上位者二人、ダンジョンから配信をする ~お前らのどこが普通だ~
@cloudy2022
第1話 プロローグ!
――「大災害」。
百数十年前に全世界で発生した摩訶不思議な現象、および、おとぎ話のゴブリンやドラゴンとしか思えない特異な生命体たちが出現した未曽有の大災害……まるで物語のジャンルが突然変わったのかと思うほどの世界の変貌が起きた事件のことだ。
科学技術の進んだ現代に全くもって似合わない、魔物や妖精などの幻想的な存在、大地が浮くといった物理法則を無視した現象、そして人々の間で突然発現した『魔法』という存在が突如として蔓延り、「世界の
一時は、大規模なテロリスト集団が起こした事件や、某国の陰謀などと当時は騒がれたが、世界中の研究者によって原因が究明されて以降、人々は数十年もの間、力を合わせて崩壊した秩序を修復することに成功する。
脅威であった魔物を討伐し、人類の生存圏を確保。
友好的な存在とは協力し、彼らの技術を学ぶ。
新たに発見された資源は、既存の技術を大きく進歩させた。
そして安定した生活を獲得することに成功した人々は、今度は『発展』の道へと歩み始めた。
今までの経済社会に近いようでありながらどこか違う仕組みの"新時代"。
まるで一昔前の創作のような異世界と現代が混ざり合ったこの時代は、人々に大きな変化を強制させた。
それでもなお人々は発展を続け――
「――それから数十年後の現在……"新暦"につながるのです。それでは、今日の授業はここまでとさせていただきます。この後は昼休みとなりますので、昼食を取り忘れないように。それでは号令を」
「起立! 気をつけ! 礼!」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
授業の終わりを告げるチャイムに合わせて、教室全員の声がそろう。
それを見届けた授業を担当していた先生は、荷物をまとめつつ、質問をしに来た生徒の対応をしていた。
私以外の皆は、机にかけていたバッグから弁当箱を取り出し、仲のいい友達と一緒に昼食をとり始める。
それらを見ながら、大きく体を伸ばした私は勢いよく椅子に腰かけて脱力した。
「ふぅー……やぁっと終わったぁ……歴史の授業長すぎるよぉ……」
「お疲れ"
「うっ……し、仕方ないでしょ"さっちゃん"! みんな知ってる当たり前のこと何回も聞かされるんだよ! 寝ないだけ偉いよね!?」
「授業中に寝ないのはまぁ褒めてやろう。んで、今度の試験は大丈夫なのか?」
「うぐっ」
机に倒れこんでふにゃふにゃと溶けている状態の女子学生こと、私は「
明るい茶髪をポニーテールにまとめ、きらきらと輝く向日葵みたいな眼差しを持つ身長163cmで、スリーサイズは……さ、流石に言えないけどそれなりにいい感じのスタイルを保ってる美少女!(大事なことなので2回言ったよ!)
学力は……ま、まぁやればできる子なので!
そんな私に声をかけてきたのは、長身黒髪ストレートヘアーの女傑であり親友である「さっちゃん」こと「
身長はクラスで一番高い178cm! スリーサイズは上かr「ん~? アンタ今何考えてるんだ~?」いえ! なんでもありません!
ふぅ~……なんで口に出してないのに睨みつけられるのか……無駄に察しがつよi
「な~にが無駄に察しが強いだって~?」
「いだだだだだ! なんで、口に出してないのにぃ!? って、暴力反対暴力反対! 乙女の頭が壊れるって!」
「乙女の頭は多少壊れてる方がちょうどいいってバラエティ番組で言ってたぞ?」
「それ信憑性ないから! ちょ、本当に頭がががががが!!??」
そんな感じにわーきゃーしながら私達はスキンシップをとって、ある程度した後に落ち着いて席に着いた。
でも、さっちゃんにアイアンクローされた頭には鈍痛が走っている。
「うぅ……さっちゃん本当に『戦闘系技能』の適性はないんだよね……? 『魔法戦士』の私よりも筋力が高いんだけど……?」
「それは日々の鍛錬だ。これでもダンジョン攻略部の部長なんでね。お前も配信にかまけて鍛えるのサボってないだろうな?」
「……べ、別にいいじゃん。私可愛いし、さっちゃんみたいに強さで売れようとは思ってないし……」
「おっと、誰がアマゾネスだって?」
「そんなこと言ってないじゃん! アイアンクローの構えをするのやめて!」
周りの皆が今ご飯をとっているように私達もバッグからお弁当を取り出し、それを食べながらいつもの気安い感じの空気で話している。
ほんと、なんでさっちゃんみたいな子が戦士系じゃないんだろう……。
「それにさっきのことだけど、当たり前でも学んでおけば後で使えるでしょ? 特にアンタはダンジョン潜ってる配信者だしさ」
「そうなんだけど……私そんなに深く潜るつもりもないし、お母さんたちからもあんまり潜らないようにって言われてるし……」
「ほーん……ま、それは人それぞれだけど、せめて卒業できるレベルには成績上げろよ~」
「ごもっともぉ……」
そう言われて私は少しさっきの授業のことを思い返す。
私達が今立っているこの星――"地球"は、百数十年前まではダンジョンも魔物も存在しない割と平和な世界だったらしい。
『ダンジョン』というのは、その百数十年前の「大災害」の時に世界中のいたるところにできた"迷宮"のことで、科学技術の発展していた昔の世界を大きく変えた存在らしい。
そして『魔物』は、そんなダンジョンができた影響なのか各地で出現した不思議な生き物たちのことで、私達にとっては見慣れているそんざいだけど、昔の人にとってはそれこそラノベにしか出てこないような空想上のファンタジーな生き物だったらしい。
それの影響で当時は世界中が大混乱。
今は何とか適応してきたんだけど、昔は本当に人類が滅ぶかどうかレベルの事件だったとのこと。
そんなことがあったって言われても、正直実感がわかなくて印象に残りづらい。
だって、生まれたときからそれはそういうものだって教えられ、経験して生きてきたから「これが普通なんだけど?」としか思えない。
ダンジョンを攻略する人物を育成するこの学校――"ダンジョンマスター養成学校"を卒業するならダンジョンに関することについて知っておかないといけないから頑張って授業を受けているんだけど……。
「ま、アンタは若干"ポン"の気があるからな。初配信の時なんか、"脱出クリスタル"の使い方が分からなくてたまたま居合わせた先輩に助けてもらえなかったらどうなってたか……。配信的にはポカやらかすところが面白いんだろうけど、トラップに引っかかって階層ボスの前に飛ばされたりすんなよ~」
「そ、それはもう半年以上前のことじゃん!」
「半年前だろうが昨日のことだろうが大して変わらねぇっつの。今日も配信するみたいだし、油断はするなよ。骨は拾えねぇからな」
「むぅ、そこまで言われたら流石に気をつけるよ」
そんなことを言いながら、私達は昼休みを過ごしていった。
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時間は過ぎて、夕方くらいになって下校した後、私はある場所――"ダンジョン"にいた。
そして服装も日中の学生服とは違い、マントや動きやすい装備で固め、メイスを腰に差しているという戦闘服状態。
そんな私の前にはライブ配信用の"ホロボード"と"浮遊カメラ"がレンズをこちらに向けており、私の姿を撮影していた。
そんなカメラに向かって私はいつもの挨拶をする。
「ハイ皆! こんゆかり~ん!」
・こんゆかり~ん
・こんゆか~
・こんゆか~
・こんにちは~
私の挨拶と共に、カメラの横にセットしたホロボードにコメントが流れていく。
そう、私は今、ダンジョンで配信をしているのだ。
――「ダンジョン配信」
それはここ最近になってはやり始めた配信ジャンルの一つで、ダンジョンでの戦闘や、探索する際の光景をライブ配信サイトにつなげたカメラを使って配信するという、ダンジョン産業の一つとなった娯楽だ。
ダンジョンは様々なものがあり、既に探索が終わったダンジョン、未開のダンジョン、内部構造が変化するダンジョンなど、その種類はたくさん。
そこで採れる資源は、大災害によって人類に起こった大きな変化……戦う力である「技能」を持った人々じゃないと回収することが難しい。
一般人じゃ難しい、かと言って全部を専門家が解決するってなると国の偉い人たちが編成した軍隊じゃないと厳しいし、そんなことすると一般人の人達に資源が回らなくて格差ができる。
だから、ある程度探索が終わった小規模なダンジョンは民間にも開放されてて、私達みたいな専門学生のお小遣い稼ぎとして使われることもある。
でも、一人じゃできないことも多いって言われたから、情報を共有する手段を使った人もいて、それが段々と広まっていくにつれ配信も同時に行われるようになってきたんだって。
そんな感じのダンジョン配信を、私もやっているのである。
お小遣い稼ぎもそうだけど、皆と話ができるのはすごく楽しいからね!
「みんな挨拶ありがとー! 今日はね、1時間程度しか配信できないけど楽しんでいってもらえると嬉しいな!」
・まぁ、平日だししゃーない
・学校ダイジョブ? この間友達に成績について言われたんでしょ?
・ゆかりんはポンの者だからな。いっそ勉強配信とかやった方が良いんじゃないのか?
・お脳が残念なのはどうしようもないね()
・それってバk……
「ちょお!? 誰がバカなの!? これでも天才美少女なんですけど!?」
・天才(自称)
・(回答文の答えが)天災
・天……才……?
・この間のテストの回答なんだっけ?
・あれだよ。技能職が魔法戦士なのに○○に最適な魔法式を文章で答えろって問題で「ここをああしてヒューンヒョイ!」って独特()な図で書いたやつがあったんだよ。しかも割りと滅茶苦茶。ようこれで上級技能職の魔法戦士やれてんなって皆から総ツッコミされたやつ
・あー、ゆかりんがポンと画伯の融合体だってバレたやつね
「誰がポンで画伯じゃい! 身長163㎝の天才美少女なんです~!」
皆から馬鹿にされているようなコメントが流れているけれど、私の配信ではこれが平常運転。いつも通りだ。
だけど、一つ言いたい。誰がポンで画伯じゃい! これでも美術の先生に才能があるねって言われたんだよ!? 酷くない!?
・それ、相当昔の芸術的な意味での天才だぞ。褒められてないぞ
・絶対美術の先生苦笑いしてただろww
・「あ……う、うん……す、すごく、個性的な絵、だね……」って言ってそうww
・草ww
・草に草を生やすな(戒め)
「あー! もう! 今日は時間ないから早く行くよ! 今日はこの部屋を攻略していくよ!」
そう言って私は皆のコメントを見ないようにして、視聴者の皆にからかわれながらカメラを向けた先には荘厳な扉があった。
大理石で作られているであろう扉には、美術品みたいな彫刻が掘られていて、全体を見ると杖を握った骸骨がボロボロなローブを着ているような絵だとわかる。
今回はここ――"スケルトンシャーマンの間"を攻略する予定なのだ。
・お、スケルトンシャーマンか。下級に分類される魔物で、基本魔法系の技能をメインに攻撃してくるドが付く初心者にはキツイ相手だな。物理への耐性がほとんど皆無だから魔法を無視して接近して殴れるならとっとと倒せる。魔法への耐性はあるが、物理耐性と比較して高いだけであって、魔法でも十分やれる。慣れてきたら簡単に倒せて、魔道具に広く使われて尚且つこいつらの核である"魔宝石"も入手できるから初心者の金策にはもってこいだな
・有識者ニキ助かる
・見た目気持ち悪いけど魔宝石めっちゃ便利だから乱獲してるな~
「お、図鑑さん今日も助かる! そうそう! 今日は魔宝石集めに来たんだ! やっぱり換金したときの値段が高いからね! というわけで行くよ~!」
コメントの情報も拾いつつ、扉に手を当て魔力を流し込んで動く扉を開ける。
『…………』
『…………』
扉の向こうには彫刻に合った姿とそっくりな動く骸骨達がおおよそ15体。
私を見つけた何体かのスケルトンシャーマン達は、緩慢な動きでこちらを見据えると杖を構えて魔法を放つために魔力を高めていく。
「それじゃ、いっくよ~!」
でも、そんな事お構いなしに私は走っていく。
私の方は魔法戦士としての技能――魔力による"身体強化"を行ったことで、相手に魔法を放たれる前に一撃を与えられるほど加速した。
「せいっ!」
そしてすぐさま距離を詰めたスケルトンシャーマンにもってきていたメイスを振るって頭を砕いた。
数が多いといえど、相手は下級の魔物。
私ならできる!
・いけいけ~!
・やっぱ高校生の年齢にしてはセンスあるよなゆかりん
・そら、魔法戦士っていう上級技能職に目覚めた天才美少女(自称)ですから
「自称じゃない! 本当のこと!」
視界の端に見えるコメントにつっこみを入れながらシャーマンたちを倒していく。
1体、2体……段々と数を減らしていくシャーマン達。
「もう少し!」
15体中10体を倒してあと5体になり、スパートをかけていく。
いつものようにやれば、いつものように勝てる――!
そう、思っていた。
『『『『『………………』』』』』
「え!? な、なにこれ!?」
残ったシャーマン達が何かの詠唱を始め、さっきよりも大きな魔力が高まる。
それに伴って部屋全体が揺れ始め、足元がふらついてしまった。
踏み込もうと思っていた足も、部屋の揺れと魔力の高まりによって発生する風圧でなかなか進まない。
そんな時に、あるコメントが目に留まった。
・あ
・まっず
・やばい
・ゆかりん!今すぐ逃げろ!そいつら上級死霊召喚しようとしてるぞ!
・ハァ!? 上級の召喚をシャーマンがやってんの!?
「上級死霊召喚!? なんでシャーマンができるの!?」
"上級召喚"は、魔法職の中でも召喚術に特化した技能職持ちしか使えない"召喚魔術"の中でもさらに難しい大魔術。
召喚魔術は精霊とかを召喚することが主だけれど、契約した魔物を召喚することもできたりする。
でも、今シャーマン達がやろうとしている召喚魔術は、シャーマン達のような死霊、それも上級に相当する存在を召喚しようとしているのだ。
でも、シャーマン程度がどうやって……。
「!? もしかして、シャーマン達が協力して詠唱してるの!?」
・絶対それだ!
・それより逃げて―!
・シャーマンが召喚する上級魔物って、アイツしかいない!
「ちょっと今日はヤバかったかも! 逃げ――」
流石に配信どころではなくなって逃げようとしたけど、召還魔術によって集められていた魔力が爆発し、私は思いっきり吹き飛ばされて壁にたたきつけられた。
「あぐっ……!?」
壁からずり落ち、地面に落ちた私は飛びそうになった意識を繋ぎ留めながら、爆発の中心にいる存在を認識した。
シャーマン達のぼろ布みたいな服じゃなく、教会の偉い人が着ているようなローブを着て、私を見下ろしている圧倒的な存在感を放つ魔物。
「ワイ、ト……」
スケルトン系の魔物でも上級に入る"ワイト"がそこにいた。
~~~~~
~~~~
~~~
~~
~
一人の少女が絶体絶命のピンチに陥っている時と同時刻。
「なぁ相棒。今度はどんな世界なんだ?」
「少し待ってくれ。この世界の"本棚"に接続するよ」
2人の人影がその場所へと接近していた。
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