夢の中でメリーさんに追われる

 美和は眠りにつくと不可解な夢をみる。

「散梨花、マジでこのままで大丈夫かな?」

「何、育美ってば、あんなイタズラ騒ぎ本気にしてんの。マジありえなくない。ドッペルゲンガーとかいるわけないじゃん」

「でもさでもさ。巷では死んでる人もいるって言うじゃん。不安なんだよね。愛子も不安でしょ」

「うんうん」

「アンタらさ。巷の噂話に本気になりすぎ。それにさドッペルゲンガーの犯行声明の時、アタシらさ、非番で居なかったじゃん。どうせ女将が人気稼ぎのためにやったとかでしょ。あの女の浅はかな知恵ってやつよ。子供産めなくなったら大女将に追い出されると思ってたのに居座りやがってムカつくってのよマジで」

「でも、ほんと上手いことやったよね。3人で代わる代わる身重の女将に仕事押し付けてさ。そのせいで階段から踏み外して、流産だもんね」

「ホントにね〜。それに最後にやったのは愛子だから。1番恨まれんのは愛子だし」

「そんな酷いよ〜散梨花ちゃん」

「はいはい。というかいつも出しすぎなんだよ。なアイツ。垂れてきてるし、トイレ行ってくるわ」

「そこは、可愛くお花摘んできますじゃないの?」

「可愛さとか要らんやんアタシらだけやし」

「それもそうだね」

「ねー」

 散梨花に育美に愛子?散梨花は、今回の被害者である木下さんのことよね。育美は、竹下さんのことだろうし、愛子は山里さんのことよね。私は木下散梨花さんになっているってことかしら?それって、この後ヤバいことになるんじゃないかしら?夢の中だというのに冷静に推理しようとする美和であった。夢の中では、木下散梨花のメールに不審なメールが届く。その文面には「私メリーさん、今暗いところから出たのよ」と書いてあった。

「メリーさんって、入り口に飾ってる女将が大事にしてるビスクドールだろ。今度はイタズラメールを個人に送ってくんのかよ。マジでムカつくなあの女将。階段から突き落としてやろうかマジで」

「散梨花、どうしたの?」

「ごめんごめん。イタズラメールが来てさ。早くトイレ行って、中の掻き出して寝よ」

「露骨すぎ〜」

「すぎ〜」

「マジでアイツ、量多いんだよ。ピル飲んでなかったらマジで妊娠しちゃうっての」

「そっか、散梨花は妊娠する気無いんだもんね」

「あんな奴の子供とかごめんだわ。あっちの相性は良いけどさ。セフレで充分って感じ。妊娠しなけりゃ使い放題だし。割り切りってやつ」

「育美や愛子はそのうち妊娠するんじゃね。そしたら新しい女将か。給料上げ上げでたのんます」

「考えておいてあげよう散梨花君」

「アザッス」

 クスクスケラケラと笑い合う3人。そこにまたメールが届く。「私メリーさん、扉がたくさんあるところには出たの」と書いてある。

「さっきより近づいてない。マジで、2人には届いてないみたいだし巻き込めねぇよな。どうせ女将のイタズラだろうし、1人で対峙して、殴るのがはえーし」

「どしたの散梨花?」

「なんでもなーい」

 トイレで出すものを出した3人は地下室へと帰ろうと歩いていた。そこにメールが届く。「私、メリーさん。今イスから立ち上がったところなの。凄いねこのイス。人がいなくなると勝手に流れるんだね。不思議〜」と文面に書いている。

「はっ?コイツとすれ違わなかったはずだよな。トイレからここまでほぼ一本道、すれ違ってねぇのにコイツなんで今トイレから出てきたんだよ。しかもだいぶ近づいてんじゃねぇか。育美と愛子を巻き込むわけにはいかねぇな。ちょっと誘導して、入ってきたところをぶちかましてやるとすっかね」

「どしたの散梨花?」

「なんかさ従業員室に忘れもんしてたみてぇだからさ。とってくるわ。アンタたち先に帰っといてよ」

「わかった〜」

「た〜」

 2人と別れた散梨花は従業員室へと入り、息を潜めて、何者かが入ってくるのを待つ。だが一向に現れる気配はない。

「なんだよ。やっぱりイタズラかよ。あの女将マジでムカつくぜ」

 帰ろうとする散梨花。そこにメールが届く。「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」と書いていた。

「後ろって。はっビスクドール!イッテェーーーーーーーー。なんで、浮いて?しかも包丁ってマジかよ」

 何度も刺され、絶命した木下散梨花が空中へとぶら下がる。柱の左右に括り付けた糸と手足を括り、ピント張ったその姿はまるで磔のようだった。下にはいろんな箇所を刺されたことによる血溜まりができていた。そこで目を覚ました美和の下半身はぐっしょりと濡れていて、メリーさんに追われるというあまりの恐怖体験に身体の震えがおさまらなかった。なんでこんな夢を見たのかもわからない。だがこれが真実だとしたら入り口のビスクドールが木下散梨花を殺したのは間違いない。そして、それを操っているものなど居なかった。あのビスクドールは意志を持ち動いているということだ。こんなに恐ろしいことはない。美和は自分で自分を抱きしめ身体の震えがおさまるのを待つしかできなかった。そこに「キャーーーーーーーー」という叫び声が上がる。どうやらまた事件が起こってしまったのかもしれない。身体の震えをなんとか抑え込み重い足取りで、声の聞こえた方へと向かう美和が見たものは村田環の変わり果てた姿だった。

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