これ以上の悲劇を食い止めなければ
私は、先代の旦那とその両親について、話を聞くために林田勲の部屋を訪ねた。コンコンとノックすると間延びした声が聞こえる。
「誰ですかな。空いてますぞ」
「失礼します」
「刑事さんでしたか?女将が失礼を致しましたな。ですがわかってやってくだされ。女将にとって、華は、この桜庵で唯一の味方だったのです」
「えっ、唯一?桜道筋さんもいるのでは?」
「若旦那は、あの通りの遊び人。女将に子供ができぬと知ると。そのことと向き合うことをせず。他の女との間に産まれた子供を育てさせれば良いと考えるような御方です。でも、それもワシの古き過ちですな」
「ということは、やはり桜華さんが語っていたことは真実なのですね」
「そうですなぁ。若旦那に種が無いと知った華がワシに種をくれと頼みにきたのは、もう30年も前になりますかな。当時のワシは、番頭などではなく。番頭見習い。所謂、銭湯の風呂掃除から何でもやる何でも屋じゃった」
「それは、大変でしたね」
「いやいや、好きな人と働けているのです。大変では、ありませんでしたな。だから華がワシを頼ってくれた時、嬉しかったのじゃ」
林田勲は、涙を堪えながら話す。
「そうなんですね」
「あぁ。じゃけど、ワシは、大旦那様から雇ってもらった恩がありましたから葛藤しておりました」
「でも最終的には、桜華さんとの不倫を選んだ」
「そうですなぁ。あんな悲痛な華を見て、期待に応えてあげないわけにはいかないと思いましたな。ですがワシは、それと同時に華の旦那である
「成程、でも桜華さんは言ってましたね。いつしか種をもらうだけの行為が愛情へと変わっていたと」
「ワシもそうでした。ですが華は知りませんでしたが旦那様は、知っておられたのです。御自身が種無しであったこと。そして、華が自分との子供と偽るためにワシとまぐわっていることを」
「えっ?桜並利さんは、知ってて、行為を黙認していたのですか?」
「そうですなぁ。旦那様は『それで華が納得するんなら俺は何も言わねぇ。でも林田、華に本気になるな。俺が言いたいのは、それだけだ。後、産まれた子は、俺の子として育てる』とね」
「桜並利さんも辛かったんでしょうね」
「そうでしょうなぁ」
「1つお聞きしたいのですが桜並利さんがそのことを御両親に話したってことは?」
「あり得ません。そんなことを言えば、華もワシも桜庵には居られなかったでしょう」
「でも2人が孫である桜道筋が実の孫ではなかったと知っていたら。そのことで桜華さんを恨んでいたら」
「まさか、刑事さんは、大旦那様と大女将が華を殺したと言いたいのですか?」
「いえ、ドッペルゲンガーに、桜華さんを殺すように頼んだとは考えられないかってことです」
「成程、あらあらでしょうな。ずっと騙してきたんですから。でもそうなるとドッペルゲンガーの次のターゲットは、華と不倫していたワシってことになりますな」
「そうとは限らないでしょう。桜並利さんの御両親は、恐らく桜道筋と桜並利のDNA鑑定を依頼して、わかったのでしょう。その場合、父親が誰かまではわかりません。桜並利では、なかったということがわかるだけです」
「ワシは、どこまでも華と旦那様に守られていたということですな。つくづくそんな自分が嫌になりますわい」
「聞きたい話は、聞けました。桜華さんの件、本当に申し訳ありませんでした」
「よしてください。ワシにアンタを責める資格はない。ワシは、華にずっと守られてきた男なのですからな。ですが、これだけは言わせてくだされ。女将に殺人を犯させないでくだされ。その前に必ず犯人を捕まえてくだされ」
「えぇ。お約束いたします」
「安心しました。それでは、よろしくお願いいたします」
「はい。失礼致します」
私は、林田勲の部屋を後にして、自分の部屋へと戻る。すっかり夜となっていたので、食堂へといく。あんなことがあり、女将が桜庵の仕事をせずに犯人探しをしている。皆もバラバラで食事を食べるようになっていた。私も食事を済ませると部屋へと戻り、風呂に入り、寝る支度をした後、ふと裏サイトのことが気になり開いてみた。そこには、新たな情報が書き加えられていたのだ。
「えっ?どういうことこれ?」
そこには、次の殺害人物について書かれていた。『アイツのネタで俺は芸能人を辞めさせられた。許せねぇ。あんな盛りやがって』『アイツのネタの半分は、嘘で塗り固められている。俺も議員を辞めさせられた。許せねぇ』『アイドルだって、大ぐらいするっての。それをアイツのガセネタのせいでトイレが長いのはマネージャーと密会してるからですって。嘘も甚だしい。でも誰も私の言葉を信じてくれなかった。アイツに天罰を与えてください。私からアイドルという夢を奪ったアイツを地の底に叩き落としてください。お願いします。お願いします。ドッペルゲンガー様』と。そう次のターゲットは、ライターの安藤保志だ。今度こそ、ドッペルゲンガーを捕まえないと決意を新たにして、眠るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます