【アオ&クウ&ミー子】勝負! プリンじゃんけん、あっち向いてホイ! (すっ、数量限定!? それは絶対に食べた――あれ? ワシの分はいずこ……?)

 そう遠くない未来。ここは日本のどこか田舎いなかに建つ『カワズ女学園じょがくえん』。

「自然に親しみ、心豊かで自立した人間を育成する」を教育目標に、学園の運営からなか村の自治までもを生徒たちに任せる日本初の村落型学校。

 のちに限界集落の学校自治区化モデルとなったその学園で、今日も少女たちの放課後が始まる。


「ミー子、部室に参上ッ! って、まだ二人しか来てないのね」

「ういーっす、ミー子」

「お疲れ様です、ミー子。リリカは今日、実習で来られないそうですよ」

「あら、それは残念。せっかく『はらぺこ亭』の一日10個限定プリンが4個も手に入ったってのに」

「4つもですか!? 購買部の焼きそばパンよりも入手が難しいとされている、あの限定プリンが!?」

「そうよ、アオ。ミー子様のネットワークを駆使すれば、こんなのなんてことはないわ」

「なんかウラがあるんじゃねぇだろうな」

「人聞きの悪いこと言わないでくれるかしら、クウ。はらぺこ亭と空輸デリバリーサービスの契約を結んだだけよ」

「ネットワーク関係ないじゃん……」

「大いにあるわ。今回、はらぺこ亭に空輸サービスを提案したのは、生徒会経理局のデータバンクにあった売り上げの情報が元だもの」

「それって、一般生徒は閲覧不可のやつだよな!?」

「あたしの辞書に『閲覧不可』の四文字はないわ! ミー子様の腕を持ってすれば、セキュリティなんてちょちょいのちょいなんだから」

「さすがは『商業科の歩く電波塔レイディオガール』ですね」

「ほんと、ガラケーでよくそこまでできるもんだぜ……」

「まあ、ハッキングしたってのは冗談で、フツーに生徒会にパイプがあるってだけなんだけど。安心なさい、公安局に捕まるようなマネはしてないから」

「さらっと罪を自供すんなし……」

「それはそうと、ミー子。前から気になっていたのですが、どうしてミー子は未だにガラケーを使っているのですか?」

「よくぞ聞いてくれたわね、アオ。それはね、かっこいいからよ!」

「かっこいい?」

「ほら、スマホには無いものがガラケーにはあるじゃない」

「ええと……ボタン? でしょうか」

「たしかにそれも無いわね」

「んじゃあ、折りたためるとかか? でも、折りたためるスマホあるしな……」

「それも違うわ、クウ。正解はね、アンテナよ」


「「アンテナ~?」」


「ガラケーの左肩に収納してある、伸び縮み式のアンテナ。長ければ長いほど、そして、先っぽにランプが付いていればなおグッドね」

「いつの時代の人間だよ……。ミー子、まさか背中にチャックついてねぇだろうな」

「ついてないわよ、そんなもの! それを言うならクウだって!」

「この喋り方は兄ちゃんたち譲りだい!」

「まあまあ、二人とも。落ち着いてください。いまプリンに合う飲み物――梅昆布茶うめこぶちゃでも淹れますから」


「「そこはコーヒーにして!!」」


「息ぴったり……」

「話を戻すと、いま問題なのは今日いないリリカの分のプリンを誰が食べるかよ」

「え、冷蔵庫に取っておかないのですか? リリカが『数量限定』とか『期間限定』とか『プレミアム限定版』とかに目がないこと、ミー子も知っていますよね」

「それは心配しなくても大丈夫。空輸サービスの報酬として、これから月に1回は必ず限定プリンを食べられるようになるから。それにコレ、消費期限が今日中なのよ」

「なるほど」

「さて、ふたつ食べたい人はいるかしら?」

「はいはーい! ウチ、食べたーい」

「私は1個でいいです」

「てことは、あたしとクウとでプリンをかけた勝負ってわけね」

「あ、それじゃあ私、コーヒー淹れてきます」

「頼んだわ、アオ。ここはあたしに任せて、あなたは先に行きなさい!」

「……はい?」

「いいから早く! クウはここであたしが食い止めるッ! ――そうそう、ミルクもお願いね」

「急に冷静にならないでください……」




「フッフッフ……。いいのか、アオを行かせちまっても。ミー子ひとりで相手できるほど、ウチは弱くないぜ」

「いいのよ、あの子には未来があるもの。あなたと地獄に堕ちるのは、あたしだけで充分」

「ふっ、面白れぇ。勝負はいつも通り、じゃんけんからのあっち向いてホイでいいよな」

「いいわよ」

「それじゃあ、さっそく行くぜ」

「ちょっと待って」

「なんだよ」

「この勝負は、最初のじゃんけんで勝てるかが肝心。だから、あの儀式をやってからでないと」

「今でもそれやってるの、ミー子以外に見たことないんだけど……」

「いいから黙って見ていなさい。まず真っすぐ伸ばした両腕をクロスさせ、次に祈りを捧げるように手を組んで、最後にそのままクルリと回して目の前へ。組んだ手と手の間から向こうを覗くと……見えた! 今日出すのはこれよ!」

「そんじゃあ、行くぜ!」


「「じゃーんけーん、ポン!」」


「なぁあ!」

「覚悟しろ、ミー子! あっち向いて――上!」

「ぐはっ!」

「カッカッカ。そんじゃ、リリーの分のプリンはウチがもらってくぜ」

「うぅ……どうしてあたしは、毎回言われた方向を向いてしまうの……」

「あばよ、ミー子。また会おう」

「……ちょっと、待ちなさい」

「あんだよ?」

「勝負は、まだ終わってないわ」

往生際おうじょうぎわが悪いぜ、ミー子。勝負はついたんだ、ウチの勝ちでな」

「いいえ、まだよ。誰が1回勝負って決めた? これは3回勝負よ」

「ミー子……、そこまでしてプリンが……」

「誰が食いしん坊よ!」

「んなこと言ってねぇ! つか、自覚してるじゃねぇか!」

「う、うるしゃい!! もう1回ったら、もう1回よ! いえ、あと2回勝負しなさい!」

「ミー子……」

「……勝負、してください。お願いします」

「ったく、しゃーねぇな。まあ、ウチはあと一勝すればいいわけだし」

「感謝するわ」

「んじゃ、さっさとやっちまおうぜ」

「ストップ ザ タイム!」

「またかよ……」

「まず両腕をクロスさせ――以下略! 見えた! 次こそはこの手で勝つ!」


「「じゃん、けん、ポン!」」


「ウチが、負けた!?」

「こうなれば勝つ確率は上下左右で4分の1。つまり、25パーセント。でもね、クウ。この勝負、あたしがもらったわ」

「あんだと!?」

「今日まで何度もあなたとあっち向いてホイをしてきたおかげで、上下左右の傾向はすでに掴んでいるの。普通なら25パーセントでも、あたしにとっては100パーセント。ミー子様の情報収集力を甘く見ないことね」

「そんなの、やってみないと分からねぇだろ」

「覚悟なさい、クウ。あっち向いて~、ホイ」

「んなぁ!」

「これで一勝一敗ね。あと1回勝てば、限定プリンはあたしのもの……!」

「まさか負けるとは思ってなかったぜ。でも、正義は必ず勝つ! 次こそは絶対に負けねぇ!」

「かかってきなさい、クウ。何人なんぴとたりともミー子様の情報ネットワークからは逃れられないわ」

「泣いても笑ってもこれが最後ッ! 行くぜ、じゃーんけ――」

「あ、ちょい待ち」

「だはっ!」

「なーに綺麗にコケてんのよ。ええと、最後に出すのは……これね」

「いっつも思うんだけど、それやってなんか意味あんの?」

「別に」

「ないのかよ! 今日はずいぶんと揺さぶってくるじゃねぇか、ミー子」

「あんたが勝手に動揺してるだけでしょ」

「ま、まあいいさ。気を取り直して、最後の一戦を始めようか」

「ええ、そうしましょう。今のあたしは、ぜんっぜん負ける気がしないわ」


「「いざ、勝負! じゃーん、けーん、ポンッ――!!」」


「にゃ、にゃんですって!?」

迂闊うかつだったな、ミー子! これからは『フラグ』って言葉を辞書に追加しとけ!」

「ちょ、待っ……!」

「間髪入れずに行くぜ!! あっち向いて――」

「ぷりーず、じゃすとあもーめんとぉ~!!」

「もっかい上だァァァァア!」

「ぐっはぁ……!」




「――ん~!! 初めて食べましたけど、こんなに美味しいんですねぇ」

「素材と製法にこだわりがあるらしいわ。だから、一日10個しか作れないんだって」

「はらぺこ亭ってさ、調理部のなかよし三人組だけで回してるんだよな」

「三人だけであの人気店を運営しているなんて、本当に驚きです。そうだ! 今度、マルチコ部のみんなで食べに行きませんか? 実は私、まだ一度も行ったことなくて」

「そうゆうのは早く言いなさいよね、アオ。あそこはプリンだけじゃなくて、料理もサイコーに美味しいんだから」

「そうそう! 特にジビエ料理がめちゃくちゃウマいんだぜ」

「二人のオススメって、何かあります?」

「そりゃもう一択」

「アレしかないわね」


「「はらぺこ亭 日替わり定食!!」」


「やっぱり、息ぴったり……」

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