受付で争う男たち
言い合いをしている片方は先程部屋の前で私にガンを飛ばしてきた阿久魔弥吉だ。もう1人は初老の男性だろうか。恐らく大浴場で聞いた番頭の林田さんだろう。
「おい、帰らせてくれって言ってんのになんで帰れねぇんだよ。あぁ。テメェ舐めてんのかよ。ジジイでも容赦しねぇぞ」
「お客様、何度も申している通り。警察からイタズラかどうかわかるまで1週間前に泊まっていたお客様、若しくは1週間前以上から予約を取られたお客様は帰せないことになってるんです。だからお客様が本来取られていた以上の連泊分はこちらも貰わないので、どうか今しばらく警察からの回答をお待ちください」
「だから、その警察の回答を待ってる間に殺されるかも知れねぇだろ。俺はそんなのはごめんだから帰るって言ってんだよ。もう良いぜ。勝手に出て行かせてもらうからよ」
「お客様、お待ちください。チッあのクソガキが勝手なことしやがって。どうなってもしらねぇぞ俺は」
出て行こうとした阿久魔だが入り口で3人の男女にあたって転がる。
「おぅすまねぇなにぃちゃん。俺の身体がお前を軽く押し退けちまったようだぜ。ガッハッハ」
「あらー可愛い坊ちゃんね。オネェさんとい・い・こ・としましょうか?」
「揶揄ってやるなよ。タマキ」
「なーに、嫉妬してるのかしら可愛いわね。私のカ・レは」
「おいおい、俺のことも忘れてくれるなよ。ガッハッハ」
「勿論よ。ア・ナ・タ」
いやいや聞き捨てならない言葉が飛び交ってたような。アナタと呼ばれていた方は旦那さんよね。それにカレって呼ばれてた方は、えっ夫公認の不倫相手!?えっえっ私の感覚がおかしいのかしら。何どんな状況よこれ。
「ババアと寝る趣味なんかねぇよ。さっさとそこ退けや」
「まぁ、ガキが調子に乗らないで欲しいわね」
「ガッハッハ。おい坊主。どこ行く気だ?」
「坊主じゃねぇ。阿久魔弥吉だ。ここから帰るんだよ」
「阿久魔か。ガハハ」
「残念だがよ。帰れねぇんだわ。ここにくる唯一の橋がよさっき老朽化で落ちちまったのさ」
「これで、警察からの連絡もこねぇ。ここは文字通り陸の孤島と化したのさ」
「イヤーン、私こわーい」
「安心しなタマキ。俺が守ってやる」
「流石私のカレピ」
「ガハハ。もちろん俺も守ってやる」
「この屈強な男たちがいればドッペルゲンガーなんて怖くないわね」
「俺たちはそのドッペルゲンガーを捕まえにきてんだぜ。お前があまりにも怯えるからよ」
「全くじゃガハハ」
「そんな、橋が落ちただって!?俺はどうしたら良いんだ」
「阿久魔とやら、大人しく部屋に帰って、あのデカチチ女のおっぱいでも吸ってるんだな。ガハハ」
「おうおう。あのデカチチ女に癒してもらえや」
「オネェさんが癒してあげようかなんてもう言わないわよ。私のことをババア呼ばわりしたアンタなんてこっちから願い下げよ」
3人が受け付けで林田と話す。
「おぅ林田の爺さん。今戻ったぜ。ホラよ」
「すみません。従業員でもないお2人に畑の収穫と魚釣りなんて頼んでしまって」
「良いってことよ。困ったらお互い様だろうぜ。ガハハ」
「えー、私はあんな泥臭いことやりたくなーい。待つのも退屈でイヤー」
「まぁまぁ、タマキ。林田の爺さんのお陰で、連泊分タダになったんだからよ。これぐらいの手伝いしとかないとお天道さんも微笑んでくれねぇぜ」
「ガハハ。そうじゃそうじゃ。タマキは、ただおるだけでええけぇ」
「まぁそういうことなら」
3人が食堂に向かおうとする私たちに気付いた。
「おぅぺっぴんさんじゃねぇか。どちらへ」
「オネェさん可愛い女の子もイケるわよん」
「ガハハ。2人とも自己紹介もせんとすまんな。ぺっぴんさん御一行。ワシは
「俺は
「私は
「これはこれは、食堂に向かわれるところでしたか。それではこの
「私は鈴宮楓よ」
「私は出雲美和です」
「臍鬱仁丹だ」
「山波宇宙」
私は呆然としている阿久魔に声をかける。
「阿久魔君だったかしら。帰れないなら仕方ないじゃない。一緒に食堂でご飯を食べましょう」
「お前は、さっき部屋の前であった女か。わかったよ。帰れないなら仕方ねぇからな。天使を呼んで後から向かうから先行っててくれ」
「わかったわ」
私たちは阿久魔と別れて食堂へと向かう。
「へぇ、じゃあ、オッサンたちは大工なのか」
「おぅよ」
「そうじゃ。妻のタマキがあまりにもドッペルゲンガーに恐れるもので、なら捕まえりゃ良いと思ってな」
「脳筋思考ね」
「ガハハ。恐れるという事は実態があることを知ってあるからであろう。ならば捕まえられるものだ」
「何故そこまで恐れるのかしら?」
「昔、本で読んだのよ。自分のドッペルゲンガーを見たら殺されるって。私見たのよ。私の姿をした誰かが私を殺しにくるそんな夢を。正夢になるんじゃないかって怖くて怖くて」
夢を見たから殺されるってどんだけ常識ないのよこの女。それに付き合わされるこの2人も可哀想だけど。
「ここが食堂でございます。それでは入るとしましょう」
私たちは食堂へと辿り着くのであった。
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