第5話 ―テルジェ川の戦い②―
「あああ!!!」
みんなが一斉に悪魔に向けて射撃した。悪魔はその場で倒れた。
「おい!あっちから銃声が聞こえるぞ!」
「そっちに仲間がいるぞ!」
「合流しよう!僕たちだけで悪魔と戦うのは危険だ!包囲されるかもしれない!」
「よし、行くぞ!」
クルトたちは銃声が鳴る方向に向かって走った。
「やめろ!やめろ!あああ!!!」
「おい!置いてくな!」
悪魔が馬乗りになって兵士をめった刺しにしていた。そして周りには兵士たちの遺体が転がっていた。そして銃撃して戦っている兵士も見えた。
「よし!掩護するぞ!」
クルトたちは恐怖を感じたが、それを我慢して戦った。息がとても荒くなり、心臓が高鳴る。
「君たち!早くこっち来て!」
「シェンク少佐!」
クルトたちはシェンク少佐たちと合流した。
「防空陣地が破壊された!とにかく後ろの防御陣地まで撤退するよ!」
「了解!」
「マジかよ。」
「私たちがここで止めるからみんなは下がっていて!」
「しかし…」
「早くしないと死ぬよ!」
その時、曲がり角から大量の悪魔が現れ、こちらに向けてなだれ込んで来た。誰もが絶望した。その瞬間、悪魔に砲弾が着弾した。後ろからは眩しい光が見えた。味方の装甲車である。
「ここは俺らに任せろ!」
「教官…」
クルトたちは感激していた。
「早く行け!」
バローネ教官は機銃掃射を始めた。悪魔たちは足止めされ、その間にクルトたちは防御陣地になっている校舎まで撤退した。
「お前ら生きてたのか!」
「みんなも悪魔に攻撃されて撤退したの?」
「うん、外側の塹壕は全部占領されたと思う、それで俺たちはもう包囲されている。」
「え…」
「援軍は来るらしい。」
「援軍って?」
「多分前線で戦っていない第十三軍団だよね。第四軍団は多分交戦中だし。」
「大丈夫?いつも後方にいる平和ボケ部隊だよ。」
「来ないかもね。」
「…」
「まあ、とにかく寝よう。」
「そうだ、まだ寝て無かった。」
クルトたちは廊下で寝そべった。
「このままじゃ僕たちもああやって死ぬのかな…」
「やめろよ!クルト。俺だって怖いんだ!」
「ごめん。」
訓練兵はみんな縮こまって震えていた。
「おい、どこに行く?」
「みんなの睡眠を邪魔しないように風に当たりに行く。」
クルトは校舎の外に出た。その時、バローネ教官が帰ってきて、教官室に向かっていた。クルトは後をつけた。バローネ教官が教官室に入った時にドアをノックした。
「クルト・クリーガー訓練兵、入ります!」
「何かあったか?」
「意見具申に来ました!」
「そうか、お前なら良いだろう。」
「はい!他の教官は…」
「訓練兵の盾になった。続けろ。」
「はい!援軍の件につきまして」
「ああ、たしかに期待できないな。」
「はい、第十三軍団が自ら悪魔に挑んだ戦闘記録はありません。なので、警戒部隊を第十三軍団の陣地に撤退させます。できるだけ渡河してきた悪魔を引き付けさせて、第十三軍団と交戦させます。そうすれば無理やり第十三軍団を戦闘に巻き込めます。そうすれば、第十三軍団もそれを押し返そうとしてこちらに向かってくるはずです。」
「第四軍団が側面を突かれて壊滅する可能性もある。しかも警戒部隊を撤退させれば、渡河した悪魔がこっちに向かってくるかもしれない。」
「はい。これは賭けです。悪魔は本能的に人を殺すので、数が多い第十三軍団に食いつくはずです。」
「訓練兵はどんな様子だ?」
「みんな怖がっています。」
「そうか。お前はまず、周りの奴を勇気付けろ。士気が低ければどんな作戦も失敗する。お前の兄が建てた作戦でもな。作戦は採用しよう。そうでもしないとこの状況は乗り越えられない。」
「ありがとうございます。」
「クリーガー訓練兵、随分と兄に似てきたな。良い意味でも悪い意味でも。」
クルトは何か、くすぐったさを感じた。
「ありがとうございます!」
クルトはみんなのところに戻った。その瞬間、警報音が鳴った。
「総員戦闘配置!」
防御陣地に向かってくる悪魔たちがライトで照らされる。訓練兵たちは疲労がたまる中、何とか起き上がり、銃を持った。クルトたちも疲れた体に鞭を打って配置についた。
「またかよ!」
訓練兵たちはライトが照らした悪魔に向けて射撃を浴びせる。しかし悪魔は次から次に突撃してくる。
「あああああああ!死ぬ、死ぬよ。防ぎきれない!悪魔に殺されるよ。」
「それは嫌だ!嫌だ!」
「諦めるな!」
次の瞬間、地震のような大きな衝撃があった。5~6体のドラゴンが防御陣地に落ちてきたのである。訓練兵が次々に焼き殺され、踏みつぶされる。その隙に悪魔が次々に防御陣地に侵入してきた。
「終わりだよ…」
「諦めるな!貸して!僕が撃つから!」
「総員撤退!」
教官が自ら駆け付けた。
「しかし…」
バローネ教官が射撃する。クルトの背後にいた悪魔が倒れた。
「撤退してくれ。」
クルトたちとバローネ教官は訓練学校の中心部にある校舎に向かって走る。近くで訓練兵たちが悪魔と白兵戦をしていた。訓練兵たちの体に悪魔の手が突き刺さっていた。
「うわああああああ!!!!」
バローネ教官は険しい顔で言う。
「警戒部隊は既に壊滅した。残っているのはここだけだ。」
クルトたちは青ざめた。校舎にたどり着く。残された兵力はわずかだ。
「もう終わりだ…」
「諦め…ないで…」
「総員注目!」
バローネ教官が訓練兵たちと防空部隊の兵士に向けて話す。
「援軍は今から約4時間後に2個師団の大軍勢で来る!それまでの辛抱だ!我々の力を持ってすれば耐えられる!絶対に生き残れるぞ!」
「…」
「配置につけ!」
重い足取りで皆が動く。その頃、ジャンは一人で校舎の六階に向かった。
「シェンク少佐!ご無事で良かったです。」
窓の外を眺めていたシェンク少佐が振り返る。
「君はさっきの…」
「はい!先ほどはありがとうございました!」
「君も勇敢でかっこよかったよ。」
ジャンが照れる。その瞬間、ドラゴンが校舎に突っ込んできた。シェンク少佐がジャンに覆いかぶさる。屋上が吹き飛んで六階はむき出しになった。
「シェンク少佐!」
少佐は頭に建物の破片が衝突して意識がもうろうとしていた。
「早く…応戦して。」
ジャンは持っていた対戦車ロケット弾をドラゴンに向けて撃つ。だが殺せなかった。ドラゴンはジャンに炎を吐こうとする。シェンク少佐が最後の力を振り絞ってドラゴンの目に銃撃する。ドラゴンは嫌がって暴れ、シェンク少佐に炎を吐こうとする。その隙にジャンは次弾を準備、発射、ドラゴンは死んだ。
「君を守れて良かった。私のことは気にしないで…」
「シェンク少佐!」
「ジャン!!無事だったか。」
クルトたちも駆けつける。
「6階は危険だ!早く下の階に!」
「置いてけないだろ!」
ジャンは涙目だ。
「ドラゴンがこっちを狙っている。みんな、協力して!」
ジャンを引っ張って下の階に連れて行った。その瞬間、ドラゴンの第二波が校舎の6階に突っ込む。
下の階からは悪魔が迫っていた。
「クソ!!ああーー!!」
ジャンがみんなの制止を振り切って一気に階段を下りて行った。
「バカ!やめろ!」
1階は悪魔に占領されつつあった。ジャンは乱射しながら1階に突撃する。
「ああああああ!!!!」
勢いで1体の悪魔を倒すが、弾切れになる。その時、ジャンのは悪魔に胸部を刺された。
「ジャン!」
みんながジャンに駆け寄ろうとした。
「感情に身を任せるな!」
バローネ教官が止める。
「ここは俺に任せろ。お前らは窓から侵入してくる悪魔を頼む!」
「ジャン…」
「返事しろ!」
「了解!」
涙が出る時間の余裕もなかった。クルトたちは2階の窓から侵入してくる悪魔と戦う。
「くっそー!ぶっ殺してやる!」
ルイスが2階の窓から身を乗り出し、下から登って来る悪魔を撃とうとした。しかし、登ってくる悪魔に服を掴まれて引きずり降ろされる。
「ルイス!」
残った三人は動揺を隠せなかった。しかし、それをよそに悪魔は窓から侵入して来る。応戦するしかない。
「ダメだ、僕は弱いんだら、生き残れる訳なんてないんだ…」
「何だよ!さっきまで諦めるなって…」
ダニエルの強い口調が急に途切れる。クルトははっとする。
「ダニエル!」
ダニエルは刺された。その後ろにはバローネ教官の死体を引きずる悪魔もいた。クルトはピーターと一緒に3階に逃げる。既に4階までドラゴンに破壊されていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「もうだめだ、僕は…弱い。」
曳光弾が美しく見える。
「そんなことないよ。クルトは強い、いざって時に動ける強い戦士だよ。だから、自分を誇って。」
泣いているピーターの背後には刃のように鋭い手を向けて飛びかかる悪魔が見えた。そしてピーターも死んだ。
クルトは思った。
“僕は戦争が嫌いだ。”
クルトは銃を捨てた。
「助けてくれ!殺さないでくれ!僕たち話せばわかるだろ…」
クルトは涙を流す。目の前にいる悪魔は満面の笑みを浮かべて、刃のように鋭い手を向けていた。
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