死のメッセージ
私が今回の被害者が出てくる怖い夢を見て、身体の震えがおさまらない中、「キャーーーーーーーー」という叫び声が聞こえ、重い足を引き攣り声の聞こえた方へ向かうと、入り口で腰が抜けている桜舞。変わり果てた姿となった村田環の側で、義姉さんと叫び泣き崩れている村田力待、その横で握り拳を作り、必死に涙を堪えている村田力持がいた。
「皆さん、現場の保存が大事です。一旦離れてください」
事件が起こったことで、ある程度冷静さを取り戻した私はすぐに現場保存の指示を出し、その場にいた面々に話を聞いた。
「桜舞さん、貴方が第一発見者で間違いないですか?」
「えぇ」
「どうして、同室の力持さんや力待さんではないんでしょうか?」
「ぐっすり寝てたんだ」
「えっ?」
「物音も何もせんかった」
「えっえっ?2人とも同じ部屋にいたんですか?」
「あぁ」
「そうじゃ」
物音がしなかったとはいえ。同室で殺人事件が起きていて、全く気付かないなんてことがありえるだろうか?もう少し詳しく聞いてみよう。
「同じ部屋で殺人が起きていたんですよ。気付かないなんてことがあり得るでしょうか?」
「確かに同じ部屋にいたが、この部屋で殺人が起きたとは考えられんじゃろ」
その言葉に桜舞さんに呼ばれて看護師として見様見真似で検死をしていた南野天使が頷く。
「力持さんの言ってる通り、ここで殺人が起きたとは考えられません。死因が失血死の割に出血量が明らかに少ないんです。恐らく何処か別の場所で殺されて運び直されたのが正しいでしょう」
そんな馬鹿な!?あれだけドッペルゲンガーに警戒していた環さんが不審な呼び出しに応じるとは思えない。警戒の必要のない相手だった?それは村田兄弟が犯人だと結論づけているようなものだ。だが当の2人の様子に人を殺したようなそぶりは見えない。誰が環さんを殺害したのだろう。その時目線が下に向くとそこには1732127010314043と謎の文字が書かれていた。そこにようやく皆んなが集まり、ドッペルゲンガー事件を探っていた臍鬱探偵が興奮したようにその文字を見ていた。
「あなたのいのちをちょうだいしました。紛れもなく巷で騒がれているドッペルゲンガーの仕業ですねぇ」
「あまり詳しく知らないのですがこの辺りで噂になっているドッペルゲンガーは564219という文字だけを残すのではないのですか?」
「おや刑事さんは、ご存知無かったですか?ドッペルゲンガーは殺す相手に564219という文字を残し、殺した後は1732127010314043という文字を残すんですよ。まるで殺してやったと自慢するかのようにですがね」
成程、巷のドッペルゲンガーは、偽物で間違いない。本来ドッペルゲンガーとは生霊の類であり、自分自身に訪れる死の前兆とされる。そうドッペルゲンガーを見たら死ぬのではなく。あくまで、訪れる死への前兆なのだ。前兆ということは回避することもできる。だが人というのは自分の生き写しを見ると何もできないものだ。人から何処何処にお前いたよなと言われて、思い当たったことはないだろうか?そこに行ってないのに何でと。それは恐らく別の世界線でそこに行った自分の亡くなった姿なのである。本来ドッペルゲンガーとはとは訪れる死を回避してもらいたいという精霊だと私は考えている。ところが巷で噂になっているドッペルゲンガーは、自身が殺人を起こしている。そして、世間に広く知られるように痕跡を残している。これは明らかに自己誇示の現れだろう。殺人に快楽を覚えているシリアルキラー。あくまで人間の犯行によるものと考えて良いだろう。それと同様に村田環を殺害した犯人はこの中にいるということだ。それは同時にこの桜庵には怪異のメリーさんと殺人鬼のドッペルゲンガーがいるということだ。
「知りませんでした。だとしたら厄介ですね。私たちはメリーさんとドッペルゲンガーという脅威に晒されているわけですから」
「どうしたら良いのかしら?」
「私はドッペルゲンガーは人だと考えています」
「何当たり前のこと言ってんだよ」
「人じゃなけりゃなんじゃというんだ自分そっくりなんじゃから人なのは間違いなかろう」
村田兄弟には伝わらなかったようだ。軽く咳払いをして言い直す。
「失礼しました。私の言い方が悪かったですね。ドッペルゲンガーを装った殺人鬼だということです」
「なんじゃと!?」
「何だって!?」
「ほぅ、面白いことを言う刑事さんですなぁ。どうやら確信があるようですし、是非ドッペルゲンガーを探っている探偵としては知りたいですなぁ」
「えぇ、お聞かせしましょう。ドッペルゲンガーは見たら死ぬ。これを用いて、犯人はターゲットそっくりに変装して、殺人を繰り返しているんでしょう。犯行メッセージというサインを残すあたり自己誇示欲の強さも窺えます。ですがこれはドッペルゲンガーの側面でしかない。本来ドッペルゲンガーとは、死を回避してほしいと願う形が姿となり、現れているのです。別の世界線で亡くなった自分自身が教えてくれているのです。その証拠にこんな体験をしたことはありませんか?友達に誘われたけど気が乗らなくて断ったけど翌日友達から『お前俺の誘いを断っておいて、なんで同じ場所にいんだよ。それにいるなら声かけろよ』って、それは恐らくその時そこに行ってる別世界の自分がそこで死んだその経験が何かしらのイメージとして、訴えかけていたとね」
私の説明を聞いた面々の中には頷く者が居た。私はこの説明がドッペルゲンガーの自己誇示欲を傷つけたことをまだ知らなかったのだ。
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