☽第四夜 融合

メタモルフォーゼ

 そこへ紅白から成る綱が出現した。

 光へ螺旋状に巻き付けると、等間隔で付いた鈴が遠心して鳴り、その響いた音で睡蓮の悲鳴はいとも簡単に掻き消されていく。

 今すぐにでも睡蓮の元へ飛び込んでしまいそうな昂だったが、その光景は瞬く間に消失。先程の立ち位置のままで、三人は姿を現した。


「睡蓮! 無事か⁉」

「は、はい。ですが……」


 二人は目を白黒させた。

 昂は睡蓮の足先から順々に、睡蓮は腰を左右に捻って自身の格好を確認する。


 肩が大きく開いたパーカーと、ミニスカートの上下。どちらも色は白だ。

 パーカーは着物のように袖下があり、その下部には袖口や裾と共に、黒地が直線に縫われている、いわゆるバイカラーの模様が入っていた。

 スカートは絹のような光沢と滑らかさを兼ね備えた生地で、全体にひだが付けられたプリーツ加工になっている。パーカーが太ももの辺りまで丈があるため、見えているのは裾が覗く程度。

 膝上まであるソックスは足袋の仕様で、赤い下駄の鼻緒には鈴が付き、睡蓮が足を運ぶ度にしゃんしゃんと音を鳴らす。


「これが融合というものなのですね」

「って睡蓮! 頭に付いてるのって!」


 昂は、睡蓮の頭上に生える尖った二つを見て驚く。それは昂の声に反応するように動いた。


「へ?」と、きょとんとする睡蓮の両脇から、同じものを生やす狐たちが答える。

 狐たちも装いだけでなく、幾らか背も伸びて心なしか顔付きも大人っぽく変化していた。


獣耳けもみみ~。毛色はそのまま巫女さまの髪色で黒だけど、ボクたちとお揃いだね♡」

「ああ。それにこの絶対領域、サイコーかよッ。しかもオレ色なんて、かっわい~♡」


 白狐は右耳を、黒狐は左側からスカートとソックスの間に出来た隙間を、同じタイミングで突っつく。


「ひゃあ」

「こ、こらっ。ツンツンするな!」

「昂。気持ちはわかるが、お前も怨霊を迎え撃てるよう心を備えろ」

「フン。屋敷にも近付けない、低級霊ばかりのようだがな。挨拶代わりと言ったところだろう。だがこちらの力を知らしめるのには都合が良い。では陽の巫女、行くぞ!」


 そう言って太秦は魔法陣を展開させた。壁や装飾品など、室内を構築していたものは全て窓外にあった風景へと入れ替わる。


 床まで透け始めると、昂と睡蓮は慌てて手をバタつかせた。空が足元にも広がったからだ。

 ここが宙に浮かんでいたという事実よりも、地面に真っ逆さまに落ちてしまうのではないかと二人は恐怖していた。

 しかし橋が架かった。

 地に足が着くと、呼吸を整える間もなく狛を先頭にしてその橋を駆けていく。

 渡り切ると、光で出来た柱のようなものに飛び込んだ。そして浮遊しながら、睡蓮たちは地上へと降り立つのだった。


 辺りを見渡すと、遠くの方で紫の瘴気を纏う、鈍色にびいろをした重々しい何かがうごめいていた。


「美月、怖いか?」

「こ、怖くないと言ったら嘘になりますが、でもそれ以上に私は……」


 睡蓮は瞼を閉じると胸に置いた手を、きゅっと握り締める。


「言葉は要らない。お前のその真っ直ぐな思いが俺たちの力になる」

「出しゃばりすぎでしょ、狛。巫女さまは今、ボクたちと融合しているんだから♡」

「そうそう、白狐の言う通り。巫女さまの曇りのないピュアピュアな心は、オレたちが一番ビンビンに感じちゃってるんだよな! すっげぇぇ内側から溢れそうになるくらいに! ね♡」


 二人は振り返ると、睡蓮とお揃いの手甲てっこうの稲柄を見せるように、白狐は右手を、黒狐は左手を拳に変えてニッと笑った。


「さあさあ巫女さま、前置きはこれくらいにしてさ」

「一掃してやろうぜ!」

「はいっ、白狐くんに黒狐くん。それから怨霊さんも、よろしくお願いしますっ」


 睡蓮は真剣な面持ちでそう言うと、小さな膝に手を重ね合わせ、丁寧に頭を下げる。


「うわ。敵に向かってお辞儀しちゃうとか、巫女さまってば変わってる!」

「だけどそういう属性もモーションも、オレは好きだぜ!」


 いささか妙ではあるが、三人の中で団結が出来ているようだ。


「「そんじゃあ、化かしにいきますか‼」」

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