なんかこのヒロインおかしいんですが

 アデールとの食事会から三週間経ちました。その間も二回お食事会があったわけですが、なんと三回とも撃沈した。

 ……信じられる。三回とも撃沈。

 何とか話しかけようとはする。会話も一回目よりスムーズにできるようになったし、アデールが好きな話をするように心がけても見た。花が好きとゲームで知っていたからたくさん花の話した。図書館で花図鑑借りて読みまくっていた俺に死角はなかった。姉が世界観は中世ヨーロッパ風だよねとか言っていたのでフランスでの花言葉なんてものも調べたりしてって完璧であった。

 がアデールは楽しそうではなかった。

 そうなんですか。そうですね見たいなありきたりな相槌を打つだけで会話らしい会話がなかった。三回目の時、最近様子がおかしいですがどうかされましたかと聞かれたのが唯一の会話らしい会話で泣けてくるけど、でも今日からはそうはいかない。

 俺はゲームをよくやったから分かっているのだ。

 実は二週間前に二週間の長期休みに入っていった学校。そして今日から新学期。ここで転入生がやってくる。それはヒロイン!!

 平凡な庶民だったヒロインはだけどある日、大貴族の隠し子だったことが判明し今日からこの学校に転入してくるのだ。ヒロインはそこからなんやかんやあって攻略対象者たちと仲良くなっていくのだが、俺はアデール一筋なのでそんなヒロインに冷たくする。

 そしたらアデールだって少しは心開いてくれるはず。

 見ていろヒロイン!



 がっはっは。何て天高く笑ったのは三日前の事。なんかおかしいです。

「まあ、そうなのですね」

「はい、それで」

 うっふふ。あっはっはと楽しそうに笑っているのは俺の美しい婚約者。笑っている姿なんてそれだけで何万円でも金出して買う価値があるほど美しいけど、その隣にいるのが何故か、何故かヒロインなんですが⁉

 なんで!!

 ここでヒロインとアデールが仲良くなるなんてゲームにはなかったんですが。むしろひろいんと悪役令嬢。アデールだけだけどばっちばちに睨んでいた筈なのに。

 おかしい。俺の計画が……。

 え、これどうしたらいいの。

 滅茶苦茶楽しそうに二人で話している。最初はアデールも話しかけて戸惑っていたんだけど、学校のマドンナ、高根の花だったアデールに正面から話しかけていくような人少なくて初めての相手に滅茶苦茶絆されているのが分かる。

 ああ! なんか今赤くなった。何の話をしてるの。ねえ。めっちゃ気になるんで教えてください。

 赤面アデールとかゲームじゃ見たことなくて保存できないのがつらい。ゲームだと高飛車に笑っているのとかしかなかったから。そんな所も美しかったけど。

「あの、王子、何をしているんですか……」

「何ってアデール達見ているのが分からねえの」

「それは分かるのですがなんでまた、」

「だってあのアデールがあんな風に笑って話しているんだろう。気になるだろう」

 血の涙を出しそうになりながら俺は従者ににじり寄っていた。リュカより年上で多分学園も卒業している筈の従者だが、王子の護衛と言う事で学園にもともに来ているのだ。

「それは、分かりますが……でも楽しそうなのですからあまり気にする必要はないのでは」

 従者がアデールたちを見てから困ったように微笑んでいた。

「わかるわかるけど……」

 でもっとアデールたちを見てしまう。なんでヒロインがあんなにアデールと仲良くなるんだよ。

「一人でも仲のいい人ができてよかったと思いますけど」



「あんた、リュカ王子じゃないでしょう。一体誰なのよ」

 いつものあかるい笑顔はどうした。うっふふきゃっきゃ笑っているあの笑みは何処に捨ててきたって聞きたくなるぐらい鋭い眼差しで俺を睨みつけてきたのはヒロインであった。デフォルトの名前はサラ。

 ふわふわした金髪の髪をして、ちょっと釣り眼のアデールとは対照的な垂れ眼の女の子。優しい顔立ちで可愛くて、まあ、ヒロインって感じの子なんだけど、睨みつけてくる姿はラスボスのようにも思えてしまって俺はあんぐりと口を開けてしまった。

 ヒロインが聞いてきた台詞は俺が言いたい事だった。

 言おうとしたことだった。

 あれからもヒロインは攻略対象そっちのけにしてアデールとの距離を詰めていて絶対何かおかしいとヒロインに直接聞きだせる機会を待っていたら、ヒロインの方から声を掛けてきたので今回こそ聞いてやろうとそう意気込んでいた。

 なんて言うか決めてまで言ったのにそれを言う前に言われたのが前の台詞。

 言ってきたヒロインは凄い顔で睨んできて、で誰なのよと詰め寄ってくる。

 待て待て待てと焦った声がでたのは仕方ないだろう。

「俺がリュカじゃないってどういうことだよ。ってかお前の方こそ誰なんだよ。絶対広いんじゃないだろう!」

 あっと言ってから思った。つい勢い余ってゲームでの言い方をしてしまったのだ。やってしまったと思うが、ヒロインは訝しむことなくやっぱりと叫び返してくる。

「その言い方、あんたこの世界がゲームだって言うこと知ってるのね! 私と同じでなり替わりやがったんでしょう。何てことするのよ」

「へ、私と同じって」

「分かるでしょう。私もこの子、サラ・オーディアンになり替わったのよ。元は高校生だったのに間違って車にひかれたばかりになり替わっちゃったの。

 まあ、なり替わったものは仕方ないから、このせいをおうかしてやりますけどね。むしろ大好きなアデール様の傍にいられるなんてラッキー。リアアデを間近で観察できるなんて幸せ以外の何物でもないんだけど、

 だけど、なんでリュカ様まで入れ替わっているのよ。しかも絶対貴方アデール様をおしてるでしょう」

「へ? え? ええ?」

 女の迫力ってすごいものでまくしたてられるのに何を言われたかなんて全く分からなくなる。分かるのは怒っていることと後俺と同じ境遇であることだけだ。いや、俺は死んでないからそこは違うけど。え、俺死んでないよね。もしかして死んでたりする。え、嫌だ。知りたくねえ。分かんねえことにする。

「聞いてる。アデール様、推してるんでしょう」

「え、お、推して」

 なんて考えていたらヒロインはますます詰め寄ってきてその迫力に負けながら俺は情けない声を出していた。好きっていう事よとヒロインは半ば起こりながら言ってくる。

「それならそうだけど」

「やっぱりもう最悪。アデール様のファンがいるのは仕方ないけど、まさかそのファンが入れ替わってるなんて、は、まさかあんたアデール様と結婚しようなんて考えてないでしょうね

「は考えるも何もリュカなんだから結婚するだろう。アデールとはこんやくしてるんだからな」

「はあああああ!」

 ヒロインの絶叫が響いた。耳がキンキンするほどの声だ。なんで女の声ってこんなに耳に居たいんだろうな。滅茶苦茶びっくりしたし、耳がつらい

「な、なんだよ。当然だろう」

「当然なんかじゃないです。アデール様は素晴らしいお方なのに貴方なんかと結婚するはずないでしょう。リュカ様だとしても結婚しないから。

 ってか、あんた」

 あちくりとヒロインの大きな目が俺を見た。突然騒いでいたのが嘘みたいに静かになってじっと俺のことを見てくる。あーーと何度か口が開いてもしかしてという。

「ゲームはやっていてもそれ以外は知らない感じ?」

「は? それ以外ってなんだよ。ゲームはゲームだろう」

「あ……。うんうん。何でもない。それより思う所は色々あるけど、アデール様と結婚しようだなんて分不相応なことを考えていることについてはいろいろ言いたいことあるけど、でもゲームギャラになり替わったなんてこんな特殊な状態、一人じゃ抱えきれない事だってあるし仲間がいたのは嬉しいわ。

 これから仲良くやっていきましょう。アデール様との仲は認めないけど」

 女ってやつはみんなこうなのだろうか。移り変わりが早くておれはとてもじゃないけどついていけない。それでもまあ、ヒロインが言うことは分かるので頷いていた。ただ一つを覗いて

「お前に認められなくても俺はアデールとイチャイチャラブラブして見せる」

「は、きっも」

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