なんか考えなくちゃいけないことは分かるけど婚約者が美しすぎて何も思い浮かばない



 あれから俺はすぐに学校内でもとりわけ教室だろうと思われる教室に押し込められていた。大丈夫ですかなんて滅茶苦茶美しい顔でアデールが聞いてきて心臓がバクンバクン鳴り響いている。実は悪役令嬢だからなのかゲームの中に彼女の声はなかったのだが、なんととてつもなく美しい声をしていた。そりゃあもうとんでもないぐらい美しい声をしていて聞いた瞬間は俺の意識が吹っ飛んだものよ。

 それもあって今押し込められているわけでもあるんですが、どういう声帯していたらこんな声が出るのか教えて欲しい。張りのある声で女性としてはちょっと低いのかもしれないけど、美しさに似合った美しい声だ。

 やべえ美しいしか言えねえ。

 ゲームの中の彼女をたたえるために色んな美しさを表す言葉を勉強したけど声を表す方法は勉強しなかった。何て言えばいいのか分からない。ただただ美しい。

 そんな声に心配されたら大丈夫ですしか言えなくなるよね。それでますます彼女を困らせるわけですが。

 ああどうしたらいいんだ俺は。

「念のため主治医を呼んできますね。王宮に連絡すれば来ていただけると思いますから。ここでしばらくお待ちください」

 静かに固まっていたと思ったら去っていてしまう。待て欲しい。待て欲しいけどかける言葉なんて思い浮かべないのが俺なんですよ。美しすぎるでしょう。

 あんな美しい彼女が実は今の俺の婚約者なんですよ。アデール・アイゼットはリュカ・イーベル、つまり今は俺と婚約しているんですよ。信じられる。でもゲームだとそう言う設定ですからね。元俺はそれを疎んでいたりしましたけど。信じられない。

 ゲームの中のアデールは幼い頃、恐らく俺たちの世界だと幼稚園にまだ通っているころに王子リュカと婚約しているんです。お互いが好きあってとかの者じゃなくて政略結婚的なものらしく、家族のことを嫌っているリュカはその事をよく思わなかったみたいなんです。何でこんな可愛いのにって俺はつい叫んだけど姉は当然でしょう。たとえゲームとはいえ攻略対象が一度でも好きだった女とまだ婚約しているうちに別の女(ヒロイン)と浮気するなんて下種すぎてやる気なくす。そんな乙女ゲーム内からと言われてまあ納得した。

 じゃあ、婚約者なんて作るなと思ったけど、それはそれでゲームの醍醐味と言う奴なのだろう。意味が分からない。

 でもその意味が分からない設定のお陰で俺は彼女の婚約者でいられるのでオールオッケーなのかなとか思えたりするけど、そもそもどうしてこんなことになったのか考えなくちゃいけないんじゃないかとは思う。俺どうしてゲームの中のキャラになり替わっているの。え、現実世界の俺どうしたの。

 母ちゃんたち心配してないか気になるけど、アデールが美しすぎて婚約生活やっほほほーーいともなるわけで俺の情緒不安定です。助けて姉ちゃん。

  ちょっと俺の傍に現れてくれたりしたら俺超嬉しいです。

「大丈夫ですか、王子! ご様子が変だとアデール令嬢から聞きましたが……。なにかわるいものでも食べましたか。それとも誰かに何かされましたか」

 そんなこと起きないわけで、実際俺の傍に来たのは年老いたおじいちゃんなんですが。見たことないけどきっとゲームのモブとして影で映っていた医者のキャラだと思う。特に印象には何も残ってないキャラ。

 でも今の姿はちゃんとした人で白髪できちり整えていてまじで医者って感じ。もうちょっとゲームよりだったりしたら夢とも思えるけど、めちゃリアルで夢かそうじゃないのかすら全く分からない。朝頬を叩いた時はとても痛かったです。

 そして支度を手伝いに来ていたメイドに心配された。ってかすごくない。男なのに朝の身支度メイドさん女の子が手伝ってくれるんだぜ。どうなってんのって思った。俺にそれを受けられる精神はないので丁重にお断りしましたね。滅茶苦茶変な目で見られたけど。

 今もなんか体をガチャガチャ調べまくられている。問題はなさげだが、でも王子に何かあればと深刻そうな顔を医者が言っているので大丈夫大丈夫と答えたのが、王子どうされましたかなんて青ざめられてもっと検診され始めた。

 しまった。王子はこんなにチャラくなかったか。

 え、これって俺王子になりきった方がいいの?

ゲームしてる時格好いいのは分かるけど。こっぱずかしい。こんなセリフ欲こいつ言えるなとか思ってたけど俺もしかしていった方がいい。え? 無理無理無理言えない言えない。ってか、王子になり切るってことはアデールに冷たい態度を取らなくてはいけないと言う事で。はい、無理!

 絶対無理!

 と言う事で俺はここで俺として生きていきます。はい、決定。

 いや、その前に帰りたいは帰りたいんですけどね。

 推しとの生活、楽しみたいけど家にも帰りたいですね。どうしたらいいんだこれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る