異人の青年
低音の声。昂のものではない。むしろ睡蓮から聞こえてきたように思える。
二人は見つめ合ったまま固まった。しかし昂の何か言いたげな視線に、睡蓮は堪らず首を振った。
「い、いいえ私は何も……ひゃっ!?」
「うわっ!」
同時に声を上げた。睡蓮の胸の内側から何かが飛び出てきたからだ。
しかし昂はすぐに自分の胸元に手を忍ばせると、生成り色をした古めかしい
「やっぱり行くんだよなぁ睡蓮。なら絶対に俺から離れるなよ……!」
「はい……!」
周りを警戒しつつ、大鳥居を潜って境内に続く石段へ足を掛けた。
『この程度で
声が聞こえた直後、二人の眼前に広がっていた景色だけがぐわんっと歪む。まるで両端から圧縮されたかのように、階段の
「昂くん……」
「大丈夫だ睡蓮。お前は俺が必ず護ってやる」
背中の着物を掴んで不安げにぴたりとくっ付く睡蓮に、昂はそう力強く言った。
「こ、コロンは」
「ああわかってる。ちゃんと連れて帰ってやろうな」
普段と変わらない態度で優しく接する昂のお陰で、睡蓮は強張りながらも緩やかに口角を上げて頷くことが出来た。
そして声に導かれ、なんとか精神を保ちつつ石段を上りきった二人だったが、そこでさらに
巨大な
「な、なんだよこれ!? こんなのうちにないぞ!?」
「あっ昂くんっ、あそこに居ますのは先ほど廊下で見たカラスさんです!」
その鳥居の真ん中で声と入れ替わって現れたのは、一匹のカラス。足が三本あり、体長は通常のものよりも
突如現れたそのカラスが、けたたましく鳴きながら翼を広げると、なんとも異様な存在感は強大に際立つのだった。
二人が圧倒されている中、翼から散った無数の羽根が素早く螺旋を描いてカラスを包んだ。瞬時にして人の姿を
煙が晴れると姿を見せたのは、なんと人間だった。カラスから姿を変えた美しい青年が、そこに佇むのだった。
青年は睡蓮に向けて不敵な笑みを浮かべると、自身の胸に手を当て頭を下げながら片膝を着いた。
「我が名は
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