より詳しく話を聞く必要性がある

 私は、山里愛子と竹下育美の話を聞いても2人が女将の桜舞につかみかかった理由がわからなかったので、先ほど聞いた話を頭の中でまとめる。そういえばビスクドールが悍ましい声で言ってた言葉。まさかそういう事なの。でも、そう考えなければ2人が桜舞につかみかかる理由の説明が付かない。だとしたら桜舞は、初めから子供が産めない身体ではなかった。何かしらの原因を作ったのが今回被害者となってしまった木下散梨花、そして山里愛子と竹下育美ということになるわよね。桜舞が大事にしていたビスクドールに子供の魂が宿り復讐をしている。そんなことあり得るのだろうか?そこで意識を戻すと山里愛子と竹下育美は桜舞を睨みつけながら言う。

「アンタじゃ無いなら誰があのビスクドールを操れるって言うのよ。それにそもそもかが持ってるのもアンタだけじゃ無い。あんな頑丈に特注で作って、あの人形を壊してやろうと色々したけどあのショーケース傷一つ付かなかったわよ」

「そうよそうよ」

 2人の話を受け止めながら戸惑う桜舞に助け舟を出す男がいた。

「それは、でもメリーが動くなんて、そんな」

「まぁまぁ、その辺にしときなさいや」

「煩いわよ。アンタ誰よ」

「こりゃあすいませんね。桜道筋様にドッペルゲンガーの調査を頼まれた探偵で臍鬱仁丹って言いやす」

「変な名前の探偵が何よ」

「何よ」

 臍鬱探偵は山里愛子と竹下育美に自己紹介をすると、語り始めた。

「まぁまぁ、聞いてくださいや。大事にされた人形には魂が宿るって話を知ってやすかい?」

 臍鬱は、皆が首を捻るのを見て、続きを話し始める。

「おや、知らない。では、これはアッシが体験した話なんでやすがね。ある老夫婦が大切にしていた人形様があったんでやす。その人形の髪は伸びるし、表情が変わるんでやす。勿論、絡繰人形ってオチでは無いでやすよ。伸びたら髪を切ってやる老婆を見たアッシは、聞いたんでやす。どうして、不思議に思わないのかってね。そしたらねその老婆は笑いながら『この人形様には魂が宿っておられるんですよ。座敷童様のね』ってそう言いながら丁寧に髪を整える老婆に人形様が笑いかけたんでやす。その人形は家の人に危害を与えることなんてありませんでしたがね。入り口の人形様も同じでありやしょう」

 臍鬱探偵の話を聞いた山里愛子と竹下育美が異議を唱える。

「死人が出てるのよ」

「危害加えてるじゃ無い」

 山里愛子と竹下育美の異議を聞き、臍鬱探偵が返答を返す。

「勿論、あの人形は女将さんのものでやすから女将さんに対して危害を加えないって話でやす。まぁこう言い換えられますがね。女将さんに危害を加えたことを人形が知っていて、復讐していると。まぁアッシのただの推測でやす」

「私たちが何したってのよ」

「そうよそうよ」

 臍鬱探偵の話に納得できない山里愛子と竹下育美が尚も抗議していた。それを素知らぬ顔で受け流す臍鬱探偵。話を聞いていた阿久魔が思い出したように言う。

「おい、待てよ。そこの女が死んだのって深夜2時頃なんだよな?じゃあ、そこの女には犯行は無理だぜ。俺、ちょうどその時間にトイレに起きてよ。そこの女の部屋の前を通ったんだが、部屋が少し空いててよ。中で寝てるそこの女を見たんだよ」

 阿久魔の話を聞いた桜舞が首を捻るが桜道筋が空いてた理由を話す。

「部屋が空いていた?」

「俺が開けっぱなしにしちまったんだろう」

「成程、3人と密会をしに向かった時に少し空いたまま出たってことよね」

「あぁ、その通りだよ刑事さん」

「開き直ってんじゃ無いよ。この馬鹿息子」

「フン」

「まぁまぁ、桜舞さん・桜道筋さん・山里愛子さん・竹下育美さんにはまだ話をお聞きしたいのですがここからはかなりプライバシーの話になってくると思われますので個々にお呼びして、話を聞かせてもらえたらと思います。そして、木下散梨花さん殺人事件については、ドッペルゲンガー事件とは無関係であると考えられますがあのメッセージの意図もわかってない今、勝手な行動だけは慎んでください」

 私の言葉に皆が頷くとそれぞれの部屋へと戻っていく。鈴宮楓が話しかけてくる。

「大変な事になっちゃったね美和」

「楓も楽しい旅行だったのに散々ね」

「まぁ宇宙の意外な一面も見れたし、でもあの若旦那は無いわ〜女を何だと思ってんのよって感じ。記事に書いてやる」

「アハハ。私も偶然とはいえ楓や山波さんと一緒で心強いよ」

「そう言ってもらえると嬉しいわね宇宙」

「あぁ、そうだな。何かあったら何でも言ってくれ出雲さん」

「えぇ、頼りにさせてもらうわね」

「任せてくれ、楓、そろそろ俺たちも帰るぞ」

「うん。じゃあね美和」

 お互い手を振り別れる。私も今日は話を聞いてだいぶ疲れた。明日以降は、個別に話を聞いて、事件を解決しないとだなぁ。ビスクドール殺人事件か。私が解決しないと。そしてこれ以上の殺人を未然に防がないと。覚悟を決めた私は疲れた身体を部屋の露天風呂で癒して、眠りへとつくのだが不可解な夢を見るのだった。

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