第5話 面倒見のいい先輩は見放さない
「本日、仕様変更となった製品がある。それに伴い、メンテナンスも入る。使えなくなる時間をお客様に説明できるよう、各自しっかり頭に入れておくこと」
朝礼の伝達事項が終わり、僕はマニュアルを確認した。幸い莫大な変更点ではないが、製品のアップデートやメンテに絡むことなのでしっかり覚えなければ。一応、間違いがないようにお知らせの紙も鞄にしっかり入れた。
「行ってきます……」
お得意先に挨拶した後は、新規開拓も回らないと。僕は移動ルートをスマホで確認しながら、駅へ向かった。
昼の一時。仕様変更の説明はなんとか終わったが、後は問題の新規開拓だ。僕らの会社では、社内の会計業務や勤怠など、様々な管理を行うソフトを開発している。だいたい総務部のお偉いさんの許可がもらえないと導入、とはならないのだが……。
「一度お約束をいただけないかと思いまして……」
「申し訳ございませんが、多忙のため確約はできかねます」
だいたい製品のパンフレットを渡しても、面会すらできない。すごく運が良く、面会までこぎつけても大体「もううちにはそういうのあるんだよね~」とか、「もっと安くならないの?」で済まされてしまう。
「……そりゃそうか」
今やほとんどの会社でパソコン管理など常識、すでに使っているソフトを捨ててまで乗り換えるほどのメリットなど、そうそうあるものではない。僕だって、逆の立場だったら断るだろう。
「こういう風に考えるから、成績が伸びないんだろうけど……」
分かっていてもモヤモヤする。僕はすでに、会社に帰った後に言われる小言のことまで想像していた。
「
そんな僕の憂鬱を切り裂いたのは、先輩だった。
「……え?
「麦茶も飲まずに飛び出して行ったから心配になってさ。……いつもこの辺りで新規開拓してるって言ってたから、様子見に。ちょっと、私と一緒に来てみない?」
唐突に言われ、僕は「はあ」と気の抜けた返事をするしかなかった。先輩は僕の手を引き、ずかずかとビルに乗り込み、手近なオフィスに辿り着く。
「ああ、
意外なことに、出迎えた事務員は笑顔だった。だいたい営業となると売り込みと決まっているから、嫌がられるものなのに。
「そうなんですよー。近くで会ったもんで。同席させてもらってもいいですか?」
許可が出たので、僕は総務部との会議に参加することになった。そこは家族経営の会社で、社長の奥様と娘さんが業務を担当しているという。
※今回のお話は楽しんでいただけましたでしょうか?
「リアルのお仕事って大変ね」
「さて、先輩のお手並み拝見」
「確かに飛び込みの売り込みって厄介なのよね」
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