第6話 優しいアドバイスと僕の涙
「こんにちは。奥様、この前いただいた梅干し! とっても美味しかったです」
「まあ、良かったわ」
それからしばらくたあいない世間話が続き、僕がなんの話をしに来たか、いぶかり始めた時──
「そうそう。本題を忘れるところでした。この前おっしゃっていた、システムの使いにくい点を踏まえて、操作AIの改善案を出してみたんです。弊社のシステムなら、こういった画面に構成できますよ」
先輩は、画面をプリントアウトしたものを出してきた。確かに必要な動作だけがシンプルにまとまっていて、分かりやすい。
「あらあ、いいわねえ。今のは色々できるのがいいところなんだけど、わかりにくくて困ってたのよ」
「ほとんど同じ機能しか使いませんしね」
奥様は盛り上がり、お茶を出してくれた娘さんは苦笑いしていた。
「機能を制限したモデルでよろしければ、少しお安くもなりますよ」
「じゃ、見積もりをいただける? 値段が下がるなら、主人もうるさくは言わないと思うわ」
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
僕は目の前で契約がほぼ本決まりになるのを、ぽかんとした顔で見ていた。
「……どうだった? 見てみて」
話が終わってから、先輩は近くのカフェに僕を誘う。アイスコーヒーをおごってもらった僕は、おずおずと口を開いた。
「とても和やかで……先輩が歓迎されてるのが、よく分かりました。それに、相手に合わせたアドバイスも素敵です」
「そうそう、そういうことなのよ。大事なのはその二つ」
「二つ?」
「まずは一つ目。相手との間に信頼関係……まあバチバチの友情じゃなくていいんだけど、『こいつの言うことなら聞いてやってもいいかな』ってくらいの感情がないと、話が全然進まないの」
確かにそうだ。フリのセールスは、まず話すら聞いてもらえない。
「だから最初は、無理に売り込もうと思わなくていいの。相手が忙しそうな時に居座るとかもダメね。話が聞けそうな時に少しでも聞かせてもらって、名前を覚えてもらう。これが第一段階」
僕はコーヒーを飲むのも忘れて、先輩を見つめていた。
「で、それができたら、今のシステムで何か困ってるところがないか聞き出す。そしたら、話もしやすいでしょ?」
「た、確かに。参考になります」
「向いてないって思い詰めるより、もうちょっと余裕もってね。縁を作るの大事よ。部長には私からも言っておくから」
僕は先輩の言葉を聞きながら涙をこらえていた。僕なんか助けたってなんの得にもならないのに、なんてできた人だろう。優しいにもほどがある。
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「うおお先輩!!」
「仕事のコツってやっぱりあるよね」
「頑張れ主人公」
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