大浴場の外で出会った男
私と楓は浴衣へと着替えを済ませると大浴場の外へ出る。外では楓の彼氏である山波さんが誰かと話していた。
「へぇードッペルゲンガーの調査を頼まれてやってきた探偵か」
「あぁ、ここに数日前から泊まってるんだがね。全くといっていいほど何も起こらないし、手掛かりもなし、誰かのイタズラと断定するにしても物的証拠もなくてねぇ。俺には全くお手上げだよ。ハッハッハ」
「探偵ってのは関係ないやつにばらばらしゃべるもんなのか」
「桜さん、こりゃ、すみませんねぇ。なんせ手がかりが何もないですから。こうなったら自分の身分を明かして協力を願った方が早いかと思いましてね」
「フン。こんな事なら。警察に相談に行った時に紹介された怪奇特別捜査課とかいう変な部署に相談するんだったな」
今、貴方が変な部署とか言った人ここにいますけどね。
「桜さん、まぁまぁ、なんとかして見せますから。もうちょい待ってくださいや」
「フン。山波様だったか?変な探偵に付き合ってもらって悪かったな。俺は
「もうそんな時間かよ。楓、長風呂かよおせぇな」
「遅くて悪かったわね宇宙」
「うおっ居たのかよ」
「何よ。そんなに見つめないでよ」
「キレイだ」
「えっ、やめてよ人前で」
「こりゃあお美しい方々ですね。初めまして、俺は探偵をしている。
「これは御丁寧な挨拶ありがとうございます。私はこういったものです。ドッペルゲンガー?」
楓は私にも渡してくれた名刺を探偵に渡す。
「名刺いただきますね。鈴宮楓さんっと。へぇ、フリーライターさんでしたか。でもドッペルゲンガーのことを知らないとなると新婚旅行ですかな」
「新婚旅行なんて」
楓は嬉しいのだろう顔を赤らめている。
「あっすみません。私は役所で公務員をしています出雲美和と申します。ドッペルゲンガーとは?」
警察も役所と変わらない公務員と名乗ったが嘘は何一つ付いていない。それにドッペルゲンガーのことを探っている探偵なのだ。知らないフリして情報を集めるのが良いだろう。
「564219というドッペルゲンガーの貴方を殺しに行くという犯行声明が巷で出回り、実際に殺されている件をご存知ですか?警察はどうやら通り魔殺人だと断定しているようですが」
おい一課、そういう話はすぐに怪奇特別捜査課に持って来てよ。勝手に通り魔事件って断定するなよ。そこに怪異がって、まぁ警察が幽霊の類を信じるものばかりだと仕事回らない気もするけど。でもこの手の話はうちの仕事でしょうが。と心の中でツッコミを入れておく。
「へっへぇ、そんな事件が」
「なんですがね今回の犯行声明には370が手前についてたらしいんですよ。俺はドッペルゲンガーを調べるにあたり第一発見者で依頼人である桜さんから聞いたんですがね」
「370?」
私の聞き返しに山波さんが答えた。
「皆をかもしれねぇな」
「えぇ俺もそう考えています。ですがこの皆を殺しに行くとは旅館関係者だけなのか泊まっている人間も含むのか。その時のことなのか。現在進行形なのか。全くわかりませんがね」
370564219(みなをころしにいく)か。現在進行形だとしたら山波さんや楓、それに私も含まれていることになる。でもだとしたらどうして1週間も前にその文字が浮かび上がり、現在誰かが亡くなったということも発生していない。そんなことがあり得るだろうか?巷で噂のドッペルゲンガーとの関係性についてもう少し探ってみる必要があるだろう。
「この旅館に文字が浮かび上がったのは1週間前なんですよね?ライターさんの記事を見て」
「あぁ、安藤さんかい。ちょうどここに泊まって時に起こったらしくてね。そこにいるのに、潜入してきます的な感じで書いてた記事だね。そこから連泊して更なるとくダネを書くんだって息巻いてたがね。今もその辺りを彷徨いてるとは思うが」
「成程。ドッペルゲンガーについて、巷と今回とで違うところってありませんか?」
「違う点だらけだからわからないことだらけなんだが」
「例えば?」
「巷の件は、564219という犯行声明が届いてから殺されるまでの期間が1日なんだ。だが今回は誰も殺されてないそれも1週間も全く訳がわからない」
やっぱり今回もどちらか偽物ということだ。それも今回に至っては明らか。ここに書かれた犯行声明の方が怪異ドッペルゲンガーを語る何者かということだ。それも書けたのは1週間前に泊まっていた誰か。もしくはこんな事を考えたくはないが従業員の誰かだ。いずれにしても書いた犯人はまだここにいる。それだけは確かだ。なら、警察官として私がやるべき事は、犯行を未然に防ぐ事。そのためにももっと詳しい話を食堂で集まるみんなから聞くべきだろう。
「成程、よくわかりました。続きは食堂で皆んながいる時に聞かせていただいても?」
「あぁ、構わんよ。こっちもお手上げだ。有益な情報が手に入るなら良いがな」
スタスタと食堂へと向かう私たちは受付で争う声を聞くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます