推しと会話ができないなんて辛すぎる


なんだかんだと訳が分からないまに時間は経ってます。俺がリュカになり替わってからもう三日たちました。寝て起きたら元に戻っているんじゃないかなんて思っていましたが、そんな事はありませんでした。相変わらず俺はリュカです。

 最初は気持ち悪いなと思っていたリュカの姿にも慣れてきました。なんかもうアニメ絵だったころの彼を忘れつつあります。どっちもとりあえずイケメンだった筈。

 この三日どうしていいか分からないのでとりあえずリュカとして生活していたんですが、何となくわかってきたことがあります。それは俺には薄っすらとだがリュカの記憶があること。知識もあるのでここの生活はあまり困っていません。最初は不安だった王族としてのマナーなんてものも完璧にできていてなんか俺すげーーってなりました。俺が凄い訳じゃないんだろうけど。

 困ったことがあるとしたらそれはアデールが美しすぎる!!

 学園で見かけるアデールは本当に美しく彼女の周りだけバラが咲き誇っています。何て美しい世界なんだ。

 みんなと同じはずの制服も彼女一人だけの専用衣装のように見えてしまって、いつも彼女を見ると見惚れてしまって話すことさえできなかったけど、今日は違う。

 なんといっても今日は一週間に一度の彼女とお食事会の日。婚約者と仲を深めるための会という話だが、なんてありがたいんだ。アデールちゃんと二人きりでお食事会なんて嬉しすぎる。リュカの奴はこの時間を何より嫌っていたらしいけど、俺からしたらご褒美。超楽しみ。


「王子、朝からご機嫌ですが、本日はどうかされましたか」

「そりゃあもう。今日は食事会だから。早く食事会の時間こないかな。楽しみだ」

 共に歩いてくる従者に聞かれるぐらいには浮かれていて、それを直す気はなかった。心のままに返す。にまにま笑ってしまいそうなところだったけど、えっとそんな声が聞こえてそこまではできなかった。

 何だと後ろを振り返った。

 一歩後ろをついてきていた従者が立ち止まっている。ゲームの設定として知っていたが、実際付きまとわれると面倒だと思っていたリュカの護衛兼従者は驚いた顔をして俺を見ていた。小さくだが間抜けに口を開けているくせにかなりのイケメンだった。

 攻略対象じゃなかった筈だが、さすが乙女ゲームなのかこんなところまでイケメンにできていた。重そうな鎧を着て、剣をさしているのにすらりとした立ち姿をしている。

 ぱちぱちと今じゃイケメンとはいえ元は平凡な顔の俺が羨ましくなるぐらい長いまつげを揺らして瞬きしていた。何でもありませんとその首が横に振られる。

「王子の足をおとめしてしまい申し訳ありませんでした。どうぞ。先に進みましょう」

「おう。早く用事終わらせて帰らないとな」

 意気揚々と歩いていく。




 そんなふうにとてもとても楽しみだったんだけど、迎えた食事会は散々だった。

 やってきたアデールは美しかった。そりゃあもうどんな絵画にだって勝る美しさだった。絵画なんて一度もまともに見たことないけど。学校では着ない凄く綺麗なドレスを着ていた。あのドレスをあそこまで着こなせるのは彼女しかいないと思う。食べる所作も美しくて見惚れてしまうもの。あの小さな一口なんて本当見ただけで胸がいっぱいになった。

 美しかったんだ。

 それを見られるだけで幸せだっただろう。

 だけど、だけど会話が殆どなかったんだ!

 俺がうまく話せなかったのもある。何かを話そうとしても緊張してしたが回らないし、そもそも言葉が出てこない。それでも何とか学校のこととか話そうとしたけど、アデールからの回答はええ、そうですか。それはよかったですね。そうなんですのと言ったようなものばかりで話題をつなげられるようなものじゃなかったんだ。

 そこはかとなく冷たいもの感じたりもした。

 それが滅茶苦茶悲しかった。いっぱい話せると思ったのに。

 でも今までのリュカの態度とか考えればそれはまあ、仕方ない事なのかななんて思うので今回は仕方なかったと思うことにする。次回もっと会話できるようになれたらな。そっけなかったけど婚約を解消したいなんて話は彼女から出たことがないし、ゲームではヒロインにリュカを取られそうになっていろいろやったりしてたから態度は冷たくても好きなはず。

 これからもっとアピールして俺は彼女とイチャイチャして見せます。


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