夢の中の私は山里愛子?
あれっこれってあの時と同じ感覚。
「どうしたのよ愛子?」
「竹下様、なんでもないです」
「それにしてもあそこまで女将がとぼけるなんてね。愛子に何度も詰め寄らせたのに、知らないフリを押し倒すなんて、アイツが散梨花を殺したのは明らかなのに」
「本当にそうなのでしょうか?」
「何、アンタ、私に意見する気?」
「いえ、でも。もしかしたらほんとに入り口のビスクドールが勝手に動いて殺して回ってるなんてことが」
「あるわけないでしょ。都市伝説のメリーが実在してるって思ってんの。流石脳みそが筋肉で詰まってる馬鹿よね」
「元はと言えばアンタが女将を突き落とすから」
「だから言ったよね。2人も同罪だよって。チクったらどうなるかわかってるよね」
「うっ。ごめんなさい。もう言いませんから」
「わかれば良いのよ愛子。これからも私のために働くのよ。あの女将を確実に追い出して、道筋様に身も心も受け入れてもらうんだから」
「はい。竹下様のために」
この2人、2人きりの時は完全に竹下育美の方が山里愛子より上なのね。映像が切り替わる。ここは、トイレかしら。
「愛子、まだなの?」
「竹下様、申し訳ございません。なんで私にこんなメールが」
「えっ何か言った?」
「申し訳ございません。先に地下室に戻っていてください」
「まっいいわ。じゃあ、戻ってるから」
竹下育美が遠ざかっていくと、山里愛子は恐る恐るメールボックスを開く。
「私、メリー。今から貴方の元に行こうと思ってるの」
「ひっ。嘘でしょ。これで散梨花も誘われて殺されたのよね」
トイレから飛び出した山里愛子にメールが届く。
「私、メリー。今薄暗いところから出たわ」
「ひっ、そんなトイレにはいなかったはず。どうして。逃げなきゃ逃げなきゃ」
散梨花の遺体と村田環の遺体が安置されている従業員室前を通るとまたメールが届く。
「私、メリー。今長い通路を歩いているわ」
「ヒィ。この廊下を歩いてるっていうの。絶対に振り向いちゃダメ。振り向いちゃダメ。逃げなきゃ逃げなきゃとにかく逃げなきゃ」
ここは山里愛子が遺体となって発見された2階に登る階段近くにある休憩室かしら。
「ハァハァハァ。どこにどこに逃げれば。ハァハァハァ」
メールが届き揺れる携帯に驚く山里愛子。
「ヒィ、もうなんなのよ」
「私、メリー。今貴方の後ろにいるの」
「振り向いちゃダメ振り向いちゃダメ」
「愛子、私よ」
「えっ竹下様」
「アハハ。フリムイチャッタネ。ザーンネーン」
「ヒィ(苦しい苦しい手足が糸で引っ張られる)」
「サーテ。キミハ、ハリツケボクサツ。トイウコトデ。ジャジャーン。ハンマーダヨ」
「やめてやめて。そんなので殴らないで」
「メリーモネ。クルシカッタヨ。タスケテッテイッテモ。ムシシタヨネ。ナンパツ、タエレルカナ。アハハ」
ハンマーを足めがけて、打ち付ける。
「ギャアー。痛い痛い。足が足の感覚が」
「ダイジョウブ。ダイジョウブ。ドンナニ、コエヲダシテモ。ダレニモ、キコエナイカラサ。ニハツメ」
ハンマーを腕めがけて、打ち付ける。
「ぎいゃぁーーーー。痛い痛い痛い。もう許してください。謝りますから」
「アヤマッタラ。ユルサレルノ。キミタチノセイデ。ママハ、ニドト、コヲ、ウメナイカラダニナッタノニ?ハーイサンハツメヨ」
ハンマーを腹にめがけて打ち付ける。
「ゴフッ。もうやめて。ほんとに死んじゃう」
「タエルネ〜。ジャア。ヨンハツメネ」
ハンマーを頭めがけて打ち付ける。山里愛子はぶら下げられた物言わぬ人形と成り果てた。
「ソウダヨネ。アタマハ、ダメダッタヨネ。シッケイシッケイ。モウチョット、イタブルツモリダッタンダケド。マァイイヤ。バイバイ。ナーンテネ。シンダラ、シタイゲリってね」
メリーは笑みを浮かべながら何度も何度もハンマーで山里愛子を殴りつける。身体の隅々に殴打痕ができる。
「クスクス、コレデカンベンシテアゲルネ。モウキコエテナイダロウケドサ。アハハ」
意識が急激に戻される。
「いやぁーーーーーーーー。ハァハァハァ」
またこの夢。今度は山里愛子の死んだ時ってことよね。また漏らしちゃった。もう最悪。今度のメリーさんはまるでハンマーで殴るのを楽しんでいるようだった。散梨花さんの時は、悲しげな表情でナイフを刺していたのに。あの顔は怖かった。夢だってわかってるのに、漏らしちゃうなんて、はぁー、下着だけはたくさん持って来ててよかった。それにしてもメリーさんが竹下育美の声色を真似て、山里愛子を振り向かせるなんて。警戒していた山里愛子が振り向いた理由がわからなかったが。それもあの夢で理解できた。どうやら都市伝説のメリーさんとして伝わっている話と同じように振り向いたらなのは変わらないようね。私は大事なことを忘れていることに気付いていなかった。「いやぁーーーーーーーーーお義母様、どうして、どうしてーーーー」この悲痛な叫びで、出雲美和は刑事として致命的なミスをしていたことに気づくのであった。
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