あおぞらどろーん!

弐護山 ゐち期

【アオ&クウ&リリカ】あわてんぼうの、ドキュメンタリー? (……何このタイトル、意味分かんないんだけど)

 これから始まるのは、周囲を山々に囲まれた自然豊かな村――なか村でのお話。

 その村に建つ、さほど歴史の古くない『カワズ女学園じょがくえん』に通う4人の少女の物語。

 これは、彼女たちが所属するマルチコプター研究部――通称マルチコ部の日常の記録である。



「たたたた、大変です!」

「どしたん? アオ。そんなに慌てて」

「どうしたも何もありません! とにかく大変なんですよ、クウ! 一大事です! リリカも手を止めて聞いてください」

「んあ? あぁ、アーちゃん。授業お疲れー。梅昆布茶うめこぶちゃでも飲む?」

「そんな悠長ゆうちょうなことを言っている場合じゃないのです、リリカ!」

「やっぱり梅昆布茶飲んで、一旦落ち着いたほうがいいっさー。ほれ、ワシの飲みな」

「どうも。んぐ、んぐ、んぐ――っはーー。ごちそうさまでした」

「なんもなんもー」

「んで、何が大変なんだよ?」

「いいですか、クウ。そしてリリカ。実は今日、マルチコ部に取材が来るそうなんです!!」


「「しゅざいー?」」


「さっき教室からクラブハウスに向かう途中で、新聞部の子に『今日の取材はよろしくお願いします、って部長さんに言っといて』と頼まれたのですよ。なんでも次号の学園新聞から部活動特集を始めるらしく、私たちがその第一回に選ばれたそうで」

「今日って、そりゃまたずいぶん急な話だな。でも、ミー子のやつまだ来てないぞ。たぶん、もうすぐ来ると思うけど」

「こんなときに、ミー子はどこで何を……」

「そういえば、今日は少し遅れるって言ってたっさー」

「それは本当ですか!? リリカ」

「お天道様てんとさまに誓ってほんとっさね」

「もう! 部の一大事だというのに、部長が不在だなんて! あぁ、どうしましょう、どうしましょう……」

「とにかく落ち着けって、アオ。たかが学園新聞の取材じゃねえか」

「これが落ち着いていられますか! 取材ですよ、取材! マルチコ部に取材が来るんですよ! 今日のインタビュー次第で、マルチコ部が廃部になる可能性だって」

「ねぇよ、そんな可能性! どんだけ学園新聞の影響でけぇんだよ……」

「マスメディアを舐めちゃいけません!」

「読むのなんてせいぜい200人かそこらじゃん。村に住んでるジーちゃんとバーちゃん合わせても300人いないじゃん」

「まさにそこですよ、そこ! 人が少ないからこそ、情報の拡散速度が速いのです。良いことも悪いこともすぐ村じゅうに広まってしまうんですから」

「たしかに、アーちゃんの言うことにも一理あるっさー」

「ですよね、リリカ」

「リリーまで……。ったく、しょうがねーな。そこまで言うなら、ミー子が来るまで受け答えの練習でもしとくか?」

「グッドアイデアです、クウ! 是非ともお願いします!」

「それじゃあ、ウチがインタビュアーな」

「ワシ、ナレーターやる」

「……リリー、なに言ってんだ?」

「クウ、早く始めてください!」

「お、おう……」



「――我々取材班が訪れたのは、カワズ女学園のなかでも異彩を放つクラブ、マルチコプター研究部。通称、マルチコ部。一般的にドローンの名で知られる種類のマルチコプターを扱うクラブだ。畑の水やりから人探しまで、その実態はなんでも屋に近いという――はい、クーちゃん。ここでアーちゃんに何か質問して」

「リリー、本気マジでなに言ってんの」

「いいからいいから。ほら、早くするっさー」

「そうですよ、クウ。早く質問を」

四面楚歌しめんそかかよ! ……んじゃあ、あなたがマルチコ部に入ったきっかけを教えてください」

「私、1年生の途中でカワじょに転校してきたんですけど、前々から趣味でカメラをやっていまして。特に自然を撮るのが好きで、転校してきて間もない頃も、ひとりで山に入って写真を撮っていたんですよ。そしたら夢中になっちゃって、気づいたときには山で迷子になっていたんです。地図なんて持っていないし、そもそも地図読めないし、携帯も圏外だしで、まさに絶体絶命。そんなとき、マルチコ部のみんながドローンを使って見つけ出してくれたんです」

「そういえば、んなこともあったなぁ。転校生が山で遭難したって、あのときは村じゅう大騒ぎだったもんな」

「――普通科の迷える子羊ストレイシープ。これがアオにつけられたふたつ名だ。一眼レフを持ち、学園の外に出たら最後、そう広くない村の中でさえ彼女は迷子になってしまう。迷子になる頻度は、驚異の週1回。ここまで多いと、もはやなかむら名物めいぶつの域に達していると言っても過言ではない」

「ちょいちょいナレーション入ってくるな……。それで、探してもらった恩を感じて入部したってわけか」

「違います」

「えっ、違うん!?」

「覚えていませんか、クウ。迎えに来てくれたあなたに、どうやって探し出したのかをいたら、持っていたFPVゴーグルを貸してくれたじゃないですか」

「だっけか」

「そのとき初めて、飛んでいる鳥のようなドローンからの映像を目の前にして、私の求める被写体はきっと空にあるんだって思ったんです。それで空撮に興味を持って、入部を決めたというわけですよ」

「ついさっきまで遭難してたってのに、んなこと考えてたのか……。マイペースすぎるぜ、アオさんよぉ……」

「――こうして、無事にマルチコ部に入部したアオ。」

「こっちもこっちでマイペースだな、おい」

「――季節はめぐり、今では彼女も立派なマルチコ部の部員。彼女のもとには、生徒会を始めとする数多くの委員会・部などからPVや記念写真の空撮依頼が舞い込んでいる」

「この部をまとめてる部長のミー子って、案外スゲェのかも……。てか、ミー子のやつ遅いな」

「――ここで、撮影に対するこだわりを聞いてみた」

「なんかもう、ナレーターが勝手にやり始めてるし……。てか、そもそもナレーターって何だよ!」

「そうですね。ドローンとオペレーターの私が、被写体と一体になることでしょうか」

「――ポロロ~ン♪ 被写体と、一体に」

「やめい!」

「普通に生活してたらあまりないじゃないですか、ドローンと関わることって。私たちのようなマルチッでもない限り、ドローンは日常生活に紛れ込んだ異物なんです。ドローンで撮影するとき、人でも動物でも、それこそ風景でさえも、どこか自然体でなくなってしまう。私は、できるだけ自然体の姿をフレームに切りとりたいのです。だから、被写体にドローンに慣れてもらう。ドローンオペレーターの私も含めて受け入れてもらう。そうゆう意味で、被写体と一体になって撮影するようにしています」

「すんごい語んじゃん! そこまで語れりゃもう練習いらねぇよ! つか、これはなんの練習だよ!」

「ちょっと、クウ。少し静かにしてください。せっかくのナレーションが聞こえないじゃないですか」

「ウチ、一応インタビュアーだよね!?」

「もしかして、嫉妬しっとしているのですか? ナレーターに」

「してねぇよ!」

「――今ここに、新たな三角関係の可能性が生まれた」

「ダメだ、てんで話が通じねぇ!」



「あんたたち、なーに楽しそうに話してんの?」



「あっ、ミー子! いいところに」

「遅いですよ、ミー子。大変なんですから!」

「ほんと、一大事っさー」

「何がどうしたわけ?」

「実は、マルチコ部に取材が来るんです!」

「なーんだ、そのことね。知ってるわ。というか、もう終わったし」

「ほへ?」

「取材を受けるのは部長のあたしだけよ。でもその分、しっかりと部をアピールしてきたから安心しなさい」

「だって、新聞部の子が『部長によろしく』って……」

「ええ。だからこうして、さっきまで新聞部とヨロシクしてきたわけよ」

「そ、そーんなぁ~! じゃあ、今までやっていた練習の意味は……」

「練習って?」

「ポロロ~ン♪」

「……リリカ? なにその効果音」

「ミー子、部長やってくれてマジさんきゅな……」

「はぁ? なに言ってんのよ、クウ。あんたたち、ほんと今までなに話してたわけ?」

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