第14話 先輩、復活する

 かしましく聞かれて、僕は目を白黒させるしかなかった。本当にサイカさんの真似をしただけで、特別なことなど何もない。


「あの、杖がすごいだけだと思いますけど……」

「その杖は、魔力がないと魔法が出せないのですよ。才能がおありなんですね」


 シャーロットさんが微笑む。そんなことを言われたのは初めてで、僕はぼーっとなってしまった。


「う……」


 その時、周囲の声がうるさかったのか、先輩がわずかに動き出した。


「うえ……」


 まだ酒が残っているのか、いつもの元気はない。だが、徐々に瞳に光が戻り始めていた。


「……神宮寺、くん……?」

「先輩、体調は? どこか痛いところはありませんか?」

「……酒でちょっと気持ち悪いだけ。何かあったの?」

「説明は後です。サイカさんが、死にかかってます」

「サイカが!?」


 先輩は弾かれたように起き上がった。そして人混みの中、顔色をなくしてぐったりしている彼に歩み寄る。


「聖女様、治せますか」

「もちろんよ。他の怪我人も彼の周りに集めて!」


 先輩の指示に従い、レックスさんが怪我人たちをひとところに集める。準備が整うと、先輩はしゃんと真っ直ぐに立ってみせた。


「癒やしの女神……」

「エーティウス」

「それよ、汝の傷ついた僕たちに慈悲を賜らん。彼らの傷を癒やし、再び立ち上がらせたまえ。ヒール・ウォーター!」


 先輩の足下に魔方陣が浮かび上がり、そこからどっと水が噴き出す。水は空気中に出ると、すぐに丸い水球となり、倒れている全員をすっぽりと包み込んだ。


「ち、窒息したりしないんですか?」

「大丈夫。吸い込んでも、かえって体の中の傷が治るくらいだから」


 先輩はそう言って淡々としていた。その言葉を裏付けるように、サイカさんや他の人たちの傷が、目に見えてふさがっていく。十分もすれば、見た目には完全に分からなくなっていた。


「聖女さま……」

「良かった、サイカ。意識が戻ったのね」


 サイカさんの瞳には光が戻り、先輩と交わす会話もしっかりしている。それにほっとした瞬間、何かが空中で羽ばたく音がした。──虫ではない。


「これは、鳥の羽音?」


 音を出しているのは、スズメにそっくりな鳥だ。しかしその翼は金属でできていて、腹には大きな鋲がとまっている。あまりに精巧な機械作りの鳥に、僕は思わず息をのんだ。


 鳥はこちらと常に一定の距離を保ち、誰かの肩にとまることもなく空中を旋回している。僕たちに危害を加えるつもりはなさそうだったが、なんだか不気味だ。

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