第11話 いきなりダンジョン・エンカウント

「お、お願いします! 助けてください!! それが無理なら、シャーロットという人に連絡を!!」


 僕は声の限りに叫ぶ。しかし時折下にちらちらと見える人影からは全く反応がなく、しばらく行くとそれも見えなくなってしまった。


「なんだ、あれ……」


 そして僕の目の前に姿を現したのは、巨大な蜂の巣。ぼこぼことあちこちが盛り上がった丸い球体で、上部の出入り口から蜂が頭を出している。中に入ってしまったら、どんな恐ろしい目に遭うかわかったものではなかった。


「先輩!! シャーロットさん!! だ、誰でもいいから助けて!!」


 僕は見栄も外聞も投げ捨てて、子供のようにわめき、もがいた。すると次の瞬間、頭のすぐ横で轟音が響く。次いでめらめらと赤い炎があがり、焦げ臭く吐き気を催すような匂いが流れてきた。


 蜂が唸り声をあげる。それと同時に僕の体は落下し、誰かに受け止められていた。


「もう一人捕まってるぞ!!」

「逃げるぞ、追加の魔法急げ!!」


 僕の周囲では、忙しく人々が駆け回っている。弓に矢をつがえている人、その横でなにやら杖を掲げて呪文を唱えている人、剣を持ち、寄ってくる蜂以外のモンスターを追い払っている人……僕はめまぐるしく変わる万華鏡のような風景を見ながら、ようやく息を吐いた。


 その時、視界の隅にふわふわとした金髪が飛び込んできた。


「大丈夫ですか!?」


 シャーロットさんだった。彼女はかわいらしい顔をひきつらせ、蜂たちに向かって剣を構える。


「キラービー……まさか、こんな巨大化した変異種がいるなんて」


 彼女はきっと唇を噛み、近寄ってきた一体を斬り倒した。その剣筋は、僕には全く見えないほど速い。


 この人なら、先輩を助けてくれるかもしれない。そう思った僕は、彼女に叫んだ。


「まだいと先輩が、捕まってます。最初に炎が当たった個体です!!」

「なんですって、聖女様が!?」

「僕と同じ、脚の部分に捕まってます。意識がないので、防御がとれません。魔法で狙うなら、そこを避けてください」

「サイカ、聞きましたね! 聖女様をお助けするのです」

「はっ!」


 指示をうけて、自分の身長よりも大きな杖を持った老人が進み出る。


「猛き炎よ、その豪炎もって我らが敵を打ち倒せ! フレア!!」


 詠唱が終わると同時に、彼の杖先が真っ赤に光り、そこから炎が飛び出した。ぐんぐん上昇していった炎は、的確に足がもげた個体に狙いを定める。


 そして、着弾。煙があがり、蜂は身をよじった。……しかし、僕の時とは違い、何も落ちてこない。


「まさか、効いてない……!?」

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