注意勧告の裏で

 今日は悲鳴が聞こえることはなく目が覚めた。私は、ドッペルゲンガーの次なるターゲットであるライターの安藤保志に、狙われていることを伝えるべく。安藤保志の泊まっているオオヤマザクラの間に向かう。

「失礼します」

「刑事さんが何のようだ。俺はドッペルゲンガーのトクダネで忙しいんだ。いや待てよ。そういやドッペルゲンガーがここで殺した2人目の被害者、桜華だったか?刑事さんは、知ってたのに本人に狙われてることを言わなかったんだよな。これって責任問題だよなぁ」

「うぐっ」

「成程、成程。その様子だと自覚はあるわけか。そして、今度はきちんと伝えようと思ったってとこだな。俺が狙われてるのか。良いじゃねぇか。とくダネが向こうから転がってくれるってか。最高だねぇ」

「そんな悠長なこと言ってる場合では」

「とくダネのためなら命張るのがライターってもんだぜ。それにしてもドッペルゲンガーが次に狙ってる人間がわかるものがあるとはねぇ」

「そんなものは、ありません」

「隠すな隠すな顔に出てるぜ。私は知ってますってなぁ。見出しはそうだなぁ。ドッペルゲンガー事件での警察の失態とかで良いか。知ってたのにも関わらず被害者に伝えなかったんだもんなぁ。なっわかるだろ。こんなネタ書かれたら警察権力の失墜だぜ。ドッペルゲンガーのことがわかるネタ寄越せよ。交換条件だ」

 警察官として、こんな奴との取引に応じるつもりはない。

「お断りします」

「へぇ、断るのか。まぁ俺は、かまいやしねぇよ。でも大袈裟に書くかもなぁ。でも仕方ねぇよなぁ。刑事さんが自分で蒔いた種だもんなぁ。でも、アンタなら刑事やめても顔が良いから夜の仕事とかでNo. 1になれるさ。良かったなぁ」

「私はどんなに蔑まれようとも皆の安全を守るため刑事をやめるつもりはないわ」

「へぇ、そりゃ大層な稔侍だけどよ。お前のせいで人が1人亡くなったことは、覆せねぇよ。あっこんな見出しの方が良いか。美人警察官、ドッペルゲンガーを知りながら殺害を黙認。警察の失態だな。こりゃ飛ぶように売れそうだ。良いネタをありがとさんだなぁ」

「そんな嘘を並べ立てるなんて許されることじゃないわ」

「嘘だというとはねぇ。何か間違えてんのかねぇ。アンタがドッペルゲンガーを知ってたのは事実。被害者に何も言わなかったのも事実。これは、黙認と捉えられてもおかしくないと思うんだがなぁ」

「うぐっ」

 確かにコイツの言うとおりだ。私はドッペルゲンガーのターゲットを知っていた。それを次々と起こる事件に対応するがあまり伝え忘れて、死なせてしまったのだ。それをコイツは逆手に取り脚色しただけだ。これで何人もの人間を貶めたのね。そして、その怒りがドッペルゲンガーの裏サイトに書かれた。私は、それでも彼に注意喚起はしたのだ。もう良いだろう。

「それでは、伝えましたから。私は失礼します」

「御苦労さん、まぁ、せいぜい残り短い警察官生活に悔いがないようにしろよ。ケッケッケッケ」

 下卑た笑い声。気持ち悪いわね。でも、こんな男でも守るべき市民の1人にかわりない。私は、警告はした。後は、本人が警戒するしかないのだ。今日は、久々に誰の悲鳴も聞こえてこなかったのだ。それは、メリーさんによる殺人がまだ起こってないってことなのだから。この時の私は、安易に考えていたのだった。警告はしたので、御飯を食べに食堂へと向かう。自給自足という桜庵のおかげで、食料と水に困らなかったのは、幸いだ。それにしてもそのおかげで、橋が落とされて孤立しているにも関わらず皆、そこまで落ち切ってはいない。それでも犯人がこの中にいると私が言ったことで、疑心暗鬼にはなっているけど。橋が落とされていて孤立?自分で自分の言葉に疑問を覚えた。携帯が普通に使えている!裏サイトが見れたということはネットが繋がっているということだ。それは電波が通っているってことだから電話ができる。私は、食事を済ませて、部屋に戻ると一課のアイツに電話をかけてみた。

「もしもし、不動」

「い......の.........だ」

「不動、聞こえないわよ。冗談は、やめなさい」

「い...も......か?。で......が..................だ」

 ツーツーツーと電話が切れた。

 もう。何なのよ。ネットが使えるんだから電話もできた。でも繋がったは、良いのだけれど。電波が悪いみたいだった。どういうこと?まさか全部屋監視してるの?ネットは良いけど電話はダメってこと?それなら、携帯から不動にメールを送る。送信できません?圏外?一体どうやって、こんなことを可能にしてるっていうのよ。ドッペルゲンガーを騙るものは、こんなことも可能だっていうの。同じなのか。楓にも確認しよう。私は、部屋を飛び出し、楓の泊まっているヤマザクラの間に向かう。

「失礼します」

「おぅ、出雲さん、どうしたんだ?」

「美和?」

「楓、携帯って繋がる?」

「電波遮断されたって言ってたじゃない。繋がるわけ。ってえっ繋がってる!」

「電話は掛けれる」

「やってみるわ。編集長の番号

 電話がなり、楓が話す。

「もしもし編集長?」

「す...............か?ど.........き.........ぞ」

 ツーツーツー。

「切れちゃった。繋がったけど。向こうからの声は所々しか聞こえない感じだったわね」

「携帯をもう一度見て」

「圏外?」

「やっぱり、意図的に電波障害を起こしているのよ。外部と連絡を取ろうとしのを見て」

「それってよ。俺たち監視されてるってことか?ドッペルゲンガーって奴に」

「えぇ。そうとしか考えられないわ」

「美和の言う通りなら。この部屋のどこかに盗聴器か監視カメラ的なのがあるはず」

「いえ、どこから電話が無理ならメールで同僚に知らせようって考えだけど、それも全部できなかった。どんだけ隠しながらやろうとしてもよ」

「まさか、携帯内のデータを盗み見しているって考えてるの?」

「えぇ、そうとしか考えられない」

 そこで楓が編集長にメールを送信してみた。だが、それは普通に遅れたのだった。編集長からの返信も来た。

『成程、それは大変だったな。でもまさか安藤もそこに居るとはなぁ。こっちから警察に連絡してやる。でも簡単な橋が壊れてんなら復旧に数日は、かかんだろ。それまでなんとかしてくれ。気を付けてな』

「美和?放心してるとか悪いんだけど。これで何とかなりそうね」

「えっえぇ」

 私は、何がどうなっているのか頭が混乱しながら夕食を食べ眠りにつくのだった。そして、不思議な夢を見る。

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