第6話 エゴン班

 翌朝、訓練兵、警戒部隊、その他訓練学校付近で戦闘していた全ての部隊が悪魔によって殲滅されたことを確認、第十三軍団は昨夜の時点で撤退を始めていて、第四軍団は正面と側面の両面から猛攻を受け敗走を始めた。エゴンたち第101特殊中隊は次の戦いのために温存され、優先的に撤退することになった。

 エゴンとエルザは仲間と共に装甲車に乗っていて、そこに知らせが入る。

 「エゴン、エルザ、悪い知らせだ。訓練兵は全員死んだらしい。」

エゴンは呆然としていた。

「そう…覚悟はしていたけど…」

エルザは涙を流した。

「殺してやる、悪魔の奴ら、全部まとめて殺してやる!心の底から、ぶっ殺してやる!」

「…」

「悪いな、雰囲気悪くして。」

エゴンの声は震えていた。

「とにかく、俺たちはクルトの敵を討ち続けるしかない。いつまでも感情に流されてはいられな…流されちゃ…いけないんだ。」

エゴンも泣き始めた。装甲車はその間も走り続けた。そして静寂が続く。

「エゴン、俺たちが先に撤退したのは先に次の防衛ラインに入って悪魔の軍勢を食い止めるためだ。何か策を考えて俺たちが動かないと…」

「フィンリー、今の俺にそれができると思うか…」

「…」

「どうでもいいけどさあ、グレースってこうやって目の前で見ると…貧乳dぐはぁ!」

ティオはグレースに腹を蹴られた。

「何やってんだ!?ティオ。」

「wwwww本当に何やってんだよ!wwwww確かにグレースは貧乳だけどさあ、うぅ…苦しい。」

グレースは運転席にいるマイクの首を絞める。装甲車が左右に揺れる。

「おい!ちゃんと運転しろよ!」

「グレース!やめろ!」

マイクが何とかブレーキを踏んで装甲車が止まる。

「次言ったら殺す!」

「「すいませんでした。」」

「こちらCP、輸送隊へ、ヒューマンエラーがあった。先に行け。」

「了解。」

「大丈夫?」

「大丈夫だよ、スージーちゃん。」

「俺は戦えなくてイライラしている。次やったら殺す!」

「怖いよアレックス(小声)…」

装甲車は動き出す。

「www何なんだよ!」

エゴンは笑いだした。エルザも笑顔になった。

「まず状況を整理だ。フィンリー!」

「了解。今は第四軍団主力4個師団と第十三軍団3個師団がテルジェ川防衛ラインを放棄して撤退中。それで西方のセコンド川に新たな防衛ラインを構築、そこで悪魔を迎撃するんだろうね。」

「悪魔の追撃はどうなっている?」

「第十三軍団はまだしも第四軍団は壊滅的なダメージを受けている。この後の敗走でさらに被害を拡大するかも。」

「うん…」

「こんな状況で次の防衛ライン守れるの?」

「厳しい。だけど撤退の時間は稼ぎたい。」

エゴンたちはセコンド川の防衛ラインの近くにあるアンデリングという街に到着した。既にジョージ・パットン少将ら幹部将校たちは先に到着して防御陣地の建設を指揮していた。エゴンは第四軍団第一師団の司令部に向かう。この時のパットン少将は一時的に第二師団も指揮下に収めてアンデリングの防衛を担当していた。

エゴンはパットン少将がいる司令部に向かう。

「エゴン・クリーガー大尉、入ります!」

「おお、エゴンか。無事で何よりだ。」

「師団長閣下、あなたも無事で良かったです。」

「まずは君に謝りたい。」

「いいんです。師団長閣下のせいではありません。それより、次の作戦を立案しました。」

「そうか、聞かせてくれ。」

「まず…現在の状況ではこちらが態勢を立て直す前に悪魔側がここに到達してしまい…」

作戦内容を一言で言えば山岳部にあるダムを破壊することで人工的な氾濫を起こし、悪魔の軍勢をこれに巻き込んで被害を与える作戦である。作戦実行後はセコンド川の防衛ラインを放棄し、稼いだ時間でさらに後ろに撤退し、万全を期して悪魔の軍勢を迎撃する。

「以上になります。」

「随分と大胆な作戦だな。それでエゴン班が爆撃を誘導する訳だな。」

「はい!」

「なるほど…これはあれだな、より良い負けを目指した作戦だな。少し時間をくれ。」

パットン少将は約30秒、目をつむって黙って考えこんだ。クルトは緊張を感じながら返事を待つ。

「いいだろう。私の責任でこの作戦を実行する。エゴン、お前は班のメンバーに作戦内容を伝達して準備をしろ。根回しは俺に任せとけ。」

「ありがとうございます!」

「あと空軍のリチャード・ボング中佐って奴に会ってこい。お前の口から作戦を伝えておいて欲しい。」

「承知しました!」

エゴンは頭を深く下げてパットン少将の部屋から出る。

エゴンはジープに乗り込んで、防衛ラインの近くにあるアンデリング空軍基地に向かう。リチャード・ボング中佐は初対面の人物であった。エゴンは少々不安な気持ちも抱えつつ向かった。ジープが守衛所で止まる。

「何の用だ?」

「パットン少将の命令でリチャード・ボング中佐に会いに来た。通せ!」

「俺に会いに来たのか。」

「あなたが!?」

「おう!待ちくたびれて守衛所まで来ちゃったよ。」

「申し訳ないです。」

「せっかくだから、ハンガーに来いよ!俺の戦闘機を見せてやる。」

エゴンはジープを降りて言われるがままについて行く。

「こいつらが俺の相棒だ!」

ハンガーの中に4機のJAS39グリペン戦闘機が並んでいた。

「乗せてやる!あの複座型に乗れ!パイロットの気分を味わせてやるよ!」

「あ、ありがとうございます…」

エゴンは話を切り出すタイミングをつかめないでいた。エゴンとリチャードが操縦席に座る。すると発進するわけでもないのにキャノピーが閉じた。

「あの…次の作戦が決定したので…」

「知っているよ。それはパットン少将から聞いたよ。なかなかスリリングな作戦だな。だけどな、一番スリリングなのはパットン少将だよ。防衛ラインを放棄するわけだろ。土地を放棄させられる側の貴族は黙ってないよ。自分の領地を放棄すれば、貴族は面子を失う。」

エゴンは政治的なことは一切考えていなかった。

「公人評議会はセコンド川防衛ラインの死守命令を決議しようとしている。今までもそうだった、軍人がいくら死のうと自分の土地だけは絶対に譲らないっていう貴族たちのエゴで俺の仲間は無理な戦いを強いられて何人も犠牲になった。お前もそうだろ。」

「確かに、そうですね。」

「そうだろ、単刀直入に聞く。お前は王政府のことをどう思っている?」

「それはもうくっ、」

エゴンは口を押えて何とか止めた。

「ふっw、まあ、とりあえず、今は作戦の準備を進めるだけじゃなくて俺達もパットン少将の政治的な駆け引きに協力しないとな。特にお前は第三身分市民での人気が高い、やれることは多いはずだ。」

「はい!」

二人は戦闘機から降りた。

「俺の戦闘機すごかっただろ!」

「そうですね。俺も空軍に入れば良かったです!」

「www」

エゴンは防御陣地に戻るためにジープに乗っていると物騒な光景を見た。武装した警察官のような人たちがある家を包囲していた。

「あれはなんだ?」

「一か月くらい前に王都で大規模な反王政デモがあったんです。そのデモを率いた人物がアンデリングに潜伏しているらしくて…」

その時、銃声が鳴り響いた。エゴンは全て察した。

「治安維持局に見つかってその場で射殺されたわけか。」

エゴンはこれから自分がしようとしていることの重大さを改めて感じる。


悪魔の子プラスアルファ!

・エゴン班

エゴンがエルザと訓練兵の時の仲間で編成した特殊部隊である。第101特殊中隊の司令部としても機能している。メンバーを紹介する。


・アレクサンダー・ベルガー軍曹

最強の兵士である。筋肉質で、身長205cm体重137kgという恵まれた体格を持ち、悪魔を素手で倒せるほど強い。愛称はアレックスである。


・マイケル・グリフィン曹長

車輌の運転が得意な兵士である。エゴン班が移動する時には装甲車を運転している。戦闘の際にも巧みな運転技術によって様々な場面で貢献している。愛称はマイクである。


・ティオ・スミス曹長

爆薬の扱いが得意な兵士である。最低限の爆薬で破壊したい部分だけを破壊できる、爆破のスペシャリストである。撤退する時の橋の破壊などで活躍する。マイクとは訓練兵になる前からの仲である。


・グレース・ブラウン曹長

狙撃が得意な兵士である。とてもクールなショートカット黒髪美女で、エルザのライバルのような立場である。


・スザンナ・クレベク少尉

エゴン班の仲で唯一の衛生兵である。分隊だけでなく、みんなから、絶世の美少女との呼び声が高く、特に男子から「女神」と呼ばれて愛される。愛称はスージーである。


・フィンリー・ムーア中尉

足が速く、偵察が得意な兵士である。偵察して得た情報をエゴンに伝えるだけでなく、参謀として作戦立案にも協力し、エゴン班の副長のような役割も果たした。


・公人評議会

ヴィマナ王国の封建貴族たちで構成されている議会のことである。ヴィマナ王国では貴族たちは忠誠と軍役の義務を負っている。その代わりに、それぞれ国王から与えられた土地を統治し、自らの軍隊を保有している。有力な貴族は軍団と呼ばれる十万人を超える大規模な軍隊を率いていてヴィマナ王国陸軍は13の軍団から構成されている。しかし一つの国である以上13の軍団を一つにまとめることも必要である。そのために公人評議会が存在している。公人評議会は中小貴族も含めた全ての貴族が集まり、議論して一つの結論を出すために存在している。また、軍隊のことだけでなく、徴税や国全体で施行されるべき法律の草案に関しても議論される。貴族の中にも階級があり、階級ごとに議決の時に投票できる票数が決まっている。


・ジョージ・パットン少将

ヴィマナ王国陸軍第四軍団第一師団を率いる将軍である。年齢は57歳。第四軍団を率いる有力貴族、アベル・ロイスに仕える貴族軍人である。貴族として与えられた土地を統治しつつ、自ら前線に赴いて兵を指揮している。優秀な部下は身分を問わず昇進させ、活躍の機会を与えることからエゴンたち第三身分市民出身の兵士からは特に、慕われる。


・アンデリングに駐留している部隊

アンデリングの防衛しているのは第四軍団第一師団と第二師団である。第二師団長のバルデマー・ロイス少将は公人評議会に参加するために王都に常駐していて、前線には前線代理指揮官を派遣している。ちなみに多くの貴族は自ら戦場へ行かず、前線代理指揮官を派遣している。そのため、アンデリングに駐留している部隊の中で最も階級が高いジョージ・パットン少将が事実上、部隊全体を指揮している。

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