第13話 貫け、豪炎の槍
彼は朦朧とする意識の中で、何やら一心に呟いている。彼の目の前に魔方陣が浮かんでは消え、またかすかに浮かび上がった。
「貫け……フ……レイム……ランス……」
「彼は強力な魔法を唱える気です。この状態でもし放ちでもしたら、暴発の可能性もありますよ!」
「……分かりました。皆、撤退。動ける者はレックスに続いて、第一層まで移動を!」
その指示を聞いて、屈強な騎士がサイカさんを抱え上げた。おそらく彼がレックスさんなのだろう。
「殿は私が。あなたも急いで!」
シャーロットさんに袖を引かれる。だが、僕は両足を踏ん張ってそこに留まった。
「……僕は、先輩を助けるまでは、行きません」
わかっている。こんな杖を持ったところで、自分には何もできないかもしれないことくらいは。それでも、杖に集まり始めている熱に気付いてしまったら。その可能性に気付いてしまったら。──もう、後には引けない。
「だって、先輩は、僕を助けてくれたんだから!!」
何の得もないのに。他の人に呆れられながら。だったら僕も、一度くらい同じように助けたい。
「貫け! フレイムランス!!」
サイカさんと同じ呪文を唱える。すると、蜂に向けていた杖の先端が大きくふくれあがった。まるで炎で溶けたガラス細工のように赤く染まったそこから、一気にすさまじい熱と火の塊が噴き出す。僕はそれをコントロールできず、思い切りのけぞってしたたかに背中を打った。
己の痛みに耐えていると、空中からさっきとは比べものにならないほど大きな爆発音が響く。
「当たった、落ちてくるぞ!」
「聖女様を見失うな!!」
レックスさんを筆頭に、人が前方へ走っていく。僕が息をつめてその様子を見守っていると、やがてレックスさんが先輩をお姫様抱っこして帰ってきた。
「ご無事ですか!?」
「心配ありません、気を失っておられるだけのようです」
ちくりと嫉妬が胸を刺すが、それよりも先輩に大きな怪我がないと分かった安堵の方が大きかった。
「良かった……」
僕が息を吐くと、急に胸元に柔らかいものが飛び込んできた。とっさにそれを腕で受け止める。
「どなたか存じませんが、本当にありがとうございました!」
「し、シャーロットさん!?」
「あなたのように強力な魔術師と会えて、幸運です。おかげで、仲間を誰も失わずに済みました」
僕は戸惑うが、興奮しているのはシャーロットさんだけではなかった。
「本当だぞ、あんな威力の魔法見たことがない」
「キラービーの大型変異種が、一発で吹き飛ぶなんて思わなかった!」
「あんたの師匠は誰だい? 魔術院はどこから?」
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