んでくる。どうせ、その辺りにいるだろう」
と言って、席を立った。
アイザックが執務室を出ていき、私とザックが再び地図を眺める。
すると、
「おい、ザックとかいったか」
と言って、リズがザックに話しかけた。
「ああ。どうした?」
と、ザックが何気なく答えると、リズは、
「なぁ、このおっさ…、いや、村長はいったい何者なんだ?」
と疑問をぶつける。
(たしかに、おっさんだが、そう面と向かって言われると、少し傷つくものだな)
と思って私が苦笑していると、ザックは、
「村長以上にこの森に詳しい人間はいない。それに、この村の最大戦力は村長だ」
とまた何気なく答えた。
「はぁ!?」
とリズが驚く。
私も驚いた。
なにせ、この村の最大戦力はリーファ先生だ。
そこは訂正しておかねば、と思って、
「いや、ザック。それは違うぞ。…たしかに森にはそれなりに詳しいが、浅い場所は炭焼きの連中の方が詳しいし、なんなら山菜採りのご婦人方の方が詳しいかもしれないくらいだ。あと、この村の最大戦力は私じゃない」
と言って、リーファ先生のことを告げようとしたら、ザックが先に口を開き、
「相変わらずですね」
と言って苦笑する。
「いや…」
と私が言いかけると、ザックは、
「わかっています」
とまた苦笑いした。
「いや、だから…」
と私はまた、弁解しようとするが、ザックは、
「この村の最大戦力は、みんなの団結力なのかもしれませんね」
ときざなことを言って、
「そういうことですよね?」
と私に笑顔を向ける。
私は、
「あ、ああ…」
としか言えない。
なんともきざなセリフだが、それも確かに事実なのだから、否定するのもおかしい。
なんともすっきりしないが、仕方ない。
「まぁ、そういうことだ…」
と言って、とりあえずその場はそういうことにしてしまった。
それを聞いたリズは、
「そう言うことか」
と言って、なんだか苦笑いをしている。
わかってくれたのだろうか?
私がそう思っていると、
「『黒猫』にそこまで言わせるんだ。しっかり見せてもらおうじゃないか、その最大戦力ってやつの実力をさ」
と言って、「はっはっは」と今度は豪快に笑った。
なんだか誤解をされているようだが、この際それはどうでもいい。
ともかく、最善を尽くして、村を守る。
今はそれだけを考えて行動すべき時だ。
細かいことは後でなんとでもなるだろう。
そう思って、とりあえず私も納得した。
「それはともかく、私たちの動きだな」
そう言って、再び地図に目を落として自分たちの動きを考える。
南からの追い立て役は10人ほど。
2手に分かれて追い込む手筈になっている。
おそらく最初に敵にぶつかるのは彼らだろう。
上手く強襲してくれれば、敵はむやみやたらと抵抗せずに、一旦退いて態勢を立て直そうとするはずだ。
そこへすかさず東側つまり村側からも追っ手を掛けて追い込む。
そうすればヤツらは間違いなく北側から回り込むことを選択するはずだ。
統率個体のいる群れならではの戦略的な行動を逆手に取る。
万が一、南と東のどちらかが破られたとしてもリーファ先生とエリスが素早く気配を察知して、迎撃に動いてくれるはずだ。
あとは、アイザックも一応いるからなんとかしてくれるだろう。
あれはあれで、頼りになる男だ。
さて、次に私たちの役目だ。
目的は統率個体率いる本体の討伐。
本体の群れの規模は4,50。
2,3個の別動隊がいて、あまり数を減らさずに合流するとなれば最終的には6、70を想定しておかねばならない。
統率個体を討ち取ってしまえばあとは烏合の衆になるとはいえ、とにかく、とんでもない数だ。
だが、だからこそ移動のルートはある程度絞り込める。
おそらく、ヤツらの取れるルートは3つ。
そのうち、村に一番近いルートは冒険者に先回りしてもらってつぶしてもらう手筈になっているから実質2つだ。
そして、そのどちらのルートを通ったとしても必ず途中で同じ草地に出ることになる。
いや、むしろヤツらは積極的にその草地を目指してくるはずだ。
こちらの数は30弱。
あちらはその倍近い数がいる。
統率個体がいるのであれば、数と機動力の有利を活かして開けた場所での集団戦に持ち込むだろう。
その程度の知恵は回る連中だ。
だが、そこを私が叩く。
むしろ、そこで無いと殲滅はできない。
こちらには不利な条件もあるが、とにかく向かって来るのを斬ればいいというだけだ。
わかりやすい。
問題は『青薔薇』の戦力だが、4人と言うことは、リズが前衛で、盾役の中衛、後衛に弓と言った所だ。
珍しい形だと遊撃がいたりするかもしれないが、それならそれでいくらでもやりようはある。
詳細はこれから確認すればいいが、ともかく数を減らして討ち漏らしを始末してもらうことに注力してもらえればそれでいい。
そんなことを考えていると、アイザックが『青薔薇』の残りのメンバーを連れて戻ってきた。
私はさっそく立ち上がって、自己紹介をする。
「村長のバンドール・エデルシュタットだ。よろしく頼む」
と言って、右手を差し出すと、まずは、
「はーい。おねがいします。サーラです」
と言って、リズよりやや大柄な女性が手を握り返してきた。
なんともふんわりというかぽややんとした印象のしゃべり方だが、なかなか場数を踏んでいるらしく、立ち振る舞いにあまり隙がない。
おそらく盾役で、使うとすれば槍だろうか?
そんな感じの手だ。
次に、
「「…ます」」
と言って、後ろの2人がぼそっとつぶやく。
「あらまぁ。ご挨拶はきちんとしなきゃいけませんよ?この子達はエリーとリーエちゃんって言って、見ての通り、双子の弓士さんですね」
とサーラが代わりにその2人を紹介してくれた。
見た目では全く区別がつかない。
装備の傷の位置が少し違う程度であとは全く同じだ。
(せめて、何か目印でもつけてくれればいいのだが…)
と私が思っていると、
「呼び間違っても大丈夫ですよ。2人とも勘がいいですから」
と言って、サーラが「うふふ」と笑う。
お転婆な感じのリズ。
意外と冷静な感じのサーラ。
無口なエリーとリーエ。
なんとなく、『黒猫』に似ているように思うのは気のせいだろうか。
それはともかく、
「そうか。おそらく覚えられん。そこは適当に流してくれ」
と言って、最初から謝っておく。
おそらく覚えられないだろう。
それだけは自信があった。
「さっそくだが、作戦を共有したい」
私がそう言うと、『青薔薇』の4人はソファだったり椅子だったりに適当に腰掛ける。
地図を広げてまずは、全体の概要を共有した。
一通り説明を終えると、『青薔薇』の4人はそれぞれにうなずいている。
どうやら納得してくれたようだ。
次に私たちの行動を確認する。
私は最初に、
「すまんが、今回の指揮は私が執る。異論があれば言ってくれ。その場合は他のパーティーを連れて行くことになる」
とはっきりと言った。
こういうことは最初にはっきりと言っておかなければならない。
おそらく『青薔薇』はまだ私を信用していないだろう。
いや、会ったばかりで信用しろという方が無理だ。
リズを真っすぐ見つめると、リズは、
「…はぁ」
とため息を吐いて、
「わかった。とりあえずそれで納得しようじゃないか。で、あたし達の役目はなんだい?」
と本当に一応、という感じで納得してくれた。
私は、
(…こういう、半端な信頼はあまりよくないのだが)
と思いつつも、
(『黒猫』を追い込み役から外すわけにはいかないし、私1人では無理なのも事実だ)
と思って、
「ありがとう。おそらく敵の本体は4,50だ。下手をしたら6,70くらいになるかもしれん。私1人では無理だ。後から追っ手の連中も参加するだろうが、『青薔薇』の4人にはそれまでの間、主に牽制と討ち漏らしの討伐を頼みたい。統率個体は私がやる」
と頼む。
すると、
「へぇ。すごい自信だね。一応、聞いとくけど、討伐の実績はあるのかい?」
とリズが質問してきた。
(…おいおい。その辺を説明してなかったのか?)
と心の中でアイザックにため息を吐きながらも、私は簡単かつ正直に、
「アイザックや『黒猫』に確認してもらってもいいが、一応、エイクやディーラの特殊個体ならソロでいける。最近だと、魔法の得意なエルフさんと2人でオークをやってきた。11匹だ」
と自分の経験を告げる。
「はぁ!?」
とリズが叫んだ。
「…まぁ」
と言ってサーラも目をぱちくりしている。
エリーとリーエの表情はかわらない。
「嘘じゃねぇんだろうな?」
と言うリズはまだ半信半疑といったところか。
横からアイザックが、
「残念ながら嘘でも冗談でもねぇ。こいつの専門は薬草採りだが、その行きがけの駄賃に熊を狩って来るようなバカだ。まぁ…、見ればわかるさ」
と言うと、ザックも、
「私は目の前でイノシシの特殊個体を斬る所を見学させてもらいました。一瞬でしたよ」
と言った。
私はついでと言っては何だが、
「狼の経験も何度かある。一番多いのは30くらいだったはずだ」
と付け加える。
(こんなことで信頼してもらえればいいが)
と思ったが、リズは何も言わない。
その代わり、サーラが、
「まぁまぁ。それじゃぁ今回のお仕事は思ってたよりも楽ちんですねぇ」
とのんきな声でそう言った。
私は、
「いや、楽ではないぞ?なにせ数が数だ。それなりに厳しいことになる。それに万が一私がダメだったときは、統率個体を頼むことになるから、そのつもりでいてくれ。冒険に油断は禁物だ」
と言って、くぎを刺す。
しかし、サーラは、
「はーい。大丈夫ですよ」
と何とも間延びした感じでそう答えた。
(本当に大丈夫なのか?)
と一瞬疑ってしまったが、
(いや、いかん。私がこの4人を信頼しなくてどうする。信頼してもらいたいなら、まずはこちらが信頼するべきだ)
と思って、
(やはり、まだまだ未熟者だ)
と思い至る。
するとリズが、
「そこは安心してくれ。こう見えてこいつはあたしたちの中で一番慎重に動くやつだ」
と言った。
「わかった。任せる」
私がひと言そう言うと、
「ああ、心配するな」
と言って、リズは笑顔で力強くうなずく。
どうやら上手くやれそうだ。
ただの勘だが、何となくそう思えた。
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