ドッペルゲンガーからの宣戦布告

 村田環の遺体に布を被せて、現場保存を終えた私たちは、とても食べる気にはなれないが朝食を取ることとなる。桜道筋が作る間、一旦精神を休める形でそれぞれが部屋へと戻る。私もミヤマザクラの間へと戻り、少しゆっくりしていた。変な夢を見たせいもあるのか疲れてウトウトとそのまま眠っていた。プルプルプルと内線電話の音で目が覚めた私は、電話に出た。誰の声か判別つかないようにだろうか。機械音が流れる。

「サキホドハ スバラシイ スイリヲ キカセテ モライマシタ。アナタノ スイリドオリ ワタシガ ドッペルゲンガーダ」

 この桜庵には各部屋に内線電話が搭載されている。その内線電話から聞こえる声に私は返す。

「誰なの?」

「ソレヲ イウト オモウノカ?ダガ ドッペルゲンガーヲ カイイデハ ナイト ミヌイタ アナタノ コトヲタタエ ゲームヲ シテヤル。メリー トオナジク アトフタリ コロス ヨテイダ。メリー ニオクレヲ トルワケニハ イカナイ。ミゼンニ フセゲル モノナラ フセイデ ミルガ イイ」

「待ちなさい。ターゲットは誰なの?」

 私の言葉に返答はなくガチャッツーツーという音を立てて切れてしまった。

「宣戦布告というわけね」

 良いわ。乗ってあげる。メリーさんと違いドッペルゲンガーの方は確実に人間である。人間なら捕まえることも可能だ。向こうは刑事の私相手にビビるどころか逆に宣戦布告をしてきた。自己誇示欲を刺激され、腹が立ったのだろう。今度は刑事相手に予告殺人を成功させて自己誇示欲を高めようという腹積りだろう。だが、ヒントも何もなし。殺人をゲームという点には嫌悪感しかないがゲームという割には、一方的にあと2人殺すという情報だけである。まずはターゲットを探すところからだ。恐らくドッペルゲンガーが次に行動を起こすのはメリーさんが動いたあとだ。先程の電話からもメリーさんに対する対抗心が垣間見えた。だが現時点ではメリーさんの方は防ぎようがない。あの奇妙な夢で見たことが真実なら。あんなに倒してやると息巻いていた木下散梨花が成す術もなく、何度も刺されて血を流しながら磔にされたのだ。だがメリーさんの方はターゲットは明らかだ。だから山里愛子と竹下育美には、警戒するようには伝えた。だが正直気休め程度だろう。恐らく『アナタノウシロニイルワ』で振り向くことがメリーさんが殺人を起こせるキーワードだと思うのだが正直わからない。現状メリーさんに関しては、防ぐことはほぼ不可能と見て良い。本人たちに警戒してもらうしか手立てがない。刑事として心苦しいが怪異となると対処法がほとんどないのが実情だ。某SF映画のように幽霊を吸い取ったりとかできる機械など無いのだ。だが怪異には対処法が存在する。それが死に至る道程を踏まないということだ。メリーさんならそれはきっと『イマアナタノウシロニイルワ』これで振り向いたらが発動条件だ。断定する材料はないが奇妙な夢で見た木下散梨花は振り向いたあと身体が固まったかのように動かなくなり、メリーさんの手のひらの上でいとも簡単に殺された。だから決して振り向かないように念を押しておいたがどうなることやら。プルプルプル

「もしもし」

「あっやっと繋がりましたね。何度かけても電話中で繋がらなかったので、お料理ができました。食堂へ来てくださいませ」

 電話は女将の桜舞であった。どうやら料理ができたようだ。遺体を見た後にとても食える状況じゃないが何か腹に入れておかないと行けないだろう。私は食堂へと向かう。食堂では、皆一様に暗い顔を浮かべてはいるが席についていた。桜道筋が料理の説明をする。

「とても食える精神状態じゃねぇのはわかってるつもりだ。大根の味噌汁と鯖の味噌煮と白米だ。これなら食べられるだろう」

「腹が減っては何とやらと言いますもんね」

「この中に環を殺したやつがいるんじゃぞ。一緒に食えると思うか?無理じゃ。この料理にも毒が入ってるかもしれんじゃろ」

「オッサン、料理にケチつけんなや」

「そういえばお前は入り口で環のことをババアと言いやがったな。お前が殺したんじゃろ」

「何でそうなんだよ」

「兄貴、気持ちはわかる、、、が犯人に怒りを感じているのは俺も同じだ。犯人を探すためにもエネルギー供給は必要だろ。それに俺たちも収穫を手伝った野菜に毒が仕込まれてるならそれこそ皆殺しだ。そんなことする犯人なら食堂にこねぇよ」

「アッシも同感ですねぇ。メリーさんはともかく。ドッペルゲンガーは殺人に拘りを持っていると見受けられます。皆殺しはその拘りに反している気がしますねぇ」

「ケッ、わかったよ」

 私がドッペルゲンガーを利用した殺人だと犯人はこの中にいると言った事により、食堂は殺伐としていた。

「美和、大変ね。私も書き込みとか手伝うから何でも言ってよね」

「俺も大和のことで世話になった恩を何処かで返さないといけねぇって思ってたんだ。何でも言ってくれよ」

「ありがとう山波さん。楓。何か手伝って欲しいことがあれば相談するね」

 2人とも頷き返す。林田勲と大女将の桜華。女将の桜舞と旦那の桜道筋。そして地下にいた山里愛子と竹下育美も食堂で飯を取っていた。山里愛子と竹下育美は木下散梨花を殺したと考えている女将の桜舞を睨みつけていた。重い空気が漂っていたが特に何か起きる事もなく食べ終わり、それぞれが戻っていく。話を聞きたい人には私が直接訪ねることになっているので、桜舞・村田力持・村田力待の3人には部屋で待機してもらうことをお願いした。さぁ、村田環殺害事件の聞き込み調査と行きますか。

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